プレスリリース・ニュースリリースの書き方&活用基礎講座

文章作成をプロ並みにする用字用語集の効率的な使い方/リリースの書き方基礎講座#7

日本語の文章を扱う上で注意が必要な促音、音引き、非常用漢字の取り扱い、仮名遣いや送り仮名の正しい使い方を用字用語集を参考にみていきます。

この連載では、主に企業の広報担当者に向けて、初めて書く人でもわかるリリースの書き方から、ネット時代に即したリリースの書き方など、明日から役立つ基礎情報をお届けします。第4回から前回の第6回まで3回にわたってリリース作成時のノウハウを詳細に解説しました。第7回となる今回は、質の高いリリース作りで重要になる用字用語集の具体的な使い方に関して説明します。

※本記事内で引用している『記者ハンドブック 新聞用字用語集』のページ数は、2008年3月に改訂された最新版「第11版」のページ数です。

ニュースリリースの用字用語の表記統一として、連載の3回目で共同通信社発行の『記者ハンドブック 新聞用字用語集(以下、記者ハンドブック)』に準じることをお勧めしました。5回目の記事でも、リリースの文章として使わない方がいい表現の基準として取り上げました。記事を書く記者にとって、『記者ハンドブック』は座右の書であるのはもちろんですが、リリースを書く広報担当者にも必須だと考えます。私のこのようなスタンスに対して、知り合いの広報関係者からこんな質問を受けました。

『記者ハンドブック』は確かに参考になるけれど、記事を書くのが職業のプロの記者と違って、われわれ広報マンは書かれていることを覚えきれない。どうすればいいのか

日々、Webサイトやチラシなどで文書を書く仕事に就いている別の知人からはこんな質問も……

早速入手して活用しているが、効率的な使い方を具体的に教えてほしい

そこで今回は、リリース作成時のノウハウの補足として『記者ハンドブック』の利用法と特に重要な項目を解説することにします。リリースに限らず、日本語の文章を書くときには多くの人が悩み、間違えるものです。特に以下の4つは要チェック項目といえるでしょう。各項目については、記事内で例をあげて詳しく説明していきます。

  1. 外来語の促音や音引き
  2. 常用漢字以外の取り扱い
  3. 同音の漢字表記と平仮名表記の区別
  4. 正しい仮名遣いや送り仮名

『記者ハンドブック』の賢い使い方

前者の広報関係者は、記者が『記者ハンドブック』の中身をすべて記憶しているように思い込んでいるようでしたが、実際はそんなことはありません。『記者ハンドブック』は最新版の11版で全編740ページにも及びます。用字用語集ですから、いわば辞書のような体裁です。とても暗記できるものではありません。

記者でも、用字用語に関して使用頻度の高い言葉や間違えやすい文言について、記事を書きながらその都度覚えていくだけです。新聞社に入社したばかりの新人に、意地悪な先輩記者が「3日で内容を全部覚えろ」と半ば冗談で命じるケースはありますが、ごく一部の校閲担当のプロを除いて丸暗記している記者はいないと思います。ただし、間違った表記をすると原稿をチェックするデスクからとても怒られます。

表現に困る外来語表記

広報担当者も記者と同じ使い方で問題ありません。基本的には、言葉の表現に困ったときにその言葉を引くというパターンです。日々文書に接して自ら書くことを仕事にしている人なら、書いていて何となく迷う表現というのがあるはずです。わかりやすい外来語でいくつか例を考えてみました。

  1. 「ショッピング」に続く場合の「Window(窓)」はどれが正しいか?
    • 「ウインドウ」ショッピング
    • 「ウィンドウ」ショッピング
    • 「ウインドー」ショッピング
  2. 南洋の果実はどちらが正しいか?
    • 「マンゴ」
    • 「マンゴー」
  3. 結婚はどちらが正しいか?
    • 「ウェディング」
    • 「ウエディング」
  4. リリース内でも頻繁に登場する以下の言葉はどれが正しいか?
    • 「コミニケーション」
    • 「コミニュケーション」
    • 「コミュニケーション」

皆さんの答えはいかがでしょうか。正解はそれぞれの最後の表記です。

リリースを書いていると、パソコンで勝手に文字を表示してくれる漢字と違って、外来語の表記に悩むケースは多いはずです。すべて覚えようとしないで、迷ったときにその都度『記者ハンドブック』引いて正しい表現を記憶に留めていく方法がいいでしょう。間違ったまま覚えてしまっているとどうしようもないのですが、何となくこれでいいのかなあ? と感じる外来語には注意を払って、決められた表記を身に付けるようにしましょう。外来語表記は、『記者ハンドブック』の437ページから465ページに「外来語の書き方、用例」「外来語用例集」と「運動用語仮名表記」として掲載されています。

書けない漢字は使わない

一方、漢字の場合はパソコンが難しい字も変換して表示してくれるので、ついつい何でも使いたくなります。しかし、その漢字を自分が手書きで書けるかどうか考えてみてください。書けそうになければ、その字は使わない文字とされている可能性が高いです。思いつくまま挙げてみます。

  • 「絨毯(じゅうたん)」
  • 「煎餅(せんべい)」
  • 「琥珀(こはく)」
  • 「石鹸(せっけん)」の「鹸」
  • 「羨望(せんぼう)」の「羨」
  • 「困憊(こんぱい)」の「憊」

これらの漢字は、言葉を変えるか平仮名にするか、送り仮名をふる必要があります。原則として使用可能な漢字は、18ページから77ページの「新聞漢字表」にある文字だけです。用字用語の使用の可否や言い換え言葉は、109ページから436ページの「用字用語集」で引きます。

