はてなが訊く「オウンドメディア成功の法則」

年間700万UUを達成した「普通」な施策とは?「アマノ食堂」のWeb担当者に聞いた

アマノフーズのオウンドメディア「アマノ食堂」。激戦の料理レシピ分野で成果を上げる運営の秘訣を、アサヒグループ食品の鈴木章子氏にうかがった

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アサヒグループ食品株式会社 鈴木章子氏

本連載では、株式会社はてなの磯和太郎氏をインタビュアーに迎え、さまざまな人にオウンドメディアの運営、コンテンツ制作、継続の秘訣について訊いていく。第7回は、アマノフーズのオウンドメディア「アマノ食堂」の運営を担当しているアサヒグループ食品株式会社 コンシューマ事業本部 マーケティング二部 担当副部長 鈴木章子氏にお話をうかがった(所属・役職は取材当時)。

フリーズドライ食品のアマノフーズが運営するオウンドメディア「アマノ食堂」。食材の保存法や料理家のお手軽レシピなど“おいしい食・人・暮らし”の情報を発信している

若い世代のファン育成を目的にアマノ食堂を運営

磯和:「アマノ食堂」は2015年から運用開始して7年目になりますが、鈴木さんは当初から関わっていたのですか?

鈴木:いいえ、私は立ち上げメンバーではなく、2018年から引き継ぐ形で担当になりました。私自身は、当時は別のブランドの広告宣伝のマーケティングを担当していました。

磯和:アマノ食堂のターゲットはどのように想定していますか?

鈴木:アマノフーズの主力商品であるフリーズドライのおみそ汁の購入者は50~60代が中心ですが、簡単便利で美味しいフリーズドライをもっと幅広い層の人たちにも知ってほしい、商品を手にとってもらいたいということから、ターゲットを20~40代女性に定めてアマノ食堂を運営しています。

磯和:オウンドメディアの運営の目的、KGI、KPIの設定はどうしていますか?

鈴木:アマノフーズブランドのファンの獲得と育成を目指しています。KPIとしては、UU(ユニークユーザー)を追っており、2020年には1年間で700万UUを超えました。2019年からは通販のECサイトへの誘導も目的に加えております。

アマノ食堂を開設した2015年から2020年までのUUとPVの推移。2020年には700万UUを超えた

コンテンツの発想を転換。料理でつまずきやすいポイントを解説するように

磯和:オウンドメディアを開始してから今までの成長をどう捉えていますか?

鈴木:順調とは言えず、2017年までは伸び悩んでいたようです。当時は記事を作って配信するだけで集客施策ができておらず、立ち上げ当時の担当者いわく、「おしゃれで凝ったレシピを紹介していたものの、すでに他に大規模なレシピサイトが多数あるなかでは、あえて新規のレシピサイトは見に来てくれなかった」とのこと。

私が担当になって、どういうコンテンツがいいのか改めて考え直し、料理がそこまで好きではない人が料理をするときにつまずきやすい「下処理」「食材の保存」など、大手レシピサイトが取り扱っていない切り口で記事を用意することにしました。以降、少しずつ訪問者が増えるようになりました。

磯和:レシピよりも、食材の取り扱いにコンテンツをシフトしたのですね。

鈴木:はい、食材の取り扱いの記事を公開してわかったことがありました。それは、旬の食材の記事は、毎年その時季になるとアクセス数が伸びるということです。いちご、枝豆、とうもろこし、あさりなど、その季節に食べられる食材はよく検索されるので、そのニーズ応じた記事を新しく用意したり、古い記事をブラッシュアップして公開しなおしたりしています。

2016~2021年の「あさり」検索数の推移。あさりは春が旬で、毎年3~5月には検索数が増える(Google Trends調べ)

また、普通に「あさり」だけをテーマにしても、他に競合の記事が多いので、第2キーワードを意識して記事を作っています。たとえば、「プロに聞く! 「あさり・しじみ・はまぐり」の砂抜き・5分で砂抜きする裏ワザも検証」では、タイトルに「あさり」だけではなく「砂抜き」も入れました。「あさり」は競合サイトが多いのですが、「あさり 砂抜き」だと、検索結果のかなり上位に記事が表示されます。

上位に表示されれば、広告をしなくても、お客様が自然に見に来てくれます。そのような考え方で記事を作って、増やしていったところ、検索経由のお客様が増え、UUが少しずつ上昇していきました。

現在のPV構成割合を見ると、「旬の食材関連」が8割、残り2割が「道具とレシピ」や料理研究家の方の「常連さんコラム」などとなっています。

マーケティング予算全体の10%、工数も10%程度で運用できている

磯和:オウンドメディアは長期的な施策であるにもかかわらず、オープンした後しばらくUU、PVといった数字が伸びないと、それだけで「効果がないから継続しない」という判断をしてしまう会社もあります。UUが伸び悩んでいた時期に担当に就任するにあたって、経営陣とのやり取りなどはありましたか?

