プレスリリース・ニュースリリースの書き方&活用基礎講座

リリース作成時の具体的ノウハウ(中)/リリースの書き方基礎講座#5

この連載では、主に企業の広報担当者に向けて、初めて書く人でもわかるリリースの書き方から、ネット時代に即したリリースの書き方など、明日から役立つ基礎情報をお届けします。今回は引き続き、リリースの書き方の具体的なノウハウの説明です。リリースの中で特に重要なポイントとなるリード部分について、詳細に解説していきます。

私が広報アドバイザーをしているクライアント企業では、ニュースリリースの作成も私が担当することがほとんどです。企業のトップや広報担当者の意見、リリースを出す製品・サービスの責任者の方々に取材した結果や基礎資料を基に、記者の視点から、マスコミ関係者受けすると同時に、一般消費者など、幅広い層の人が読みやすいように心掛けてリリースを書きます。その一方で、私は記者としてほぼ毎日各企業から発信された完成版のリリースを読んでいます。私の仕事の中でのリリースとの接点は、自ら作るかすでに世に出たものを読むかのどちらかです。

ニュースリリース#5

こういった事情なので、リリースの最初の下書き、ドラフト的な文書は見たことがありませんでした。この連載記事で「リリースは企業活動をマスコミや消費者、関係者に幅広く伝える公式文書」「決してチラシやカタログではない」と何度も書いてきましたが、これは完成版として配られたリリースを見て感じたことが基本になっています。チラシのような表現やカタログと見間違う内容のリリースが目についたことからそういった指摘をしましたが、これらは良くないながらも最終版として世に出たリリースです。では、それらのできの良くない最終版リリースになる前の下書き、ドラフトとは一体どんな内容なのかが気になっていました。

リリースと呼べないリリースは多い

初校

もとの原稿に対して、最初に校正(修正作業)をおこない、誤字・脱字の修正や体裁を整えた状態のもの

リリース配信サービス

クライアント企業にかわって、リリースの配信を代行するサービス(参考記事

そこで、各企業が出すリリースの初校ともいえる文書に毎日接している、リリース配信サービス会社の責任者に尋ねてみました。リリース配信サービス会社に届く段階の原稿は本来、各企業がこれこそ完全版、これを送りたいと自信を持って出してきたリリース案のはずです。しかし、その責任者によると、どう考えてもリリースとは呼べない代物も少なくないと言います。リリースとしての体をなしていない文書の大半が「激安」「今がチャンス」などのチラシ的な文言が踊っていたり、新製品のラインナップを詳細に説明しながらも全体的な特徴や意義などには触れていないカタログ的な文書だったりするのです。そういった場合は、丁重に書き直しを依頼するのですが、書き直しを依頼した後にはこんなリリース案が戻ってきました。

寒さが厳しくなりました。皆様風邪などひいていませんか。今日は、寒い季節を熱くするこれまでにないケータイコンテンツ○○○のサービス開始をお知らせします……。熱くなって寒さを吹き飛ばせる携帯電話用コンテンツ○○○のサービスを1月XX日開始します。△△システムズが自信を持ってスタートさせるこのサービスは……

「これって、もしかしてメルマガ?」

書き直されたリリース案を読んだその責任者は、言葉が出なかったと言います。確かに、メルマガは顧客や関係者に送る公式文書の性格を持っています。そして、最後まで読むと一応そのサービスの概要や特徴、内容、背景までが織り込まれています。しかし、前々回の記事で紹介したリリースの基本的なスタイルといえる「逆三角形」の構成ではないうえに、文体はいかにも軽いメルマガ風の口語体です。当然ですが、リリースとメルマガはまったく別モノです。こうした現実に私は正直驚きましたが、その責任者は日常茶飯事だと語りました。

ニュースリリースに適した文章表現--リードの書き方

このような失敗をしないためにも、今回はリリースに適した文章表現を学んでいくことにしましょう。前回の記事ではリリース作成時の具体的ノウハウとして、ヘッダーや見出し、リードの書き出し部分のフォーマット作りまでを解説しました。今回はリードの文章をみていくことにします。