見落としがちな漢字の誤用

漢字とひらがなでは意味が違うのに、パソコンが勝手に漢字に変換するため、漢字を誤用してしまっているケースも見受けられます。最も多いパターンが「一杯」です。次の2つの文章は、読み方が同じでも意味が大きく異なります。

テーブルにコーヒーがいっぱいあります

テーブルにコーヒーが一杯あります

コーヒーはたくさんあるのか、1杯なのかどちらでしょう。“たくさん”を意味する場合でも「一杯」としている文章があふれているのが実情ではないでしょうか。『記者ハンドブック』では134ページに「一杯[名詞、数詞に]」「いっぱい[形容動詞、副詞に]」と明確に分け、例として「一杯のコーヒー」や「場内いっぱいの人」などを挙げています。

ほかには仮名遣いや送り仮名にも注意

『記者ハンドブック』で覚えておくべき項目は、501ページから521ページの「書き方の基本」の章と476ページから483ページの「誤りやすい用字用語・慣用句」です。ここだけはしっかり読んで、頭に入れておきたいですね。基本中の基本としては、90ページから105ページの「現代仮名遣い」「送り仮名の付け方」などの日本語表記の決まりも参考になるでしょう。特にリリース関係では、104、105ページの「経済関係複合語の送り仮名」は、身に付けておく必要があるでしょう。ここでは、一般的な表記は「売り上げ」でも、後ろに「高」が付くと「売上高」になる、といった決まりごとが説明されています。

『記者ハンドブック』の重要個所
  • 基本項目(90ページから105ページ)
    • 「現代仮名遣い」
    • 「送り仮名の付け方」
  • 覚えておくべき項目
    • 「書き方の基本」の章(501ページから521ページ)
    • 「誤りやすい用字用度・慣用句」(476ページから483ページ)
  • リリース作成時に役立つ項目
    • 「経済関係複合語の送り仮名」(104、105ページ)

新聞社のベテラン記者でも、記憶違いや書き方の癖から間違った表記をすることもしばしばです。『記者ハンドブック』を硬く考えることはありません。普段、時間のあるときにペラペラめくって気になる表記を記憶したり、退屈しのぎの読み物にしたりする程度にして、リリースを書くときは手元に置いておき、少しでも迷ったら面倒がらずにすぐページを開く。そのような利用方法なら大きな負担にはならないでしょう。暗記するのではなく、パソコンの隣に常備し時間があれば開いて斜め読みするイメージです。

『記者ハンドブック』VS.『毎日新聞用語集』

Web関連ビジネスに関わる読者なら、この連載の著者の山川健は『記者ハンドブック』を勧めてばかりいるけれどアフィリエイトが目的なのかと感じるかもしれません。当然ですがそれは違います。もしアフィリエイトをするのなら、長年世話になった毎日新聞社の『毎日新聞用語集』を全面的に押します。私は今でも『記者ハンドブック』と合わせて『毎日新聞用語集』を使っています。両者で異なる決まりごともいくつかあり、体で覚えた『毎日新聞用語集』の表記を優先して使うこともよくあります。

ただし、この連載の3回目で書いたように、市販されている『毎日新聞用語集』は社内記者向けのものから一部を削除した内容なので勧められないのです。削除されている部分は社内規定集の部分ですが、その中に一般的にも役に立つ「気をつけたい言葉」(差別的な語や表現)が含まれています。

差別的な語も『記者ハンドブック』と『毎日新聞用語集』には違いがあります。毎日新聞社は差別的だと考えるものの、共同通信社はそのように判断しないという言葉です。たとえば、女性会社員をあらわす「OL」という言葉です。毎日新聞社の社内記者向けの『毎日新聞用語集』では使用しない理由を次のように書いています。

女性差別的な、軽い補助的な仕事の印象があり、便宜的に使わない

「OL」は、『記者ハンドブック』に準拠している日本経済新聞社や産経新聞社はじめ地方新聞社はもちろん、自社独自の規定がある朝日新聞社や読売新聞社でも使います。唯一、毎日新聞社だけが排除しているのです。そのため私は今でもOLという言葉を使えません。ついつい、言い換えとして指示されている「女性会社員」と書いてしまいます。

次回は、今回まででとりあえず出来上がったリリースを、配布方法によって手直しするカスタマイズの方法を説明します。

第七章のポイント
  • 広報担当者にも用字用語集は必須。著者のオススメは『記者ハンドブック 新聞用字用語集』
  • 外来語の表記や常用漢字の使用はパソコンの変換に頼らない。少しでも表記に迷ったら用語集を引く癖をつける。
筆者の山川健氏が経産省管轄の企業研究会広報セミナーで講師に

この連載「リリースの書き方基礎講座」の筆者、山川健氏が、経産省管轄の公益法人、社団法人企業研究会が各企業の広報部担当者を対象に東京都渋谷区で3月12日に開催するセミナー「編集記者が教えるニュースリリースの作成・活用実践講座」の講師を務めます。セミナーでは、リリースの受け手である記者側の視点から考えるリリースの作法や活用法を紹介するとともに、インターネットに対応したリリースのあり方を解説。質疑応答の時間もあります。受講料は3万6,750円(同研究会会員企業は3万1,500円)。詳細や申し込みはサイトをご参照ください。

※あなたのリリースを無料診断! 添削希望のリリース引き続き募集中です。

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