【レポート】Web担当者Forumミーティング 2021 春

チュチュアンナ、半年にわたる顧客リサーチ奮闘記! セグメント転換するトリガーの見つけ方

国内に260もの小売店舗を展開するチュチュアンナが、顧客理解のために社内チームを設置。リサーチから、結果を踏まえた施策の企画・実施内容を、事例を交えて解説する。

会員ランク分析やRFM(アールエフエム)分析だけでなく、顧客のインサイトを更に深く理解し、コミュニケーションをとりたいと考えても、人材やコストの確保はなかなか難しい。その課題の中で、チュチュアンナは社内にリサーチチームを立ち上げた。

Web担当者Forumミーティング 2021 春」に、チュチュアンナの池田雅春氏と西岡和也氏が登壇し、半年間に亘る奮闘を詳しく解説した。

チュチュアンナ デジタルマーケティング部 兼 経営戦略室 マネジャー 池田雅春氏(右)、同社 デジタルマーケティング部 マネジャー 西岡和也氏(左)

社内チームを立ち上げ、内製による顧客理解のリサーチを実施

女性・子ども向けを中心に、レッグウェアやインナーウェアの製造・小売を手掛ける「チュチュアンナ」。1973年に創業し、現在は国内に260店舗、海外に240店舗を展開し、2,000名を超える従業員を擁する。店舗でのコミュニケーションに加え、近年はオウンドメディアによる情報発信を積極的に行っており、スマホアプリでもさまざまな施策を行ってきた。

特にアプリについては3年半で累計360万ダウンロードされており、年間の購入額に応じて3段階の会員制度・特典を設けている。なおアプリ会員360万人に対して、EC会員が77万人で、両方を統合している会員24万人の内訳は、シルバー会員が85%、ゴールド、ダイヤモンド会員が併せて15%となっている。

これまでチュチュアンナは店舗を起点として事業を展開し、アクセスの良い出店場所にこだわり、若年層を中心とした「かわいい」商品の開発・提案を行うことでブランド価値を高めてきた。その一方で、店舗に依存し、EC(イーコマース)などデジタル投資が遅れてきたという課題があり、今後、単に出店数を増やすだけでなく、さらなる成長を図る上で新たな施策が求められていた。

1年前に入社して、マーケティングの問題点として会員ランク別の対応が十分でないと感じた。ダイヤモンドやゴールドなどロイヤルティが高い顧客ほど離反傾向にあるという現状認識が乏しかった。若年層向けにブランドを育ててきた一方で、最も当社を愛してくださっている顧客層との乖離があった。そこで、顧客調査を行い、分析を行った(西岡氏)

そこで行われた顧客理解のためのリサーチは、次の6ステップ。

  1. 顧客セグメントの設定
  2. 顧客ピラミッドを構築し各層を整理
  3. 各層にデプスインタビューを実施
  4. より顧客層を理解した上で、ペルソナを設計
  5. カスタマージャーニーマップの設計
  6. 施策を立案し、評価アンケートの実施

予算的なところもあり、リサーチの実施は他社に依頼せず、リサーチチームとしては池田氏ともう1人でプロジェクトを結成。産学連携での取り組みにより、3名体制で全体戦略の策定を行った。さらに、西岡氏が所属するデジタルマーケティング部が施策実行を担い、商品企画設計を担うMD部や直営店舗をみる店舗営業、卸営業部、情報システム部などと連携しながら進めていった。

データの分析については、まず260店舗分の膨大な購買データを吸い上げ、ECの購買データ、顧客の属性データをTableau(タブロー)に集約。これを2021年秋にはMA(マーケティングオートメーション)と連携させて、アプリのプッシュ配信やLINE、メールなどによる1to1コミュニケーションの仕組みを実現する予定だ。

データ収集から分析、配信までの構造

7つのセグメント分けにより、顧客の傾向を大きく把握

コミュニケーションにあたっての顧客セグメントについては、まず、ブランド認知で「未認知顧客」、購入経験で「未購買顧客」を切り出し、購買頻度と金額によって、「ロイヤル顧客」「一般顧客」「離反顧客」に分け、さらに次回購買意向・好意度によって、ロイヤル顧客を「積極ロイヤル顧客」「消極ロイヤル顧客」に、一般顧客を「積極一般顧客」「消極一般顧客」に分類し、全部で7つに分類わけした。