鈴木:「アマノ食堂」にはアマノフーズ全体の広告マーケティング予算の10%くらいをあてています。

2019年からECへの誘導もKPIに加え、記事の内容によっては、おすすめの商品も取り上げるようにもなりました。お客様の食生活の困りごとをサイト内で解決できることを中心にしつつ、それを通してアマノ食堂のファンになってもらい、「そういえば、この会社はフリーズドライフードのブランドをやっているんだよね、食べてみようかな」という流れをつくれるように。それくらいの気持ちでやっていたら、徐々に成功してきました。

磯和:日々の記事更新は、どのような形で運用されていますか?CMSの選定や記事作成、更新の体制についても教えてください。

鈴木:サーバーやCMSなどの運営インフラについては、外部パートナーである制作会社におまかせしています。その点については、私たちにはこだわりはないので、アクセスが急に増えてもパンクしないようなサーバーで、読者が読みやすいようなデザインができるCMSで、という要件でお願いして、対応していただいています。

日々の記事については、外部パートナーと毎月振り返りをしながら、次回のテーマを決めて、外部パートナーがライターに打診して記事作成をしています。あがってきた記事は私がすべてチェックして、修正してから公開しています。

磯和:毎月5~10本くらいの記事をアップしていますが、記事のチェックにはどのくらいの時間をかけていますか?

鈴木:全体の10%くらいでしょうか。

磯和:それはすばらしいですね。記事のチェックだけでも時間がかかりすぎて疲弊してしまうというお話もあるので、効率的に回せていると思います。外部パートナーは、ずっと同じ会社に依頼しているのですか?

鈴木:はい、同じ会社にお願いしています。コーナーごとに担当者がいて、解析担当の人もいるので、メンバーは5人くらいです。もう運用開始して7年目で制作に慣れてきていることもありますし、私自身も、広告の制作業務が長いので、悩まないで運用できているのかもしれません。確かに新人だったら、この量をこなすのは難しいかもしれませんね。

磯和:外部パートナーは料理系専門の制作会社なのですか?

鈴木:料理や食が専門ではありませんが、長年運用していく中でスキルや知識を溜めていったのだと思います。細かいところまでしっかり作っていただいているので、助かっています。

磯和:記事の内容や企画によると思いますが、他の会社では、専属担当が1人つきっきりでも、月に2、3本しか公開できずサイト自体が成長しないし、それだけ労力をかけているのに効果がないという判断をされてしまうこともあるようです。月に10本程度をコンスタントにアップするには、年間でネタを作れるルーチンが必要ですし、分析して改善しながら運用できているからこそだと思います。

Twitterでオーガニックと広告をターゲットによって使い分け

磯和:記事の流入は、検索への対応以外には何かやっていますか?

鈴木:本サイトで新記事をアップしたら、それと同時に、Twitterの方で記事を公開したことを告知する流れにしています。また一部の記事はプロモツイートを月10万円分くらい出稿しています。フォロワーの人にはオーガニックツイートで届きますが、新しい人にも気づいてもらうためにプロモツイートを行っています。

「アマノ食堂」のTwitterアカウント(@amano_shokudo)。フォロワーは77,524(2021年12月6日時点)

Twitter広告でも、商品パッケージの広告だとエンゲージメントが低いですが、記事のお知らせで広告を使うと、関心のある人が見てくれます。記事が役立ったり、読んで面白かったりすれば、その後フォロワーになってくれますし、料理で何か知りたいことがあればここを見ればいい、と思ってもらえます。

磯和:Twitterフォロワー数はKPIの一つということでしたが、フォロワー獲得のための施策などは行っていますか?

