知って得するドメイン名のちょっといい話

gTLDが自由化されるってどういうこと?/知って得するドメイン名のちょっといい話 #13

「ICANN、gTLDを自由化」というニュースが世界中を駆け巡った
JPRS通信 知って得するドメイン名のちょっといい話

2008年6月30日にパリで開催されたICANN会合、その場からメディアによって発信された「ICANN、gTLDを自由化」というニュースが世界中を駆け巡った。「企業名のTLDができる」とか「.osakaみたいな地域名もTLDに」とか「個人でも好きなTLDが使える」とか。さまざまな情報が入り乱れたが、本当のところは?

gTLD新設に関するこれまでのICANNの取り組み

この話を理解するには、ICANNのおさらいから始める必要があります。ICANNは「Internet Corporation for Assigned Names and Numbers」という名前が示すとおり、インターネットにおける名前と番号に関する全体的な調整を行う国際組織です。名前はドメイン名など、番号はIPアドレスなどを指します。ICANNの検討体制には、世界中のドメイン名やIPアドレスの関係組織やサービス事業者、また各国政府代表など、さまざまな立場からの参加者が、活発な議論を展開しています。

ICANNの設立は1998年にさかのぼりますが、「gTLDを増やす」ことは、そもそもICANNの設立目的の1つでした。

当時gTLDといえば、.com、.net、.orgの3つが使われていましたが、インターネットが急速に広がっていくなかで既に多くのドメイン名が登録されていました。「欲しいドメイン名はもう誰かに登録されている」という状態です。このため、希望の文字列をドメイン名として登録可能にするために新しいgTLDの設置が望まれていました。また、新しいgTLDの出現で既存のgTLDとの競争が促進されることによる、サービスの向上も期待されていました。

こうした背景からICANNは積極的にTLDの設置に向けて動き出し、「運営者の募集」という手段で新しいTLDを設置することにしました。つまり、新しいTLDのレジストリになりたいと思う者が、ICANNの募集に対して応募するのです。

そして2000年、第1回目のTLD募集が行われ、そこから「.biz」や「.info」など7つのgTLDが承認・設置されました。第2回目は2003年末から手続きが開始され、そこから「.mobi」や「.asia」など、現在までに6つのgTLDが承認・設置されました(詳しくは、2006年11月刊の本誌Vol.7「JPRS通信」を参照)。

過去2回のTLD募集は、ICANNにとっては審査基準や手順を作り出すためのトライアル的な意味もありました。このため、それぞれ新設するTLDの数は最大で10個程度までとあらかじめ決められていました。作られたTLDも、博物館用の.museumやモバイル機器用の.mobiなどのように、登録するユーザーの資格やドメイン名の用途を限定したTLDが多くなっていました(表1)。

設置時期TLDおもな用途登録時の制約
第1回募集で設置.bizビジネスなし
.info情報提供なし
.name個人名あり
.museum博物館・美術館あり
.coop共同組合あり
.aero航空運輸業界あり
.pro専門職(弁護士・医師等)あり
第2回募集で設置.asiaアジア太平洋地域あり
.catカタルーニャ地方あり
.jobs人的資源管理あり
.mobiモバイル機器・サービスあり
.telテレコミュニケーションあり
.travel旅行業界あり
表1 これまでに設置されたTLD

しかし、この2回のgTLD新設を踏まえ、ICANNはいよいよ本格的なgTLD設置へと動き出すことになったのです。

3回目はこれまでとちょっと違う?

現在検討が進められている第3回目のgTLD募集は、これまでと何が違うのでしょうか。簡単に言ってしまえば、

  1. 登録するユーザーの資格やドメイン名の用途を制限しないgTLDも対象にしている(.comのようなgTLD)
  2. 新設するgTLDの数に制限を設けていない
  3. IDN TLD(国際化されたTLD)も対象にしている

の3点です。逆にいえば、これ以外については過去2回の流れと大きな差はありません。

過去2回のgTLD募集では、ICANNは以下のような点を判断基準にしてきました。そしてこの方針は今後も維持されると見られています。

  • そのTLDは既存のTLDとの類似による混乱などの問題を抱えていないか
  • レジストリはサービスを安定的に継続提供できるか
    • 企業の経営状況
    • サービスの提供体制
    • 収支計画などのビジネスプラン
  • レジストリは十分な技術力をもっているか
    • レジストリシステムの運用力
    • DNSに関する技術力

つまり、これまでと同様に、誰でもTLDレジストリになれるわけではなく、誰でも好きなTLDを無条件に使えるようになるわけではない、ということです。

そういう意味ではニュースで使われていた「自由化」という言葉は誤解を生みやすいように思えます。

現在の検討状況

2008年6月のICANNパリ会合では、手続きなどを検討している事務局から、新gTLDの募集と応募に関する手順の案や、今後のスケジュールの見込みなどが発表されました(表2)。

時期作業内容
2008年第4四半期(10〜12月)新gTLDの提案依頼書案の作成
2009年第1四半期( 1〜3月)新gTLDの提案依頼書を確定
2009年第2四半期(4〜6月)新gTLDの提案受付開始
表2 ICANN事務局が示した今後のスケジュール案

これまでに検討されてきたポリシや、今回事務局から示された手順案は、まだまだ検討課題を多く残しています。しかし、叩き台となるものが出てきたことで、これまで以上に具体的な検討が進むものと思われます。

ICANN事務局が示したスケジュールの見込みどおりに進むかどうかはわかりませんが、難しいのではないかとみる人が多いようです。次回のICANN会合は、エジプトのカイロで11月に開催されますが、この段階で今回の方向性をもとに、より具体的なイメージがみえてくるのではないかと予想されます。

審査方法や手続きの詳細については検討中という段階ですが、「新しいgTLDを公募する」ことは決まっています。現時点でのスケジュールの案では、2009年中には新gTLDの公募が行われることになっていますが、いずれにせよ、近い将来、いくつかのgTLDが新たに登場することは間違いありません。

ところで、ニュースなどであげられていた「企業名のTLD」や「.osakaみたいな地域名のTLD」とか「個人によるTLD」などは可能なのでしょうか。ポリシ自体が検討中なので、答えは「まだわからない」ということになります。ただ、いずれについても問題点・検討課題が指摘されていて、難しい分野ではあるようです。

ICANNは検討の経過をウェブで公開しています(ICANN | New gTLD Program)。

新しいgTLDができるということ

「自由化」かどうかはともかくとしても、新しいgTLDは確実に導入されるでしょう。そうなったとき、ドメイン名を利用する側にとっては、ドメイン名登録の際にTLDの選択肢が増える、ということになります。このことは、単に「自分が希望する文字列がドメイン名として登録しやすくなる」ということだけではありません。

新しく出てくるgTLDが、どのようなイメージを与えられて提供されるのか、もしくは世間一般のユーザーにどのようなイメージをもたれるようなものになるのか、ということがとても重要です。

また、ドメイン名を長く安心して利用するためには、どういう組織がレジストリとなってサービスを提供しているのか、ということも、新しいgTLDでは特に意識した方がよいでしょう。

今後も、ICANNでの検討の動きについて新しい情報があればこのコラムで紹介していきたいと思います。

※この記事は、レンタルサーバー完全ガイドの発行する雑誌『レンタルサーバー完全ガイドVol.14』(2008年8月30日発売)に掲載されたものを再編集して掲載しているものです。

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