この記事では、業界関係者への取材で明らかになったネットマーケティング業界の「闇」についてレポートする。前回に引き続き「アフィリエイト業界の闇」だ。
提携ポイントサービスサイトの落とし穴
あるマーケティング担当者が、アフィリエイトサービス事業者(ASP)に会員募集のプロモーションを依頼した。稼働初日から3000件、1週間後にはなんと2万件を超える会員登録を集めた。当初予定していた予算はオーバーしたものの、予想以上のアフィリエイトの威力に喜びを隠せない。
ところが、送られてきたレポートを精査しているとおかしなことに気づいた。ある特定のメディアからの会員登録が異常に多いのである。通常1日に50件程度の成果のはずのメディアなのに、2400件の成果を上げている日があるのだ。いくらなんでもおかしいとそのメディアをチェックしてみたところ、いわゆるポイントサービスを行っているメディアであった。そして自分が行っていた会員募集のキャンペーンがポイント対象として掲載されており、そこには「ポイント即時加算」との文字が……。
即時ポイント&全承認という危険な組み合わせ
ポイントサービスサイトとは、会員がスポンサーサイトから商品を購入したり、広告閲覧・会員登録・資料請求したりなどのさまざまなアクションを行うことによってポイントを取得し、貯まったポイントを現金や電子マネーなどに交換できるサービスだ。ユーザーにとってはわずかな手間で手軽にお小遣いを得る、スポンサーにとっては比較的低価格でプロモーション活動ができるというメリットがある。ポイントサービスサイトがユーザーに与えるポイントの原資は、アフィリエイトなどの成果報酬であることが多い(図1)。
一見なんの問題もないように見えるポイントサービスだが、今回のケースは少し異なる。通常ユーザーがアクションを行ってからポイントを獲得するまでには1週間から1か月ほどの認証期間があるのだが、今回のキャンペーンは「ポイント即時加算」とうたわれていた。これは、ユーザーがアクション(今回は会員登録)を行うと、すぐにユーザーのポイント通帳に報酬ポイントが加算されることを意味している。
ただしポイント即時加算自体に問題があるわけではない。もし検証の結果同一ユーザーによる二重登録などの不正が行われていたことがわかればマーチャントに支払い義務はないからだ。
問題は「ポイント即時加算」と「全承認」が組み合わさったケースだ。「全承認」とは、「成果が発生したら無条件で(請求が発生することを)承認します」というマーチャントとASPの取り決めだ。
ユーザーによる不正行為は、アフィリエイターがブログであろうがポイントサービスサイトであろうが、ポイントが即時加算であろうがなかろうが発生するものだ。しかし、ポイント即時加算の場合、即時加算されたポイントをすぐにネットバンクで現金化するなどといった不正の「やり逃げ」が可能なため、悪質なユーザーにねらい打ちされやすい傾向があるのだ(図2)。もちろんポイントサイト運営者も同一IPアドレスからの登録をはじくといった対策はしているものの、やはり抜け道はあるようで、すべてを取り締まるのは難しいようだ。
「いくらASPの営業などから薦められたとしてもポイント即時加算と全承認の組み合わせは絶対にやってはいけません
」と語るのは、企業のアフィリエイトコンサルティングを手がける株式会社ネットマーケティングの宮本 邦久氏。
ただし「ポイントサイトのユーザー側に全承認であることがわからない形ならば、全承認にしてもいいかもしれません
」とも。全承認によってメディア側にプロモーションなどで便宜を図ってもらい、露出が増えることもあるからとのことだ。
ポイントの上限額を決める
アフィリエイトとポイントサイトの組み合わせに関しては、ほかにも意外な落とし穴がある。例を示そう。
あるメーカーが化粧品のトライアルセットを800円で販売することにした。この商品は本来もっと高額なものなのだが、潜在顧客を獲得するために、採算ギリギリの価格を設定し、さらに、1点売れるごとに1,000円の成果報酬をアフィリエイターに支払うアフィリエイトプロモーションを展開した。
800円の売上に対して1,000円の成果報酬を支払うと、その時点で赤字だが、優良顧客となり得る人の名簿を獲得できるならば決して高くはない。通常のアフィリエイトサイトならば問題はないはずだったこの戦略だが、アフィリエイトプログラムに対してポイントサイトが提携参加したことで事情が変わってしまった。
1件あたりの成果報酬が1,000円ならば、ポイントユーザーに900円分のポイントを与えても、ポイントサイトには100円分の利益が残る。そして、ポイントサイトのユーザーにとっては、1件あたり900円分のポイントを得られるとなると、トライアルセットを800円で購入するごとに900円のキャッシュバックがあるのと同じことになる(図3)。
かくして、逆ざやねらいのポイントサイトユーザーが殺到してしまったのだ。化粧品のサンプルなのに、購入者の名簿には男性の名前が多数ならび、優良顧客の名簿を得られるはずだったキャンペーンがだいなしになってしまった。
