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セカンドライフよりミクシィが流行る日本の生態系/書評『アーキテクチャの生態系』

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『アーキテクチャの生態系 情報環境はいかに設計されてきたか』

評者:森野真理(ライター)

「ネットワーク=アーキテクチャ」の将来を見据える一冊
「セカンドライフ」より「ミクシィ」が流行る日本社会に切り込む

  • 濱野 智史 著
  • ISBN:978-4-7571-0245-3
  • 定価:1,900円+税
  • エヌティティ出版

インターネットを単なるネットワークの技術ととらえるか、人々のコミュニケーションを根本的に変える可能性のあるツールと期待するのか、社会に変革と混乱をもたらす諸刃の剣と警戒するのか。社会学者から政治家に至るまで、発言者は枚挙に暇がないが、それぞれの立場や理解力や許容度の違いがこれほど異なる評価を産むこと自体、インターネットという「新技術」と、旧来の「現実社会」との抜き差しならない関係を改めて認識させられる。

その中で本書は「アーキテクチャ」と「生態系」を新たなキーワードとして、インターネット上のさまざまなソーシャルウェアの隆盛を、そして日本社会を読み解いている。ちなみにソーシャルウェアとはインターネット上で提供されているサービスやコンテンツのことで、「グーグル」や「ニコニコ動画」「2ちゃんねる」や「ケータイ小説」まで幅広く分析している。

「アーキテクチャ」という概念はあまりなじみのないものだが、筆者は飲酒運転とその抑止策を例にとって説明する。飲酒運転は悪であり、教習所での教育や、違反した場合の厳罰化が進んでいるが、それでも飲酒による事故はなくならない。そこで、運転手からアルコールを検知するとエンジンがかからなくなる車の開発が進んでいる。本書ではこの車の存在が「アーキテクチャ」だという。

社会のルールというのはしばしば目にみえにくいものだが、その規制が十分に働かないとき、アーキテクチャは「規制される側がどんな考えや価値観の持ち主であろうと、技術的に、あるいは物理的に、その行為の可能性を封じてしまう」。規制される側は飲酒運転がいけないとか、罰金が高いなどといった「いちいち価値観やルールを内面化する必要がない」し、そもそも車が勝手に運転可能かどうかを判断してくれるので、アーキテクチャという仕組みが「人を無意識のうちに操作できる」ようになるのだという。

筆者はネットワークを「アーキテクチャ」だと位置づける。さらに、もう1つの概念、「生態系(エコシステム)」は、ネット上で広がるさまざまなサービスを「ソーシャルウェア」と定義づけ、その発展や隆盛は、植物や動物の突然変異と淘汰のように、偶然が積み重なって行くのだと考える。

ミクシィやニコニコ動画がなぜこれほど流行するのか、一方で「セカンドライフ」はどうして閑古鳥が鳴いているのか。あるいは、ケータイ小説の本質はどこにあるのか。いずれも筆者の洞察は斬新。これまで、ともすると「好きか、嫌いか」「認めるか、認めないか」の二元論に陥りがちだった「ネットワークとコミュニケーション」についての、新たな視点からの意義付けに成功している。

とはいえ、ざっくりと簡単にまとめてしまえば、本書は「ネットワーク=アーキテクチャはそれぞれの社会に応じたさまざまなソーシャルウェアの隆盛とともに、社会と相互に影響しながら発達していくものですよ」、という論証を丁寧に行っているにすぎない。日本の中で特異に発達していくさまざまなコミュニケーション「生態系」を「ガラパゴス」と表現しながらも、決して否定的ではないのも、筆者が濃密にそれら生態系の中で過ごしてきたからだと推測できる。

一方で、その丁寧さは、筆者が最終章で述べる「(ネットワークの)偶然的で多様な進化のパス」に、アーキテクチャという概念を通じて関わっていきたい、という積極性に裏打ちされ、ある種の納得をともなって読み手に確実に伝わってくる。

本書の文体は「です・ます調」で、具体例も豊富。300ページ超のボリュームをあまり感じさせず、一気に読み通せる。筆者は1980年生まれの若い論客。本書の参考文献を眺めれば、東浩紀や北田暁大の影響を受けていることは明らかだが、他にもレッシグからジットレインまで、あるいはマルクスからハイエクまで、文中で触れる思想家の数は多く、近頃のネットワーク社会論のなかでは華やか、とさえ言っていいだろう。あるいはペダンチズムを感じる向きもあるかも知れないが、引用の多少のうるささや、社会学用語の無批判な多用を差し引いても、十分に読んでおく価値のある一冊だ。

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