購買頻度が高いからといって必ずしもロイヤルティが高いとは限らない。たまたま近くに店があるという理由の場合は、実はそんなにブランドロイヤルティが高くない場合もある。その場合は『消極ロイヤル顧客』と位置づけた。そこをしっかり切り分け、コミュニケーションを行うことが大事だ(池田氏)

さらに13歳以上の女性1,103名を対象にアンケート調査を行い、次図のような顧客ピラミッドを構築した。その上で、「一般顧客からのロイヤル化」、「新規顧客化」、「消極ロイヤル顧客の”積極”ロイヤル化」、「積極ロイヤル顧客のスーパーロイヤル化」、「未認知顧客の新規顧客化」、「離反顧客の復帰」のどこから着手するのか優先度を策定した。

顧客ピラミッドを構築し、施策優先度を設定

さらに顧客セグメントごとの年齢分布も整理し、顧客ピラミッドの属性の分布と照らし合わせてみてみると、最も若い「ピュアヤング」の未購入・非認知が高いことが判明。もともとはこの層に強かったはずが、そこへの投資が遅れているために影響が出ている可能性があることが見てとれた。

セグメント別インタビューで、顧客の認知や購買行動を深掘り

7つのセグメント分けによる整理の後、ロイヤル顧客(20〜40代女性)7名、一般顧客(20〜30代女性)5名について、それぞれ一人ひとりに対し、約2時間かけて深掘りのデプスインタビューを行い、離反顧客、未購買顧客(20代女性)11名へのグループインタビューを行った。

内容としては、ブランド認知から今に至るまでの出来事やイメージを時系列で聞いていくというもの。たとえば、ブランドを知ったきっかけ、ブランドを認知した時のイメージ、商品購入のきっかけ、印象に残っているエピソードなどを聞いていった。そして各層のギャップを見つけ出し、それぞれロイヤル、離反になった理由についてそれぞれストーリーを追っていった。

その結果、デプスインタビューから、性格やファッション感度、価格感度、購買商品傾向などに、明確なペルソナの差異が見えてきたという。

かなり意外な発見があった。たとえば、一般顧客で多い“ついで買い”がロイヤル顧客も多いと思われたが、想像以上に特定の商品を目的買いする傾向にあった(池田氏)

ペルソナができたところで、カスタマージャーニーを整理。ブランドとして認知されてから10年以上にわたって購入する人が多いこと、また、中高生の頃に学校に履いていくソックスの購入から下着やパンストの購入などにつながり、ロイヤル顧客化するといった流れがあることが明らかになった。こうした認知経路と何で定着していったのか、行動の共通項からロイヤル版と一般版のカスタマージャーニーを作成した。

簡素化したカスタマージャーニー

32の施策立案へ アンケート分析で見えてきた「新しい気付き」

こうした顧客理解を踏まえて、社内で約32の施策立案を作成し、その施策に対してWebアンケートで約1,500名の消費者に可否を回答してもらった。その結果、商品、店舗・販路、サービスなどによって、ロイヤル顧客や一般顧客に効く施策と、非認知層の取り込みに効果がありそうな施策というように、さまざまな気付きがあったという。たとえば、商品に関する施策に対して、顧客層ごとの評価をまとめたものが次図だ。

商品に関する施策への顧客層ごとの評価

池田氏は「このアンケートを見れば見るほど、さまざまな発見があり、仮説がどんどん生まれる」と語る。

全体的には利便性や買いやすさの向上に関する評価が、全体的に高かった。物理的な立地などのアクセスのしやすさや、安さ・入りやすさ、親しみやすさといった心理的な距離感などが、当社の“勝ち筋”であることが発見できた。商品や店舗はもちろん重要だが、今後はその気付きを戦略に反映していきたい(池田氏)

