ライバルには教えたくないキーワード広告の勝ち組戦略
~成果を出すための達人の思考とノウハウ
日本に上陸してからオンライン広告のあり方を大きく変え、検索エンジンからの集客手段として当たり前となった検索連動型広告。多くのマーケティング担当者がその重要性を理解している反面、そのメリットを十分に活かせていないのが現状だ。いま、広告主には変化が求められている。検索連動型広告を運用する上でマーケティング担当者が成すべきこととは何か、改めて探っていこう。
泉 浩人(株式会社ルグラン)
言葉で見分ける「旧型」と「新型」のマーケター
前回の記事で、「パナマ後」(新スポンサードサーチ後)の世界で勝ち抜くためには、これまでの「掲載順位脳」から「ROI/CPA脳」に思考回路を切り替えることが不可欠であるという話をした。
※1:オーバーチュアは、新スポンサードサーチの掲載順位決定方式を2007年7月9日(月)の週に新方式に移行する予定であることを明らかにしている(6月28日のニュースより)。
新スポンサードサーチへの移行も佳境を迎えており※1、いよいよ日本においても、環境の変化に押される形で「旧型マーケター」から「新型マーケター」への進化が始まるだろう。とはいえ、進化は一朝一夕に起こるものではなく、暫くは「旧型」と「新型」が共生する時代が続くことになる。
そこで、数多くのクライアントを抱える広告代理店においては、まず担当するクライアントが「新型」への進化を終えているのかを見極めることが重要となる。なぜならば、「新型」か「旧型」かによって、代理店の仕事の進め方は大きく変わってくるからである。特に「旧型」のクライアントに対しては、進化を助けるために十分な教育・啓蒙を行わないと、新スポンサードサーチ移行後に取引がジリジリと縮小していく可能性があるので(詳しくは記事後半を参照)注意が必要だ。
では、クライアントのDNAに記される進化の痕跡を外から見極めるにはどうすればよいのだろうか? 長期にわたる取引関係があれば、それまでのやり取りの中から、およその見当はつくだろう。だが、新規に獲得したクライアントや、新しく担当することになったクライアントでも、それを探る手がかりはある。ヒントはクライアントが発する言葉だ。
発言からクライアントの思考回路を分析せよ
もし、クライアントと検索連動型広告の目標や結果について話をしている中で、「予算」「消化」という言葉が頻繁に出てくるようなら、そのクライアントはかなりの確率で「旧型」である可能性が高い。なぜなら「旧型」マーケターほど、検索連動型広告の費用を「固定費」として予算化しようとするからである。その思考回路を模式化すると次のようになる(図1)。
こうしたクライアントは広告代理店にとって、一見、「おいしい」クライアントに見えるかもしれない。実際、予算を守っている限り、ROIやCPAについてあまり厳しい要求をすることもなく、毎月一定の金額を落としてくれることも多いだろう。だが、そこには大きな落とし穴が隠れている。
というのは、「旧型マーケター」にとっては、検索連動型広告への支出も、新聞や雑誌などへのオフライン広告と同様、直接売上を生むものではないという点では同じである。従って、代理店の担当者が予算の増加を持ちかけても、会社全体の売上が増える、あるいは、収益率が改善するといったことが起こらない限り、検索連動型広告への支出だけを増やしてもらうことは難しい。そうなると、次に全社予算の見直しが行われるまで、気長に待つほかはない。
「トップ掲載」という殺し文句が終焉を迎えるとき
広告代理店が生き残るためには
予算が増えないだけならまだよいが、もし、全社の業績が悪化傾向にある場合、「旧型マーケター」は、検索連動型広告の予算を守るための理論武装ができていないため、その他の広告予算と「十把一絡げ」にされ真っ先に削減されてしまうかもしれない。また、新スポンサードサーチでは、掲載順位の確保も難しくなるため、「旧型マーケター」を口説き落とす殺し文句であった「ブランディングのためのトップ掲載」といった提案も、もはや使えない。
こうなると、広告代理店の担当者は、クライアントの予算が減っていくのを、指をくわえて見ているしかない。実際、大口の広告主の間では、「旧型マーケター」が、会社の上層部に対して、検索連動型広告に対する費用対効果をきちんと説明できないために、広告支出が頭打ちになるといった事態も起きている。日本においてネット広告に占める検索連動型広告の比率が欧米に比べて格段に低いのも、こうした事情が背景にあると考えられる。
パナマ後にこうした状態に陥らないようにするためには、少々手間はかかっても、「旧型」のクライアントが、一日も早く「新型」に進化できるよう、時間をかけて教育や啓蒙を行うことが重要だ。では、「新型」への進化を促すには、どうすれば良いのだろうか? 端的に言えば、クライアントが検索連動型広告への支出を「広告宣伝費」ではなく、「販売促進費」という「変動費」として捉えるように意識改革を促すことが必要だ(図2)。
たとえば、検索連動型広告への支出100に対して、売上1,000という費用対効果に関する数値目標がひとまず設定されてしまえば、検索連動型広告の「支出額」自体は、さして大きな問題ではなくなる。これは、受注が倍増して、仕入業者に支払う金額が倍増しても、売上に対する原価率が変わらなければ、特に問題とならないのとまったく同じ理屈である。
だが、ここで気をつけなければいけないのは、クライアントが「新型」に進化した後も、引き続き、広告代理店としての営業努力は必要であるという点である。特に、クライアントが進化直後である場合、支出の削減による費用対効果の改善ばかりに目が行きがちだ。だが、企業として継続的な成長を果たすには、言うまでもなく売上の増加が不可欠である。従って、代理店の担当者としては、費用対効果の維持・改善を図りつつ、売上の源泉となる「販促費」として、検索連動型広告への追加投資を促す努力が欠かせない。
実際、英国の広告代理店では、目標とするCPAやROIが実現できた場合、その「成功報酬」として、他の媒体から検索連動型広告への予算シフトを約束させるといった取引も頻繁に行われている。代理店の担当者がCFOと直談判することも珍しくないという。もちろん、こうした取引を実現させるためには、代理店側に、CPAやROIの改善提案を行うためのスキルを持ったスタッフが充分に揃っていることが絶対条件となる。
そして、忘れてはならないのは、クライアント側においても、「旧型」と「新型」の代理店の選別が始まろうとしているということである。もし、すでに進化を始めたクライアントの前で、「予算」「消化」といった言葉を使おうものなら、その代理店は、たちまち「旧型」の烙印を押されてしまうだろう。まさに「口は災いのもと」である。
言葉から進化の度合いを見極める。「予算」「消化」は「旧型」の特徴
急がば回れ。「旧型マーケター」には教育と啓蒙から始めよ
必要なのは「広告宣伝費」から「販促費」への意識改革。進化の後も営業努力は不可欠。
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