BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『デジタルネイティブの時代』/平成生まれ社会人 VS 現代社会人【書評】

平成元年生まれ世代が社会人になる2011年、大きな社会変革がおこるという
ブックレビュー

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『デジタルネイティブの時代』

評者:森野 真理(ライター)

デジタルネイティブとノンネイティブとの超えられない壁を冷静に分析
ビジネスチャンスは「ケータイ」と「動画」でひらける

デジタルネイティブの時代
  • 木下 晃伸 著
  • ISBN:978-4-492-55641-2
  • 定価:1,500円+税
  • 東洋経済新報社

2011年、「デジタルネイティブ」世代が社会人になる。本書によれば「デジタルネイティブ」とは平成元年生まれ以降の、幼い頃からさまざまなデジタルデバイス環境に触れて育った若者を指すそうだ。彼らは99年に登場したiモードの普及とともに思春期を迎え、ケータイ(携帯電話とは言わない)メールやケータイ経由のインターネットを通じてコミュニケーションを深めてきた。

「デジタルネイティブ」がネットやゲームを共有しながら交わすコミュニケーションの様式や常識は、後天的にパソコンや携帯電話を使い込んできた「ノンネイティブ」とはまったく異なる。本書はデジタルネイティブとノンネイティブとの価値観の違いを指摘し、2年後には根深く、越えがたい断絶が社会に出現すると予測する。

本書では「ノンネイティブ」が知っておくべき客観的な、しかも重要な事実が列挙されており、小見出しや文中のゴシック部分は赤ペンでチェックが必要な“箴言”ばかり。いわく「デジタルネイティブは(メールという時間や空間の制約を排除したツールで逆に)時間と空間を拘束されている」――「日本ではメールによるコミュニケーションが重要視されている(だからメールの使い勝手が悪い『iPhone』は売れ行きが悪い)」――「パソコンとケータイの違いはエンタテインメントにある(デジタルネイティブはケータイでなら、小説も読むし動画も見る)」。

振り返ってみれば、昭和生まれはすでに1億人を切り、一方で平成生まれは2000万人の大台に乗った。著者は「近代日本が経験した大きな社会変革」として、明治維新、太平洋戦争、バブル崩壊を挙げているが、デジタルネイティブの登場は、それらに比肩する大変革となりそうだ。

もう1つ重要なのは、「ノンネイティブはデジタルネイティブのことを決して理解できない」という指摘だ。江戸時代の武士に電話の作法を説明しても理解できないように、ノンネイティブにはデジタルネイティブが日々いそしんでいるケータイメールによるコミュニケーションの機微は理解できない。世代の断絶以上に深いキャズム(溝)がここには横たわっている。

もっとも、楽観的になれば、価値観の決定的な変革は新しいビジネスを生む。ケータイが彼らのコミュニケーションツールだとわかれば、それを活用したマーケティングや営業方法は、従来のビジネスの延長線上で理解できる。デジタルネイティブ世代も流行の服に関心があるし、ドラマや小説を楽しむ。買い物を原宿の店舗でするかネット通販で購入するか、テレビの連ドラかケータイの動画か、書店で本を購入するか課金されたケータイ小説を読むのかの違いなのだ。

著者は、今後のビジネスシーンでは「動画によるアプローチが主流になり」、売れるためには人気アニメなどのように「固有名詞のコンテンツ(=商品)として認知されるべき」こと、デジタルネイティブとの関わりでは「モチベーションを評価することが重要」であることなど、これまでのビジネスの常識をいったん置いて取り入れるべき視点が多くあることを繰り返し強調している。

特に「デジタルネイティブにとってケータイはパーソナルメディア」だという指摘は重要だ。ケータイを通じた信頼関係の醸成や情報の送受信こそが次世代のビジネスを牽引することを理解した者が、市場で勝ち残れる。また、デジタルネイティブといえども、「コミュニケーションの基本はリアルでの信頼関係」に基づいており、ノンネイティブにも十分、新しいビジネス市場での勝機は残されている。

著者の木下晃伸氏は、経営コンサルタント。社会に今後生じてくる「デジタルネイティブ」と「ノンネイティブ」との軋轢を見通し、その背景を分析。さらに、激変するビジネス環境にどう挑戦するか、具体例を交えながら提案している。繰り返しが多く、文章も未整理で若干読みづらさがあるが、「デジタルネイティブとノンネイティブはわかりあえない」という冷徹な提示には成功している。ノンネイティブの自覚がある人こそ、本書を熟読すべきだろう。

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