意味ベースマーケティングで進化するCMS/オートノミー・インターウォーブン


オートノミー・インターウォーブン
意味ベースマーケティングで進化するCMS
訪問者の意図を理解して最適なコンテンツを提供する
取材・文:柏木 恵子
写真:渡 徳博

エンタープライズCMS大手のインターウォーブンが、2009年3月に米オートノミーに買収された。オートノミーは情報検索などで独自の高度な技術を持つ企業で、米国では政府系機関などでも採用の多い、実績のあるテクノロジー企業である。その技術を統合し、インターウォーブンのCMS「TeamSite」がさらに強力になるという。プライベートカンファレンス、GearUp 2009のために来日したオートノミー社、オートノミー・インターウォーブン事業部門CEOのアンソニー・ベテンコート氏に、オートノミーの技術的な優位や、戦略である「Meaning Based Marketing(意味ベースマーケティング)」について伺った。
オートノミー・インターウォーブンの基本的な情報は記事末尾を参照。
非構造化情報に対する数学モデルのアプローチ

オートノミー・インターウォーブン事業部門CEO
アンソニー・ベテンコート氏
●編集部 最初に、オートノミー社について教えてください。
●アンソニー オートノミーは、ケンブリッジ大の教授であった人たちによって1996年に英国で設立されました。彼らの信念は、「非構造化情報※が企業においてより重要な情報になっていくだろう」ということです。
※非構造化情報:音声、動画、文書、電子メール、コールセンターの会話などの情報
彼らのアプローチは、他とは根本的に違っていました。非構造化情報を検索することではなく、非構造化情報のプロセス、つまり一連の流れにフォーカスしていたのです。非構造化情報をプロセスでとらえるには、単にキーワードとして扱うのではなく意味理解のテクノロジーが必要です。オートノミーはこれについて完全な数学モデルを用いています。情報の意味理解のために確率論を利用しているのです。言語モデルではなく数学モデルですから、根本的に言語に依存しないという特徴があります。もともと多言語に対応しているということです。
また、彼らは非構造化情報のプロセスを人間にとってわかりやすい情報にするために、さまざまなプロダクトを連携していくことを当初から考えていました。つまり、オートノミーのソリューションは、異なるアプリケーションを1つの大きなガバナンスの元に統合しているものです。
どのようなアプリケーションがあるかというと、たとえば12ペタバイト(1ペタバイトは約1,000兆バイト)の情報アーカイブを可能にするアプリケーションがありますが、これはグーグルのインデックスよりも巨大なものです。あるいは、電子的な通信のためのネットワーク管理用のアプリケーション、これは大手金融業などで利用するものです。巨大なコールセンタービジネスのためのアプリケーションもあります。このアプリケーションでは、コールセンターのオペレーターと電話をかけてきた顧客との会話の音声データを情報として扱うことができます。なぜなら我々は電子情報の意味を理解するという技術を持っているからです。これにより、話者の性別や口調や声の調子がポジティブかネガティブかといったことを認識できるのです。
入力フォームやその内容の意味を理解するビジネスプロセスの管理を行う製品群もあります。その他、リッチメディア管理用の「Virage(ビラージ)」という製品があります。これは、ビデオに深い意味を持つインデックスをつけたり、音声を精密なテキストに翻訳したりする機能を持つものです。これを使えば、ユーザーは簡単な検索クエリによって動画上の目指すポイントを呼び出すことができます。この機能では、一回のトランザクションで、音声や動画からテキスト情報へ橋渡しをすることができます。
業績も堅調です。今年度の売り上げは世界中で7億5,000万ドルを見込んでおり、顧客企業は2万社、OEM提供している企業が400社あります。OEMの顧客としては、オラクルやIBM、EMC、シマンテック、HP、シスコといった企業が名を連ねています。オラクルの事例がおもしろいと思うのですが、彼らも同様の技術を持っているのにもかかわらず、我々の技術をOEMしているのです。これらの事業の成功によってシェアも拡大し、昨年度の売り上げは5億ドル以上でしたので、1億ドルの研究開発への投資も可能となりました。売り上げの半分は、既存顧客が新しい機能を追加することによって得ているものです。
●編集部 インターウォーブン買収の目的はどこにあったのでしょうか。
