ソーシャルテクノロジーによって変化した世界の全貌、企業が取るべき戦略とは/書評『グランズウェル』
BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊
『グランズウェル――ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』
評者:斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)
Web 2.0は、消費者の購買行動を大きく変えた
企業はこの変化を、いかにして新たな企業発展の戦略にするか
2000年初頭のドットコムバブルの崩壊以降、インターネット、とくにウェブの利用形態が大きく変化した。ブログ、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、Wikiといったソーシャルテクノロジーが広く普及し、ウェブ利用者の相互コミュニケーションが急速に拡大した。そのテクノロジーから見た分析はティム・オライリーが自社のウェブサイトに掲載した記事「What is Web 2.0」に解説されているが、本書では、これらのソーシャルテクノロジーが、消費者の購買行動をどのように変えたかを解説するとともに、企業がこの変化を、いかにして新たな企業発展の戦略にするかを解説している。
著者たちは本書の序文で、現代の消費者はブログ、Wiki、YouTube、Podcastといったオンラインツールを使って、「他者とつながり、主体的に行動しながら、自分が必要としている情報、サポート、アイディア、製品、交渉力などをお互いから調達している
」「これは自然発生的な動きであり、あらゆるものを飲み込みながらたえず変化し、ふくらみ続けている
」と述べ、この社会動向を「グランズウェル(大きなうねり)」と呼ぶ。多くの企業は、この大きなうねりという未知の事態を前にして、対応する方法を模索しているとして、「そこで我々は、このトレンドの全体像をクライアントはもちろん、世界中の人々にわかりやすく伝えたいと考えた
」と執筆の目的を語る。
本書は三部構成となっており、第一部「グランズウェルを理解する」では、まずブログ、SNSといった個々のソーシャルテクノロジーの特質を、概要、利用状況、関係の創出方法(参加の仕方)、組織にとっての脅威(リスク)、活用方法といった視点から分析した後、対象とするグランズウェルの特徴を分析する手法として、“ソーシャル・テクノグラフィックス・プロフィール”を紹介する。この手法は、グランズウェルの参加者をそのアクティビティの度合いによって「創造者」「批評者」「収集者」「加入者」「観察者」「不参加者」の6つのグループに分類し、各グループの構成比率から対象とするグランズウェルの特性を見出すという方法である。たとえば、積極的にウェブページに書き込む「創造者」の比率が低いコミュニティでは、たとえブログサイトを作っても盛り上がりが期待できないといった具合だ。グランズウェルの活用戦略を立てるには、まずソーシャル・テクノグラフィックス・プロフィールの把握が必要というわけだ。
本書の核である第二部「グランズウェルを活用する」では、グランズウェルを活用するための戦略について解説されている。ここでは、「耳を傾ける」「話をする」「活気づける」「支援する」「統合する」の5つの戦略について、多くの実例を示しながら、それぞれの戦略を実行する際の注意点やアドバイスが述べられている。たとえば、「耳を傾ける」は、コミュニティの会話を傾聴し、顧客のインサイトを得る戦略だ。ここでは、プライベートコミュニティを立ち上げる方法と、ブランドモニタリングという2つの方法が詳細に解説され、傾聴戦略を採用する理由、傾聴によって何が獲得できるか、傾聴計画の立て方などが紹介されている。著者は、どの戦略を採用するにしても、グランズウェル戦略がもたらす結果を考え抜くことが重要と指摘する。「グランズウェル戦略が始まれば、顧客との関係は一変する。これからの数年で、グランズウェルは自社のビジネスをどう変えるのだろうか? マーケティング、広告、広報の仕事はどう変わり、仕入先や販売店はどんな影響を受けるのか?(中略)戦略を立てる際は、こうした問題をすべて考慮する必要がある
」
グランズウェル戦略を成功に導くためには、導入の担当者が計画を立案するだけでは不十分だ。企業内にグランズウェル的思考を取り入れ、全社的にグランズウェル戦略を実行する環境を築くことが欠かせない。第三部「グランズウェルで変革を促す」では、これまで第一部、第二部で解説してきた手法を総動員して、企業を顧客指向型組織へと意識変革していくためのステップを解説している。著者は、「小さく始める」のが企業を変革する場合は特に重要になると助言する。「変化には時間がかかるし、一度に発揮できる政治力にも限りがあるならば、闘うべき戦いは戦略的に選ぶべきだ
」。第三部では、他にグランズウェルを社内で活用する方法も、紹介されている。
本書を読むと、グランズウェルは、もはや避けては通れない時代の流れであり、これを新たな企業発展の戦略にするには、企業自体が変わることが欠かせないことが理解できる。Web担当者Forumの読者の多くにとっても、恐らくグランズウェルは近い将来、他人事では済ませないものとなるのではないだろうか。ならば、まずは著者が勧めるように、この大きなうねりに向かって「小さな一歩」を歩み出してみてはどうだろうか。
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