BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

Web担の地頭力を鍛えてWebを見える化/書評『いま、すぐはじめる地頭力』

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『いま、すぐはじめる地頭力――結論から・全体から・単純に』

評者:森野真理(ライター)

「結論から、全体から、単純に」考える力を養うヒント
地頭力をトレーニングできる「フェルミ推定」がわかる

  • 細谷 功 著
  • ISBN:978-4-479-77113-5
  • 定価:1,500円+税
  • 大和書房

「常識を知っている」より、「考えが深い」方が賢そうに見える。職場のレポートでも「結論を手短に」、だけでなく「なぜそう結論するのか根拠を示せ」と説得力を求められるようになった。世の中全体が、「知識」を誇る人物よりも「思考力」をうまくプレゼンする人物の方に高評価を与えるようになってきている――。そんな風潮に不安を覚えている人にとっては、本書は一読の価値がある。

筆者は1964年生まれの東大卒ビジネスコンサルタント。前著『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)でスマッシュヒットを飛ばし、その続編とも取れる本書を書き下ろした。ちなみに「地頭力」とは、「じあたまりょく」と読む。「じとうりょく」ではないのでお間違えなきよう。

著者によると「地頭力」とは「仕事や人生の問題をスピーディーに解決し、さらには新しいものを創造できる『考える力』」だそうだ。「問題解決能力」を高めるためにどのように取り組めばいいのか、具体的な思考法やトレーニング法を懇切丁寧に提示してくれる。なかでも注目を集めているのが、「日本全国に電信柱は何本ある?」など、ともすると頓智のような出題に、合理的に答える「フェルミ推定」(すぐにデータを探すのが困難な物理的に大きな数値を短時間で算出する技術)だ。

「地頭力」を構成する要素には大元に「知的好奇心」があり、その上に論理思考力、直観力があり、それらをベースに仮説思考、フレームワーク思考、抽象化思考を積み重ねているのだという。これらの力を伸ばせば、問題解決力、創造力がつくという。本書ではまず「地頭力」の自己診断チェックを行い、仮説思考力、フレームワーク思考力、抽象化思考力を伸ばすトレーニング方法を解説。さらに「フェルミ推定」について「思考回路を転換するツール」として、その鍛え方を紹介している。

全体に、たとえ話はおもしろい。デキの悪いカーナビを例に「仮説思考」を、アンジャッシュのコントを例に「フレームワーク思考力」を、戦争と恋愛とビジネスの共通点を探るという「三題噺」を引き合いに「抽象化思考」を説明しているくだりは、誰でも「なるほど!」と思わずうなずくだろう。

しかし、本書の原点はあくまで古典的。ビジネススクールやコンサル業界では常識の「MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive:漏れなくダブりなくという意味)」や「アナロジー」、本書の肝ともいえる「フェルミ推定」や「フレームワーク」も、MBAプログラムでは一般的に教えられる思考法の1つなのだという。斬新な論理や、常識の真逆を主張するような過激さはどこにも見当たらない。ある意味、きわめて常識的な、既存のナレッジ(知識)に沿った「思考力の鍛え方」を、著者独特のわかりやすいたとえ話で示したのが本書の成功の核心だと言えそうだ。「論理思考」だの、「クリティカルシンキング」だの、「脳トレ」だの、思考力を高めるキーワードの系譜に「フェルミ推定」を加えた本書は、正しく著者の「流行を生み出すことができる創造力」を証明したことになる。

ただし、多くのノウハウ本の隆盛が示すように、読んだだけで賢くなるような本など存在しないのもまた真理だ。著者もタイトルで「いま、すぐはじめる」と名づけ、第三章で「考えはじめる」のには高い敷居があると書いている。20ページ余の第三章に納得できた人だけが、本書の真の果実を味わうことができる。そうでないと、せっかく覚えた「フェルミ推定」を飲み屋の馬鹿話でしか披露できない、評者のような「エセ地頭」になってしまうリスクが高いということをお忘れなく。

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