●アンソニー オートノミーは2009年3月にインターウォーブンを買収しました。インターウォーブンは洗練されたWebコンテンツ管理のソフトウェアを提供するベンダーです。両社はお互い精度にこだわりを持つ企業ということで共通点がありましたし、インターウォーブンは市場に革新的なアプローチをしており、Webコンテンツ管理の会社としてWebのパブリッシングにだけフォーカスするのでなく、顧客のコンバージョンを重視していました。オンラインマーケター向けのビジネスをしていたということです。我々は彼らがすばらしい顧客を持っていることに一目置いていました。そこで、彼らの革新的な技術に対して出資することにしたのです。
この合併により、情報の管理とプロセスについての機能をインターウォーブンの製品に追加し、新しい構想を打ち立てました。我々はこれを「Meaning Based Marketing(意味ベースマーケティング)」と呼んでいます。会社統合は今年の1月に発表して3月には完了と、非常にスムースに進み、同時に技術的な統合も完了しました。人的な統合とともに、オートノミーのコア技術について深く知ってもらい、「意味ベースマーケティング」製品群の開発を行っています。
多種情報で顧客行動の意味を知る「意味ベースマーケティング」
●編集部 「意味ベースマーケティング」とはどのような戦略ですか。
●アンソニー 「意味ベースマーケティング」とは、顧客のトランザクションの意味を理解することでブランドを守ることができるというものです。Webだけにフォーカスするのではなく、他にもいろいろと重要な要素があり、いくつかのモジュールから構成されます。
1つは、大企業がソーシャルメディア上のユーザーの声をモニタするもので、TwitterやFacebook、YouTubeといったものに対応しています。というのも、我々の技術では感情的な色合いを理解できるからです。市場やソーシャルメディア上で話題になっているのが、ポジティブな内容なのかそれともネガティブな内容なのかといったことを察知できます。これによってブランドイメージを守ることができるでしょう。
その他、パーソナライゼーション管理のモジュール、検索エンジン最適化と検索エンジンマーケティングのモジュール、リッチメディア管理のモジュールもあります。我々が「Guided Discovery(案内による発見)」と呼んでいるモジュールは、ナチュラルパスとして自動的にユーザーの求める商品見つけ出すというものです。また別の管理モジュールは「レコメンデーション」です。ユーザーについて行動や嗜好を理解できるので、正確に何をおすすめすればいいのかわかるのです。
Web上での購入行動だけでなく、コールセンターやユーザーサーポートとのやり取りも重要です。そこでの体験をブログなどに書く人が増えていますから。対応が良かったか悪かったか、その噂や評価はSNSのサイトなどでも広がっていきます。我々の製品を使えば、コールセンターやテクニカルサポートでどのような感情を持ったか、インターネット上のソーシャルメディアでどのように噂されているかといったことも含めて、顧客の動向を企業がすべて把握できます。「意味ベースマーケティング」は、これらも含めて顧客の把握ということについて360度展開しているのです。

このようにしてユーザーの動向や感情を把握し、最終的にはWebサイトを最適化するのが目的です。これによってより多くの顧客がサイトを訪れてくれるようになります。我々は「Multivariate Testing(MVT:多変量テスト)」と呼んでいますが、自動的にWebサイトのシステムのテストを行うツールがあります。画像や検索窓、ショッピングカートのデザインをいくつか試してどれがよいか検証したり、実際にテキストを入力してみたりすることができます。この結果、自然淘汰されて最終的に最適なものがあぶり出されるわけです。数百数千の組み合わせを自動化して試すことができます。
サイトを最適化した結果、コンバージョンを30%伸ばすことができた例もあります。人間の目で見ただけではわからないような違いをシステム的に見つけ出して改善提案をするので、デルタ航空では航空チケットを販売するWebをシンプルデザインにしたことによって売り上げを3,000万ドル伸ばしました。
これが「意味ベースマーケティング」戦略です。
●編集部 具体的にインターウォーブンの製品とどう統合されたのでしょうか。