前出の宮本氏は、こういった状況が起こりえる可能性を認め、対策として「ポイントサービスを利用する際には、必ずユーザーに還元するポイントの上限を決める必要があります
」と語る。ポイント上限とは、会員登録や資料請求を行ったユーザーにポイントサイトが与えるポイントの上限のことだ。こういった場合には、ポイントサイトに対して「成果報酬は1,000円出すけれども、ユーザーに与えるポイントは100ポイントにしてくれ」と、ポイントの上限を指定しておくのだ。
付与ポイント額は高ければ良いものではない
宮本氏はさらに、ポイントの上限とともに「適正なポイント額を吟味することも重要だ
」として、ノンバンクのローンカード成約キャンペーンを例として説明してくれた。
「ローンカードの契約1件あたりの成果報酬として、2万円分のポイントを与えてしまうと、ローンを利用しない報酬ねらいだけのユーザーの比率が非常に高くなります。しかし、2,000円分のポイントならば、ほとんどのユーザーからローンの利用実績があがるようです
」
単に人を集めるだけでなく、アフィリエイトでビジネス上の成果を上げるためには、企業が期待するユーザーを集めるため設計が必要になる。単に報酬額を高くすればいいというものではないようだ。
ポイントサイトはうまく使えば強い味方
こうみると、ポイントサイトは問題ばかりのようにも思える。しかし、宮本氏によるとそうではなく、優良なポイントサイトとそうでないポイントサイトを見分け、しっかりと選別することが重要なのだという。
「現在日本には300を超えるポイントサイトがあり、中にはポイントねらいのユーザーしか登録していないような、質の悪いサイトもあるのは事実です。このような一部のサイトのせいでポイントサイトは一切利用しないという企業もありますが、それは大きな機会損失です。提携申請時にきちんとチェックをしておけば、悪質なサイトの多くは事前にはじくことができ、結果として、ポイントサイトの集客力をうまくプロモーションに活用できるようになるのです
」
自分で判断できない場合でも、ASPの営業に対して、悪徳ポイントサイトとの提携は外してもらうように一声かけておくだけで、6割くらいの被害は防げるはずだと宮本氏はいう。取材時には、優良なポイントサイトと、そうでないポイントサイトの実名も教えてもらったのだが、さすがにここに書くことはできない。どうしても知りたい人は、同社にコンサルティングの依頼をしてみるといいだろう。
消費に対してアクティブなユーザーを多数抱えるポイントサイトは、しっかり選んで賢く協力できれば、アフィリエイトマーケティングの大きな助けとなってくれる。上記の注意事項をしっかり押さえたうえで利用を検討するといいだろう。
コメント
悪質なサイトをASPが事前にチェックにするこ...
「提携申請時にきちんとチェックしておけば、ある程度悪質なサイトを省くことが可能」とありますが、
これはASPが事前にチェック・提携外にすることはできないものなのでしょうか。
アフィリエイトをいくつか利用している企業ならまだしも、初めてアフィリエイトを利用する企業に
とって、どのサイトが悪質か悪質でないか、などは見分けがつきにくいものだと思います。
「不正行為を行ったアフィリエイト・パートナーの情報の共同利用」をしているのであれば
ASPが事前に提携申請をチェックすることも可能だと思うのですがいかがでしょうか。
まだまだ枯れていない市場なので
編集部の安田です。コメントありがとうございます。
> これはASPが事前にチェック・提携外にすることはできないものなのでしょうか。
ごもっともな意見だと思います。
結論としては、実際にその方向に少しずつ進んでいるものの、現時点ではまだASPに任せていれば安心というわけではないのが現実のようです。
少し過激な表現で言うと、ASPも営利企業なので、そこらへんに気づかずにお金を出してくれるマーチャントさんがいるのなら、わざわざ売上を下げるような施策をとろうとは思わないですよね(ここではこう書きましたが、当然、ちゃんと考えているASPさんもあります)。
また、マーチャントさん側の担当者も社内での評価のために実績を上げる必要がありますから、多少悪質な場合でも成果として数字に出れば利用したい場合さんもいるでしょう。そうなると、「ちょっとだけ悪質」なアフィリエイターをどう扱うべきかの問題が出てしまいます。
また、情報商材などに書かれている情報にだまされて、うっかりと知らずに悪質な行為をしてしまった初心者アフィリエイターを厳格に取り締まるべきかといった問題もあります。
いずれにせよ、最終的にはマーチャント側が自社の費用対効果として結果に責任をとる必要があるのならば、必要悪として存在する悪玉アフィリエイターのチェックをまったくしなくて良いということにはならないと思います。
もちろん、ASP側が積極的に業界をクリーンにしていく施策をとるべきだという点については、まったくの異論はありません。