『ネットでものを生み出すということ』/発想を形にするヒント満載のものづくり活動のインタビュー集【書評】
BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊
『ネットでものを生み出すということ
――電子楽器からプロトタイピングメソッドまで「発想を形にするヒント」』
評者:森山 和道(サイエンスライター)
おもしろいものづくりは、どのようにして生まれるのか
インタビューを読むにつれて、アイデアが触発される刺激的な一冊
本書の著者は、ネットでのものづくりを考えるためには、技術とアイデアだけではなく、開発者当人の考え方や興味など「枝分かれ」の要素もまた必要であると述べている。
この本はさまざまなものづくり活動をしている人たちへのインタビュー集である。収録されているのは、手作りの電子楽器「ウダー」の作者・宇田氏、生ドラムと映像を組み合わせた演奏活動を行っているグループ「d.v.d」、岐阜県大垣にある学校「IAMAS」での新しいおもちゃを作るプロジェクト、JR駅構内でのガムテープによる案内文字「修悦体」の作者・佐藤氏に取材するドキュメンタリービデオを制作して、彼を有名にするきっかけをつくった「トリオフォー」、「ロリポップ」などで知られるpaperboy&co.の代表取締役・家入一真氏、広告戦略会社「サステナ」、京都で活動しているWebサイト制作会社「ワン・トゥー・テン・デザイン」、そして著者自身が非常勤講師をしている京都精華大学デザイン学部の人たちの合計8組だ。
どれもおもしろいので、インタビュー集が好きな読者ならば、一気に読んでしまえるだろう。著者が言うようにものづくりを行っている人たちの発想をたどることもできるが、それ以上に、本書中のテキストが自分の頭のなかでどんどん枝葉を伸ばしていくような感覚が得られる本だ。
たとえば、「d.v.d」は高度な技術を持っているが、できるだけシンプルなアプローチを心がけているという。技術的達成を目的とするあまり、パフォーマンスを見たときに、説明を聞かないとなんだかわからないようなものでは駄目だ、ということだ。当たり前のようだが、これは、実にありがちなミスである。
「トリオフォー」の中心となっている山下氏は、高円寺で古着屋の店長が本業だ。そして日常生活のなかでのふとした疑問や興味をネタに、あまりお金をかけずに楽しんでいる。その過程そのものを活動・作品としているのだ。これは、評論家の鶴見俊輔氏がいうところの「限界芸術」の一種として位置づけられるという。著者によれば「限界芸術」とは、専門でない芸術家が作り出し、一般大衆がそれを享受するという類の芸術だそうだ。トリオフォーのメンバーは「何でもない『その他』を表現したい表現者として、自分たちの興味のあることを形に変えていっている人たちなのだと思います
」と著者は述べている。これは、非常におもしろい捉え方だと思う。
考えてみるまでもなく、いま、ネットの上で人気を集めているコンテンツは、おおかたこの「限界芸術」に分類されるものばかりではないだろうか。
枠組みに捉われることなく、自分自身がやりたいことをやり、それを表現する。言葉で言えばありがちだが、誰でもそんなことができるわけではない。「発想を形に変える」ためにはテクニックも熱意も、継続し続ける根性も、そしてセンスも必要だ。本書に収録されたクリエイターたちの言葉がそのヒントになるかどうか――。それもまた読者次第だ。
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