おさらいですが、簡潔な文章でリリースのおおまかな内容を説明するのがリードです。そのリリースでアピールしたいポイントを盛り込みながら、コンパクトにまとめます。最近は、フィード(RSS)で配信されるニュースリリースも多く、フィード上では、リード部分は見出しとともにサマリーとして表示されます。それだけにリードの重要性は増しています。リードの文章を理解されなかったら、本文は読んでもらえないからです。

リードの書き出しのフォーマットは前回の記事を参照してください。リードの最初の文の骨組みは、主語が「自社」、述語が「開始しました」「スタートしました」など、“~しました”と繋がります。その間に“何を”と“いつ”にあたる情報が入ります。例をあげると次のようになります。

インターネットコンテンツの△△システムズ(本社・東京都千代田区、代表取締役社長・○○○○)は、携帯電話向けのパズルゲームコンテンツ「□□□□」のダウンロード販売を1月XX日開始しました

主語は「△△システムズ」です。前回内容の復習ですが、「△△システムズ」の前には会社の業態を表す形容詞、後ろには本社所在地と代表者の氏名が入ります。“何を”が「携帯電話向けのパズルゲームコンテンツ『□□□□』のダウンロード販売」、“いつ”が「1月XX日」、そして述語が「開始しました」といった構成です。リードの最初のこの1文が、リリースのポイントを簡潔に言い表しています。

ちなみに、会話部分や製品名などの固有名詞を指し示すときにはかぎかっこ(「」)を用いるのが一般的です。ただし、かぎかっこの中にさらにかぎかっこが入る場合や、書籍のタイトル、作品名には二重かぎかっこ(『』)を使います。

何を”の部分にあたる「携帯電話向けのパズルゲームコンテンツ『□□□□』のダウンロード販売」に注目してください。ここにも、会社名と同じように、サービス名称である「□□□□」の前に、一般名詞でそのサービスを説明する文言が入っています。しかし、この部分が書かれていないニュースリリースが相当数あります。考えてみてください、いきなり製品やサービスの固有名詞を持ち出されてもその企業や名称を知らない読み手には、一体どういうものなのかさっぱり分かりません。

たとえばこんなリリース文を目にしたことはないでしょうか。

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この文章だけ読んで、はたして『Web担当者 現場のノウハウ冬号』が何なのかわかるでしょうか。書籍なのか雑誌なのか、あるいはDVDコンテンツなのか? たとえ、インプレスビジネスメディアがネット関連のメディア会社であることは知っていても、『Web担当者 現場のノウハウ』の名前を聞いたことがなければ、それがどんな物なのか理解することはできません。このような場合は以下のように、その商品を表す簡潔な説明を補うことで疑問は氷解します。

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すべての人がそのリリース提供先の会社名や商品・サービス名を知っている訳ではありませんし、まして新製品なら誰も知らないはずです。新商品・新サービスのリリースの場合は必ず、一般消費者でも理解できるように一般名詞でその新商品・新サービスを言い表す文言を付け加える必要があります。

そのリリースは何の発表なのか

ニュースリリースでよく使われるものの、記者の視点から見て理解し難い表現に「リリースしました」という言葉があります。「リリースする」は一般的に音楽CDや書籍、ソフトなどの発表や発売で使われます。「新バージョンをリリースしました」といった表現です。しかし、これは“発表”なのか、“発売”なのかどちらなのでしょう。非常にあいまいな言葉だと感じます。「リリースしました」が発表を意味するとしたら、何を発表したのでしょうか。新バージョンの内容を発表したのなら「新バージョンの詳細を発表しました」と書くべきですし、発売したのなら「新バージョンを発売しました」と書けばいいはずです。無料サービスの場合は“発売”にはあたらないので「提供を開始しました」という表現になります。

リリースは企業活動を伝える公式文章です。内容を正しく理解してもらうためにも、「発表」「発売」あるいは「発行」「販売開始」など、読み手に誤解されない明確な表現を心掛けたいものです。

