PCの前に座っている「セカンドライフ」のユーザーは、オンラインゲームにログインしているのと同じような状態に置かれる。ただし、ゲームのようにストーリーやクリアすべきミッションがあるわけではない。ユーザーが好きな格好をして好きなときに好きなところへ行って好きなことをすればいいという点が、ゲームとは大きく異なる。
ゲームではないにしろ、3D画像の世界を歩き回るというバーチャル世界が、なぜビジネスで利用できるかもしれないという期待を持たれているのか。当初はITリテラシーの高い個人の趣味人のものだったブログやSNSが、今ではさまざまな手法でのマーケティングに利用されているのと同様のことが起こると考えられているからだ。
話題性は十分だが今のところ“まだ”それほどの力はない!?
セカンドライフが抱えるウェブ黎明期と同様の問題点
いろいろなメディアで大げさに取り上げられてはいるセカンドライフだが、現時点で本当にそれほどの広告効果があるメディアであるかについては、懐疑的な意見もある。まず問題点の1つは、ユーザー数がまだ圧倒的に少ないということだ。アクティブに活動しているユーザーはおそらく1万人弱。ブログなどとの連携がなければ、その中の一部にアピールしたところで大した影響はない。ユーザー数が少ない原因は、まだ一般的な知名度が低いことに加えて、参加するためにある程度のスペックのPCが必要であること、日本人街があるとはいえ全体としては英語が中心であることが挙げられる。たとえば携帯電話で利用できるmixiなどと比べると、壁の高さもユーザー数の違いも歴然としている。
また、実際にセカンドライフ内で何らかのパビリオンを開設する場合、たくさん人が集まればよいのかというと、実はそうではない。1つのシムに多数のユーザーが集まると、動作が重たくなってしまうのだ。かつて、ウェブでもアクセスが集中してサーバーがダウンしてしまい、結果としてビジネスの機会損失となることが重大な懸念だったが、セカンドライフは今まさにその段階だ。現在、1つのシムで快適に動作できるのは40〜50人が限界。100人集まってしまうと、重たくて何もできないといったことになりかねない。つまり、何かイベントを開催して人をたくさん集めるようなやり方は、今のところセカンドライフには向いていない。ウェブではサーバーの増強などの対処が可能だが、セカンドライフのシステムはすべてリンデンラボが提供しているので、自社で増強することはできないし、一緒に参加するユーザー側のコンピュータの性能も関係してくるからだ。
もう1つ、パブリシティを展開する場合にこれまでの製作ノウハウとはまったく異なるノウハウが必要となることも考えておくべき問題だろう。テキストや画像、アニメーションなどとは、根本的に異なる3D造形の技術が必要だからだ。
それでもきっと何かが起こる
興味があるなら何よりも参加
とはいえ、これらの問題は徐々にクリアされていくだろう。セカンドライフ自体の理解については感覚的に理解できるテレビとの連携が予定されているし、日本人のユーザーが増えれば日本語のコミュニティは増えていく。クライアントソフトに関してはオープンソース化されているので、利用できるデバイスは増えていくと考えられる。また、サーバーソフトのオープンソース化も予定されているとのことで、サーバー(シミュレータ)をもっと高性能のコンピュータで動かすことを計画している企業もあるという。
セカンドライフとは何かということについて、デジタルハリウッドの三淵教授は「ウェブは言葉や論理で整理された左脳的な情報空間で、セカンドライフはアバウトできっちりと言葉にできない右脳的な情報空間」だと語っている。つまり、セカンドライフそれ単体ではマーケティングツールとしてあまりおもしろいことにはならない。必要なのはウェブとの連動だ。これによって、新しいコミュニケーションツールとして発展していくだろう。
とりあえず、セカンドライフは言葉で説明しづらいということは確かだ。まずは中に入ってみて、いろいろなところを見て、だれかと接して、足湯につかって「なんで足湯なの?」といった会話をしてはじめて、なんとなく「これはおもしろいな」というのが見えてくる世界だと言えそうだ。
セカンドライフのビジネス利用 これがポイント!
- 体験してみるのが一番手っ取り早い
3Dの空間に入り込むというのは、オンラインゲームなどをやり慣れている人でないと感覚的に理解しづらい。しかも、セカンドライフの醍醐味はその中でだれかと出会ってコミュニケーションするということなので、実際に経験してみないことには、何ができそうか想像することも難しい。ベーシック会員は無料なので、興味があるならとりあえずセカンドライフソフトウェアをダウンロードして体験してみるのが一番だと言えそうだ。
- ウェブとの連動が必須
ユーザー数が少ないことに加えて、論理的な理解や時間軸にしばられない情報の共有には向いていない情報空間なので、セカンドライフ内だけでプロモーションが完結するとは考えない方がいい。ウェブとの連動は必須と考えよう。
- コンテンツなどのノウハウがなければ専門家に依頼
コンテンツ制作にこれまでの広告媒体やウェブサイト作りとはまったく異なる手法が必要になるほか、セカンドライフという世界の特性にマッチした展開方法を考える必要がある。ビジネス進出のためのコンサルティング会社もいくつか登場しているので、相談してみるのが得策だ。
- セカンドライフ http://secondlife.com/
- デジタルハリウッド・セカンドライフプロジェクト http://www.dhsl.jp/
- セカンドライフ参入支援メルティングドッツ http://meltingdots.com/
- セカンドライフ(インプレスR&D) http://sl.impressrd.jp/
全世界から注目を集める「セカンドライフ」。インターネットに創られた自由度の極めて高い仮想世界ということで、プロモーションに利用したり、仮想の自社商品を販売するという経済活動が企業によって行われたり、アーティストのコンサートなども行われている。本書では、「セカンドライフ」の操作方法や容姿の変え方、物作り、スクリプト作成やお金儲け、ユーザーインタビューなど、セカンドライフの魅力と暮らし方をあますことなく解説している。公式ガイドを完全翻訳し、さらに日本人向けの情報を加えた「日本人に向けたセカンドライフの公式ガイド」だ。
- ISBN978-4-8443-2405-8
- 352P
- B5変形版
- 3,360円(税込)
- CD-ROM付き
- マイケル・リマズイスキー、世界のセカンドライフの住人たち ほか著
- デジタルハリウッド大学大学院 セカンドライフ研究室 監訳
セカンドライフの中で物(オブジェクト)を動かすには、基本的にスクリプト言語を使って制御する必要がある。その言語である「リンデンスクリプト」は、これまでプログラム経験が無かった人でも、簡単にプログラム体験ができるようになっている。セカンドライフ内にすでに開発環境が用意されており、物に埋め込み、実行させる形になっているからだ。
本書ではそのリンデンスクリプトについて、多数のサンプルスクリプトを掲載し、詳しく解説する。物作りに興味のあるセカンドライフユーザー、セカンドライフ内で製作業を始めようと思っている人に、必携の一冊。
- ISBN978-4-8443-2432-4
- 312P
- B5変形版
- 2,940円(税込)
- CD-ROM付き
- 株式会社ウェブインパクト著
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ Vol.6』 掲載の記事です。
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