●アンソニー オートノミーのIDOL(アイドル)というエンジンをインターウォーブンの製品に統合するという道をとりました。IDOLとはIntelligent Data Operating Layer(知能的データ操作レイヤー)の頭文字をとったもので、意味理解の処理を行うエンジンです。インターウォーブンと合併して最初に行ったのは、インターウォーブンの「TeamSite」にIDOLを組み込むことです。
●編集部 「TeamSite」は近々バージョンアップを予定しているそうですが、オートノミー製品を利用可能にするためのものでしょうか。

代表取締役
熊代 悟氏
●熊代 オートノミーの技術を利用するにあたっては、「TeamSite」がまったくがらりと変わるというわけではなく、モジュールで連携するというのがメインになりますので、モジュールを追加するという形で考えています。今年末くらいのタイミングで「TeamSite」の新しいバージョンをリリースさせていただきますが、これは通常のバージョンアップで、これまでのようにバージョン間での互換性は保持します。
●編集部 「TeamSite」とIDOLが統合したことにより、ユーザーにはどのようなメリットがありますか。
●アンソニー IDOLのテクノロジーを利用することで、企業はユーザーの動向や広告の効果を深く理解できるようになります。IDOLは「意味ベースマーケティング」のメインエンジンのようなものですから、顧客とのやり取りを変革します。顧客に対して、どのようにWebを配信するかというレベルの話ではなく、Webよる収入を増やしたいとか、コンバージョンを上げたいといったビジネスの重大な問題について提案できるということです。
インターウォーブンの顧客がオートノミーの製品を使いたいという場合、以前は手作業でTeamSiteとの統合をしなければなりませんでしたがそれが不要になりました。また、インターウォーブンが財務的により巨大になり安定したというのも、メリットとして挙げていいと思います。それぞれの顧客ネットワークを統合したことにより、市場で大きな地位を占めることになりました。
コンテンツ管理と各種Webサイト最適化製品を統合して提供する
- 概念的プロファイル、およびセグメンテーション
- アダプティブターゲティング
- 自動クエリーガイダンス
- ダイレクトナビゲーション
- クロスチャネル最適化
- スピーカー認識
- レコメンデーション
- UGC
- 自動言語認識
- カテゴライズ・クラスタリング
- メロディー認識
- 動的タクソノミー
- 要約(サマリー)生成
- 動画のインデックス
- Webサイトアーカイブ・コンプライアンス
- ソーシャルメディア・モニタリング
- マルチチャネル・インタラクション
リンクのない企業内情報を高い妥当性で検索するIDOL
●編集部 IDOLについてもう少し詳しく教えてください。
●アンソニー ベイズ理論やシャノンの理論といった数学的な確率論を使っています。創業者二人はケンブリッジの教授で、パターンマッチングの世界的権威です。コアテクノロジーは独自技術で、企業買収によって得たものではありません。
数千のデータソースを見る能力があり、これを自動的にカテゴライズして、どのデータが新しいか、どの情報がホットな話題かを自動的に判断します。ハイパーリンクについての能力もあります。検索をして得た情報に、他のソースへのリンクを張るのですが、別の用語であっても同じことについての情報であればリンクを張ります。
●編集部 関連性の追求は、この分野では永久課題でグーグルも挑戦していますが、それをしのぐ技術なのでしょうか。
●アンソニー グーグルのアプローチとはアーキテクチャが違います。
当初、検索といえばキーワード検索のことでした。「dog」で検索すれば、「dog」という単語の含まれるドキュメントが検索結果として出てくる。しかし現在、どのドキュメントが重要なのかを判断するのに、重み付けをするようになりました。たまたま「d・o・g」という文字列が含まれているのではなく、本当に犬についての内容であるかどうかを前後の関係から読み取って点数を付け、点数が高いものが検索結果としてより正しいと判断するということです。たとえばドッグショーのドキュメントであれば、最初のパラグラフに「dog」という単語が2回出てきて、次のパラグラフには犬の種類について述べてあるなど、これは明らかに犬についての文書だとわかりますね。このようにして妥当性をランキングするのです。
インターネット時代になって、グーグルがPageRankというおもしろい方法を編み出しました。たとえば、私が「madonna」でインターネット検索したとしましょう。「madonna」というのはブルックリンのパン屋さんなのですが、それは出てきませんね。そのパン屋さんのサイトにリンクしている人は20人くらいでしょうか。しかし、歌手のマドンナのサイトにリンクしているのは60億人ですから、検索結果としてはそちらが上に表示される。インターネットのコンテンツを探すのならそれで正しいわけですが、エンタープライズにおけるドキュメント検索では、それは有効ではないでしょう。