リリースで「~から発売」は間違い

ところで、ニュースリリースで「XX日から発売します」と、発売に「から」を付けるケースが多く見られますが、これは明らかに間違いです。なぜなら「発売」は瞬間的なことだからです。発売日は9日や16日など、その日1日だけのことを指します。それにもかかわらず、継続を表す「から」はあり得ません。「発売」と同様の意味を持つ「販売開始」で考えるとわかりやすいでしょう。販売開始日は1日だけなので、「XX日から販売開始」では違和感を覚えるはずです。「発売」「販売開始」は、「XX日発売」「XX日販売開始」といった表現を使います。どうしても「から」を使いたいのなら、「販売する」を使うべきです。「XX日から販売します」なら販売開始日の翌日もその翌日も販売するのですから、問題ありません。

「から」と同じような言葉に「より」がありますが、「より」は新聞記事では比較を表す場合以外は使いません。前々回の記事で紹介した共同通信社の『記者ハンドブック 新聞用字用語集』でも、文語や古くさい表現として排除するよう指示しています。さらに、場所を表す「本社にて」の「にて」も、同書では同じ理由から使わないようにと書いています。場所はすべて「で」で表現します。『記者ハンドブック第11版』なら509~510ページを参照してみてください。

「発表」と「発売」、リリースでの適切な時制

ニュースリリースを出す日と、発売、販売開始、サービス開始日との時制にも納得しがたいパターンが存在します。リリースを出す日と発売日が同じ場合、「発売します」では変です。リリースを出したのが午前中で、販売開始が午後、という意味なら百歩譲って納得できなくもないのですが、だとすればあえて現在形を使う理由として「午後6時に発売します」などと発売時刻を明記するべきでしょう。そうしない限り、時制の違いは不自然です。同じ日なら「発売しました」と、過去形にするのが自然です。記者がリリースを基に記事を書く際には、同じ日であれば過去形で「発売した」と書きます。リリースを出した日の翌日が発売日なら「発売します」が正解です。

アピールしたい特徴を簡潔に

リードの最初の1文でリリースのポイントを示した後には、そのリリースで伝える内容の中で、最もアピールしたい特徴を簡潔に記します。商品やサービスなら、最大の特徴は機能、価格、販売方法などさまざまですが、その中でも最も訴求したいことから書きます。商品やサービスを主語にして、画期的な機能だったら「~は、従来になかった○○の機能を搭載したことが最大の特徴です」、価格だったら「~は、□□円の低価格を実現しました」、販売方法だったら「~は2日間だけ△△で限定販売します」、といったパターンです。この2番目の文で訴える内容が見出しにもなります。2番目の文の長さとの兼ね合いで、リードに3番目の文を入れるケースもあります。そこでは次にアピールしたい特徴を書きます。

リリースの冒頭は定型文。基本パターンを習得する

リリースの冒頭部分、リードの解説が長くなりましたが、細かなことがらも含めて消化しておくことが質の高いニュースリリースにつながると考えて、あえて詳細にあれこれ説明しました。ここまで神経質にならなくてもいいのでは、と感じるかもしれません。確かに、ニュースリリースの書き方は十人十色であることも事実です。こうでなければダメだということはありません。しかし、受け手の立場から見て違和感なく内容が理解でき、文章のプロである記者にしっかりとしたリリースを出す会社だと思わせて企業価値を上げるためには、このくらい気を使っても良いのではないかと考えます。少なくとも、理解しておくことは必要なはずです。

一般的に文章を書く場合は、書き出しで悩み、なかなか最初の言葉が出てこないというパターンも多いでしょう。しかし、ニュースリリースの冒頭の文は完全な定型文なので、理解してさえいればとりあえず書き始めることができます。どんな文章でもそうですが、とにかく書き出してしまえば後は勢いで書き進めることも不可能ではありません。その意味からも、リードの最初の部分のパターンをしっかり覚えておくことが大切です。

◇◇◇

次回は、リードに続く本文とニュースリリースに入れるべき項目についての具体的作法を解説します。

第五章のポイント
  • ニュースリリースに適した文章表現を心がける。メルマガ風の口語体はNG
  • 商品やサービスの説明や表記の時制など、細部にまで注意して質を高める
  • リリースのポイントの後には、最も訴求したい特徴を簡潔に添える
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