[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

マーケターとしての「サバイバル能力」を身につけるためにやったこと

マーケターによるリレーコラム、今回は花王の辻本光貴氏。マーケターとしての普遍的な能力を身につけるために行った実験的な試みについて。
花王株式会社 メディア企画部デジタルメディア室 辻本光貴

マーケターに限らず、社会人の成長は、実務経験の量と質で決まるのではないかと考えています。

ただし、ある会社でのマーケティング実務経験が他の会社で転用できるとは限りません。ヒト・モノ・カネ・情報といった会社の資産が違えば、闘うフィールドである業界によっても、とるべき戦略・戦術は違ってくるからです。

「自分はマーケターとして生き残ることができるだろうか」――私はある時、ふとそんなことを思いました。

実務経験はあっても会社の資産がなければ、何もできない。マーケターとしての「サバイバル能力」のなさに恐怖を感じました。

どんな状況、どんな会社でも通用し、生き残れるマーケターになりたい。サバイバル能力を身につけたい。

そこで私は実験的な試みとして、プライベートの時間に「ふわぽん」というブランドを立ち上げて、サプライチェーン構築、販売活動、プロモーション活動に挑戦してみました。

今回は私のブランド「ふわぽん」の活動を通して、身についたこと、感じたことを紹介します。

「ふわぽん」の活動計画を立てる

ブランドを支える製品やサービスの開発には、モノづくりの技術や予算、開発工数が必要です。開発後の普及活動を考えると、そこからさらに時間と予算がかかります。

マーケターとしてのサバイバル能力を身につけたいとはいえ、今の自分にはモノづくりの技術もノウハウも時間も予算もないため、自分で一から商品開発をすることはできません。

個人ではなく、仲間を募って始めるのはどうでしょうか。しかし、仲間を募るほど話を大きくすると、意見の相違から何も進まない可能性があります。

小さく始めて、必要に応じて大きくする、仲間を募るという進め方で考えをまとめた結果、家にあるパソコンと、ペンタブでオリジナルキャラクターを作ってからキャラクター商品を制作・販売し、少しずつ規模を大きくする計画を立てました。

キャラクターの名前は「ふわぽん」。おばけです。

おばけのふわぽん

名前の由来は「おばけでふわふわした存在」「仲たがいを意味する“不和”をぽんと解消する存在」という2つの意味を掛け合わせています。コロナ禍で意見が衝突する人たちのニュースを見て、それらがなくなるように願いを込めました。

【「ふわぽん」活動計画】
  1. イラストを描く
  2. イラストそのものを、商品として販売する
  3. イラストを活用して商品を作り、受注生産で販売する
  4. イラストに別の要素(たとえば音楽など)を掛け合わせて、コンテンツ配信する

ふわぽんの取り組みは、マーケターとしてのサバイバル能力習得が目的です。正直、絵がうまいとは自分でも思っていませんが、完璧なものを作り上げてから販売を始めるのではなく、三日坊主にならないようにまずは世に出すことを優先し、問題点は逐次改善する姿勢で臨みました。

商品化とショップ構築

ふわぽんのイラストを、まずはLINEスタンプで販売しました。LINEスタンプであれば、Webサイトの開設や在庫管理が不要です。

LINEスタンプの販売ページ

また、LINEスタンプのリンクを、SNSの投稿に貼り付けて告知もできるため、販促活動も容易です。SNS投稿用の画像は、LINEスタンプ素材を転用できるため、時節に合う画像を使って投稿活動ができます。

販売開始から1ヵ月後、ささやかではありますが、コンビニで買い物ができる程度の収益を上げることができました。自分で何かを作って販売した経験は初めてだったため、ささやかな収益でも気分が高まりました。

次にイラストを活用したTシャツの販売を検討しました。

コストをかけずに、ネットショップBASEでECショップを開設しました。BASEのサービスで、Tシャツも受注販売にしたため、在庫管理コストをかけずに、販売活動を開始できました。

BASEの販売ページ

また、BASEではショップ訪問者数などのデータが確認できるため、日々増えて行く人のデータを見て嬉しくなりました。

ただし、BASEの場合、ショップ開設数は多いものの、BASEで買い物をする人の数はまだそれほど多くないのではないかという疑問もあったため、Amazonのサービス「Merch by Amazon」を活用したTシャツ販売も開始しました。

このサービスは商品登録を行うと、国内だけではなく、海外への販売も可能になるため、ふわぽんTシャツの販売網が一気に拡大しました。

こうして、さまざまなサービス・SNSを組み合わせて、ささやかではありますがブランドビジネスの根幹を構築できました。

マーケターとしてのサバイバル能力は身についたのか?

収益は小さいため、まだビジネスとは言い難いですが、予算がない中で知恵を絞って実行するサバイバル能力は、身につき始めたと実感しています。

ちなみに、個人の取り組みを続けるコツは、「”仕事”にしない」です。

イラストを描く、ショップを作る、SNSで発信する――すべてビジネスに必要な作業ですが、普段の業務と異なり、”気分転換”になっているべきです。

会社の業務が終わってからも“仕事”が続くようでは、つらいですよね。サバイバル能力を伸ばす原動力は、”気分転換”というポジティブ精神です。

また、普段の業務では得られない経験として、「期日までに作品を仕上げるクリエイターの苦労」や「ショップを構えるために情報収集する個人の苦労」を知るだけではなく、恐怖も感じました。

既存のサービスやSNSを組み合わせれば、販路の構築や商品情報の発信がかんたんにできるので、競合商品が次々と現れやすい時代になったと言えるからです。

私のように、まずは小さく始めて生活者の反応を観察し、受け入れ性の高い商品は何かを模索し続け、勝機があれば一気に投資金額を増やして攻勢を仕掛けられます。

場合によっては、市場で高いシェアを占める商品であっても、知らぬ間に足元をすくわれるかもしれません。

マーケターとしてのサバイバル能力が、会社でどう活かせるか不明ですが、枠に囚われずに、戦略・戦術立案できる人間になるため、これからもプライベートな時間で挑戦し続けようと思います。

今後は、広告やSNS発信などを組み合わせた生活者へのアプローチに加えて、イラスト以外の新たな分野を開拓して、ふわぽんの認知経路を拡大できないか模索しています。

サバイバル能力をぐんと高めるような知見が得られましたら、またこのコラムで報告します。

次回もお楽しみに。

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