鈴木:これまでは増やす施策は行っていませんでしたが、サンプリングをするようになりました(詳細は後述)。そうした施策の効果もあり、フォロワー数は現在7.7万人です。来年もフォロワー数の底上げはやっていきたいですね。

普通のことしかやっていない

磯和:検索ニーズを把握して旬の素材に合わせて記事を用意する、ファンとTwitterでつながる、宣伝色を排除したプロモツイートで新規ユーザーを獲得するなど、デジタルマーケティング施策の王道をきちんと行っていますよね。

鈴木:自分では普通のことしかやっていないと思っています。「常連さんコラム」ではフォロワー数の多い料理人の方にコラムを書いていただいています。記事がアップされると、自分のアカウントで記事をツイートして告知してくれるので、その方のフォロワーが見に来てくれるのも集客としては大きいです。レシピ記事をお願いしているリュウジさんは、依頼した時点でもともとフォロワー数が多かったのですが、さらに人気になっているので、勝手ながら、一緒に成長できているように感じます。

「毎日の生活がちょっと“ディープに”楽しくなる」というコンセプトの「常連さんコラム」。リュウジさんのフォロワー数は約195万

サンプリングで自然な口コミを増やす

磯和:他の施策はどのようなことをやっていますか?

鈴木:ここ1、2年は、テレビCM、サンプリングなどリアルを含めたマーケティング、YouTube、Instagramなども行っています。YouTubeは「アサヒグループ食品公式YouTubeチャンネル」の中に「アマノフーズ」というカテゴリを作って、アマノフーズのCM動画や、「きょうも食べたいフリーズドライめし」「松岡茉優の1分料理ショー」といったオリジナルコンテンツをアップしています。オウンドメディアはファン育成ですが、ほかはブランド認知拡大のための施策です。

YouTubeで配信している「きょうも食べたいフリーズドライめし

磯和:アンバサダーサンプリングはどのように行っていますか?

鈴木:アマノフーズの商品の中には、「チキンカツの玉子とじ」のようにフリーズドライであることに驚かれるような商品があるのですが、現在、記事をお願いしているコラムニストの方や、SNSでアマノフーズをよく話題にしている一般の方に試食としてお送りしたりしています。もちろん許可をいただいて、ですが。お願いする際は、「おもしろい商品ができたのでよかったらお試しください」という形でお渡しして、特に感想などはお願いしていないのですが、中には自ら感想をTwitterにアップしてくださる方もいらっしゃるので、公式アカウントから引用リツイートでお礼返信したりしています。

磯和:サンプリングが口コミを増やすことにつながっていますね。

鈴木:高額をかけなくても効率的にできる方法を模索しながら行っています。

磯和:Webだけにこだわらずに、マーケティング施策全体のなかで、オウンドメディアができること、サンプリングでできること、Twitterでできること、という形で施策を展開しているところがすばらしいですね。

鈴木:ブランドの広告を担当するメンバーがたくさんいて、業務が細分化されていると、こうはいかないかもしれませんが、1人なので、施策全体を横断的に見られるのがよいのかもしれません。

お客様の目線を忘れない

磯和:運営を継続して成果を出し続けるには何が必要でしょうか?

鈴木:Webに限りませんが、お客様の目線を忘れてはいけないと思います。記事一つとっても、自分がお客様だったらその記事を読みたいのか、リンクをクリックしたいのかを考えています。自分で読まないなと思ったら、それは他の人も同じでしょう。お客様の役に立つかどうかは常に意識しています。

また、目的と掛け合わせて、何のためにする施策なのかは大切です。結果として、オウンドメディアは継続していますが、目的はお客様に情報を届けて満足してもらいブランドのファンになってもらうことなので、他に良い方法があれば目的を変えずに手段を変えることもあると思います。

磯和:今後、チャレンジしてみたいことはありますか?

鈴木:アマノフーズは、フリーズドライみそ汁の市場で約6割を超えるトップシェアを持っていますが、まだブランドの認知率は50%前後。もっと上げていくための施策をどんどんやっていきたいです。食品なので、やはり実際に体験してもらうことが大事だと思っていて、アマノ食堂はWebサイトを通してしかお客様に接することができませんが、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いたら実際に食べてもらえる場も用意してみたいです。

磯和:Webに限らず、マーケティング施策全体、ブランド全体を横断して統括している鈴木さんならではの新しいチャレンジですね。ぜひ実現してほしいです。

聞き手:磯和 太郎(いそわ・たろう)

株式会社はてな サービス・システム開発本部 プロデューサー

大学卒業後、SIerやITベンチャー、フリーランスなどでの開発・Webディレクションを経て、2012年インフォバーン入社。ソリューション担当の執行役員などを歴任し企業のオウンドメディア構築やコンテンツマーケティングを推進。

2017年はてな入社後は「はてなブックマーク」「はてなブログ」のプロデューサーを経て、現在は、企業向けオウンドメディアCMS「はてなブログMedia」およびはてなのブロガーリソースなどを活用したコンテンツ制作支援を含むコンテンツマーケティングサービスの開発を統括している。

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