理由は2つあって、1つはエンタープライズのドキュメントは、互いにリンクし合っていません。ですが我々の技術では、パラメトリックサーチのおかげで、パラメータをドリルダウンすることで別の種類のドキュメントを探すことができますし、あるいはクエリによる串刺し検索ができます。3~4の検索エンジンを連携しているのです。ここに、確率を使います。各検索エンジンの結果をどのように評価するかのアルゴリズムがあるのです。
もう1つは、検索エンジンのページランキングは言語に依存しているということです。キーワードによって判断しているので、オートノミーの数学モデルのIDOLによる意味理解というアプローチとは違う。IDOLは非構造化データを解析するための500の機能を持っていて、それによって情報の意味理解を可能にします。さらに、ビデオライブラリのアーカイブとサーチができますし、大量データの処理も可能で、理論値としての上限はありません。情報量の増加にともなって対応できます。
●編集部 大量データの処理が得意ということは、大企業向けの技術なのでしょうか。
●アンソニー 中堅・中小の企業のアプリケーションでも利用されていますよ。非構造化されたものも含めた情報の管理を手助けするというのが、この技術で実現することです。企業の規模ではなく、管理したいデータがどのくらいあり、どのくらい早く精密なピックアップがしたいかということに関係します。たとえば、法律事務所での利用は多くて、中堅の法律事務所でも使われています。法律事務所では、裁判をすることが決まったら短時間で大量のドキュメントから証拠資料を用意する必要がありますからね。
●編集部 実際にオートノミーの技術を利用する際に、ユーザー側にはどの程度の準備や導入のための作業が発生するのでしょうか。たとえば、カテゴリの設定や辞書の作成といった作業が必要なのかということですが。
●熊代 基本的にはありません。Webサイトをどのように見せたらいいかという点について、導入のときチューニングするという程度の作業量です。AI(人工知能)とまでは言わないまでも、どういうドキュメントがあるか、どういうコンテンツがあるかを分析して、自動でカテゴリを作ります。特殊な言語であったとしても同様で、ローカライズもいりません。あとはサイトをどう見せたいか、レコメンデーションなどをどうしたいかといったような、まさにチューニングになります。
●編集部 モジュールがいくつかありましたが、こういう利用を想定しているというようなものはありますか。
●熊代 ユーザーの方が一番興味を持たれるのは、パーソナライゼーションやレコメンデーションの機能ですね。今は本当に手作業でレコメンデーションを作っていますので、我々の技術でそれを自動化するといったことには期待をされています。

●編集部 今後の予定について教えてください。
●アンソニー 技術的には今後インターウォーブン製品にさまざまに機能を統合し、その機能もどんどん増やしていくつもりです。たとえば、昨四半期には.Netバージョンを発売しました。また、「意味ベースマーケティング」構想の普及にも努めていきます。我々は企業における情報の管理や検索について根本的な変化をもたらしました。これは非常に価値あることだったと思っています。
●編集部 ありがとうございました。
オートノミー・インターウォーブン
- 所在地 ● 米国 カリフォルニア州 サンノゼ
- 設立 ● 1995年
- URL ● http://www.interwoven.com/ [1]
- 事業内容 ● エンタープライズコンテンツ管理ソフトウェア製品の開発および販売、保守、コンサルティング業務
オートノミー株式会社
※2009年10月1日、インターウォーブン・ジャパン株式会社から社名変更
- 所在地 ● 東京都港区新橋2-2-9 KDX新橋ビル3階
- 代表取締役 ● 熊代 悟
- 設立 ● 2000年8月
- URL ● http://www.interwoven.co.jp/ [2]
- 事業内容 ● 日本国内におけるオートノミー・インターウォーブン製品(TeamSite Suite)および周辺ソフトウェアの販売、サポート、教育およびコンサルティング業務
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