【小説】CMS導入奮闘記――吉祥寺和男の挑戦

吉祥寺 vs ファミリー製薬——社内コンセンサス獲得の戦い/【小説】CMS導入奮闘記#3

吉祥寺は、部署ごとの温度差を感じながらも社内コンセンサスを得るために奔走する

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吉祥寺和男の挑戦——CMS導入奮闘記

前回までのあらすじ デザイナーの神田に聞いたCMSが使えるのではと考えた吉祥寺は、ネット上で情報集めにひた走る。一方、「CMSは目的ではなく手段」という同期である中野の助言によって、自分がやるべきことを掴みかけていた。(→第2話を読み返す

CMSに対する理解を深め、新たな道標を得た吉祥寺は社内各部署にリニューアルの理解を求めようとする。しかし、各部署がウェブの予算を持っていることもあって、一朝一夕にはいかないのであった。

「目的」を見極めるために

吉祥寺はいつもよりひと駅前で電車を降りて、線路沿いの暗い道を歩き始めた。いつの間に雨が降ったのか、アスファルトの道路は濡れそぼって、まばらに並んだ街灯に照らされて黒く光っていた。

彼は、居酒屋を出てからずっと、中野が言った言葉を反復していた。「CMSは目的じゃなくて、手段だろう?」――。しかし、中野は、CMSを「手段」として使うこと自体については、全面的に賛成してくれたのだった。「CMSはブログのようなもの」という意見についてはやや首をかしげたものの、「今後、企業サイトでCMSを一切利用しないということは考えられない」とまで中野は言った。

いずれにしても、まずは「目的」を、つまり、CMSを導入することによってウェブサイトの何を新しくするかを明確にすることだ。しかし、それは吉祥寺の、あるいはウェブマネ課の一存で決められるべきものではなかった。ウェブで発信すべき情報をもっている人たち、つまり、宣伝、IR、人事、各製品担当といった社内各部署の意見を聞く必要があったし、ウェブサイトのいわば「守護神」である情報システム部の担当者とも話さなければならなかった。

社内の意見をひと通りヒアリングして、社内各部署がウェブに何が求めているかを見極めること、その上で、企業全体のコミュニケーションという視点から今回のウェブサイトリニューアルの目的を見定め、CMS導入の道筋をつくること。それこそが今の自分の役割だ――。

考えがそこに落ち着くに至って、吉祥寺は気持ちが軽くなるのを感じた。それができれば、これまで自分を覆っていたもやが最終的に晴れるに違いない。そう思った。

雨上がりの澄んだ夜風は酒でほてった肌に心地よく、吉祥寺は水たまりを避けながら、軽快な足取りで家を目指した。

次の日、早速吉祥寺は代々木に話をし、社内ヒアリングを行う了承を得た。午前中のうちに、宣伝、IR、人事の各担当者にメールを送り、現在ウェブサイトのリニューアルならびに運用体制の見直しの作業を進めていること、そのためにCMSというツールの導入を考えていること、それらについての意見を聞かせてほしいといったことを伝えた。

問題は、製品の担当セクションとどうやって話をするかだった。現在、ファミリー製薬には300を超えるアイテムがあり、主要なブランドの数も30あまりに上った。そのすべての担当者と話をすることは、事実上不可能だった。

吉祥寺は熟考の末、ファミリー製薬の旗艦商品であり、最大のブランド予算をもつ滋養強壮ドリンク「ハイパーエブリデイXX」と、創業以来のロングセラーである総合感冒薬「シャキットポン顆粒」の両担当者と話をすることに決めた。社内に大きな影響力をもつ「ハイエブ」と「シャキット」の責任者の意見は、製品担当セクション全体の見解と見なしても差し支えない。そう判断したのである。

各セクション担当者の意見は?

各担当者の意見は、ある部分では予想通りであり、ある部分では吉祥寺を大いに失望させるものだった。

吉祥寺の行動に比較的理解を示してくれたのは、IRの担当部長、それから「ハイエブ」「シャキット」両ブランドのマネージャーだった。IRの担当部長は、「正確な情報がスピーディに出せるなら、うちはどんなやり方でもかまわないよ」と言った。しかし、IR情報は誤りが許されないので、情報更新の際にIR部以外の人間が情報にタッチできないようにしほしい、そんな要望を強い口調で付け加えることを忘れなかった。

ブランドマネージャー2人の意見は、どちらも同じようなものだった。とにかく、ユーザーが商品情報にスムーズにアクセスできるようにしたいということ、各商品の情報掲載の形式がばらばらなので、フォームと内容を統一したいということ、そして新しい情報をスムーズにウェブに出していきたいということ――。2人の意見を総合すると、その3点が製品サイドからの要望のほぼすべてだった。

話が難航したのは、宣伝と人事だった。宣伝部の部長は開口一番、「できれば、自由にやらせてほしいんだけどねえ」と、ウェブサイト刷新と運用を統一的に進めるという方針自体に難色を示した。

「うちの仕事はマスと関係の深い部分だし、クリエイティブもウェブ側の都合で勝手につくるわけにもいかないのよ。代理店とか社外のクリエイターとかが関わるケースも多いしね」

そこまでを一方的に告げると、次のミーティングがあると言って、宣伝部長はそそくさと席を立って行ってしまった。

宣伝部の主張はデタッチメント、つまり関わりを拒否しようとする姿勢が濃厚な点で吉祥寺を悩ませたが、人事部の主張はアタッチメント、つまりウェブに過度な期待をもちすぎている点で同様に彼を困惑させた。

人事部の要望とはこのようなものだった。ウェブサイトをリニューアルするなら、就職情報ポータルなどにあるような採用フォームをつくって、オンラインでのリクルーティングの機能を強化したい。さらに、インタラクティビティをフルに活用したコンテンツ、たとえば、社員の素顔が見えるブログや、メールでのQ&Aコーナー、お悩み相談室などをつくりたい――。

人事部長はその後、この少子化の時代にあっては、いかに優れた人材を採用するかが企業活動の明暗を分ける、したがって、人事という部門の役割はますます重要になっている、にもかかわらず、その点が今ひとつ社内で認識されていない――そんなことを1時間以上にわたって延々と論じ続けたのだった。

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