また、Tableauでの購買・顧客データ分析の効果として、詳細分析の高速化と定性データと併せて活用することによる仮説の精度向上などをあげた。たとえば、「クロスユース顧客の購買額が通常の3.3倍であること」「最もリピート率が高い商品がパンスト」など、いろいろな気付きが数値として見えてきた。これを店舗およびデジタル施策に活用し、1to1のコミュニケーション設計を実現していくという。

分析を踏まえて、施策を実施

こうした分析を踏まえ、次のような施策が企画・実施された。

① 新規会員化の施策内容(アクティブ率の向上)

会員アクティブ率の向上を目的とし、アプリをDL(ダウンロード)して会員になる際の導線を変更した。変更前は、会員になれば初回10%オフのクーポンが獲得できた。変更後は、初回5%オフ、次回10%オフのクーポンに変更。初回DL数は維持しつつ、F2転換率を3%以上改善した。

初回購買からのファーストアクションが重要と考え、クーポン提供を行っていたが、初回のみでアンインストールされることもあった。そこで、2回目、3回目につながる導線設計を意図した。初回DL数が減る恐れもあったが、むしろ少し増えるくらいで、次回の購入率を上げることに成功した(西岡氏)

② 一般顧客→ロイヤル化の施策内容(リピート率の向上)

一般顧客の購買の“クセ”をBI(ビジネスインテリジェンス)ツールで分析した結果から、「パンストの購入者のリピートが高いこと」が判明。そこで、購入商品に関わらず同一のクーポンだったものを、「タイツ購入者に次回クーポン」というピンポイントで実施したところ、利用率が約6倍に向上した。

良い商品を購入すると、『次も何か購入したい』という思いが生まれる。それをクーポンが促進した。自社の主力であるタイツの品質を実感してもらったことで、継続購入とロイヤルティアップにもつながった(西岡氏)

③ 一般顧客→ロイヤル化の施策内容(客単価の向上)

併売率や客単価を向上させるための施策として、レッグウェアに加えて靴下やインナーといった「アイテムまたぎ」の購入促進を企画。一般顧客からのロイヤル化を図った。

特に『おうち時間』が増えていることを踏まえ、さらに施策を考えたい(西岡氏)

④ 未購買者→新規顧客化の施策内容

未購買者向けの施策として、「未来顧客」になり得る10代に向けて、人気モデルやイラストレーターなどインフルエンサーとのコラボ企画を始動させた。

未購買者の新規顧客化のための施策内容

⑤ スーパーロイヤル化の施策内容

スーパーロイヤル化に関しては、「顧客が何を求めているか」の理解を引き続き深めて、経済的なインセンティブだけでなく、情緒的な価値を提供していく施策を企画している。

割引のような経済的特典のみならず、情緒的特典をしっかりと用意できるような設計としたい。プロモーションコンテンツを作るときには、顧客分析を踏まえて限定的な特典を付けることも考えていく(池田氏)

スーパーロイヤル化のための施策内容

⑥ 離反防止の施策内容

「近くに店舗がなくなった」「ブランドに合わない年齢になった」などの理由で離反したケースが多いことを踏まえ、ECモールへの出店など販路を拡大。コミュニケーション機会を増やす施策を実施している。

なぜ離反しているのかをしっかりと捉えて、施策を考える必要があることを実感。顧客が求めないことをやっても意味がない。随時アンケートを行いながら実施していく(池田氏)

離反理由アンケートの結果から離反防止施策を実施

愛されるブランドを目指して

今後の施策の基本戦略として、西岡氏は「LTV(ライフタイムバリュー)の拡大」と「カスタマーシェアの拡大」、そして、デジタルの推進による実店舗とECの「シームレスな購買体験」をあげ、さまざまな調査結果と掛け合わせて施策に取り組み「愛されるブランド」を目指すという。

特にデジタル施策の充実を図るため、EC運営責任者など人材の確保に加え、コラボキャンペーンなどを一緒に推進する企業を募集中だ。

「これからも積極的に施策を推進していく。チャレンジしたいという方はぜひお声がけいただきたい」と西岡氏は強く訴え、セッションを終えた。

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