【レポート】Web担当者Forumミーティング 2020 Autumn

すっきり! 端的なビジネス文章の書き方例|させていただくの言い換えは?

「言葉ダイエット」で見づらいビジネスメールからの脱却!よく使ってしまう「~させていただきます」は禁止!というのは、著者の橋口幸生氏。ビジネス文章のみならず、プレゼン資料で今すぐ使えるテクニックも紹介します。コピーライティングのスキルをビジネス文章に活かし、より楽しく、効率的に仕事ができるようにするための方法をマスターしましょう。

橋口幸生氏は、スカパー!や出前館などの広告コピーを考えたコピーライターで受け手に伝わる言葉を生み出すプロである。

Web担当者Forum ミーティング 2020 秋」で行われたセッションでは、「新型コロナがビジネスにもたらした変化は、話し言葉から書き言葉の時代になった」ことだという橋口氏が、相手に伝わる、短く端的な文章を書く“言葉ダイエット”のスキルを紹介した。

株式会社電通 CXCC コピーライター 橋口 幸生 氏

コピーライティングのスキルをビジネス文書に活かし、効率的に仕事をしよう

日本企業では、コミュニケーションは対面で直接会話し、「これでいきます!」というより「わかったよね?」というような、文脈やニュアンスを読むことが重視されてきた。しかし、コロナ禍でテレワークが増え、メールやチャットといった書き言葉の重要性が増している。

ビデオ会議は、メールや電話に比べれば対面に近いが、社内会議だとビデオをオフにしている人の方が多いのではないだろうか。カメラをオフにしたとき、ニュアンスよりも「AでBだからCなんじゃないの?」といった書き言葉のようなロジックが重要になると、橋口氏は言う。コピーライティングのスキルをビジネス文章に活かし、より楽しく、効率的に仕事ができるようにするための方法を紹介していく。

長くなりがちなビジネス文章。その原因は、受け手への想像力の欠如

まず、企画書や企業のWebサイトなどで、以下のような文章を見たことはないだろうか。

企業のWebサイトでありそうな文章

なんとなくありそうな文章だが、目がスベって、何を言っているのかわからない。だが、仕事では「こういう文章でないといけない」と思っていないだろうか。橋口氏自身もこういう文体でなければいけないと思い、社会人になってしばらくはヒドい文章ばかりを書いていたという。社会人4年目に凄腕コピーライターと仕事をする機会があった。そのコピーライターの書く文章が読みやすく、そのとき初めて「読みやすく書いていいんだ!」と目から鱗が落ちる体験をしたという。

橋口氏によれば、「ビジネスの文章が読みにくくなる理由は、書きすぎるから」だという。自分の能力をアピールしたい。でも相手に嫌われたくない。失敗したときの保険もかけておきたい。いろいろな思いが交錯して、どんどん文章が長くなる。

文章が長くなる原因は、「読んでもらえる前提でいるから」だと橋口氏は言う。たとえばメール受信者が必ずしもPCの前で落ち着いて読んでくれているとは限らない。移動中にスマホで見ているかもしれないし、忙しくて余裕がないので添付ファイルを開かないこともある。自分ではそういうときは文章を読み飛ばしているはずなのに、相手もそうだとは思い至らない。

文章力の問題ではなく、受け手への想像力の欠如が問題(橋口氏)

橋口氏は、長くなりがちなビジネスの文章を短くまとめることを「言葉ダイエット」と呼んでいる。そのエッセンスを紹介していこう。

言葉ダイエット① ひとつの文章には、ひとつの内容

小学校のとき、「一文一意」という言葉を習ったはずだ。ひとつの文にはひとつの内容を込め、内容が変わったら句読点を打って文を変えるのが作文の基本である。

たとえば、以下の文章は、間違ったことは言っていないが、スラスラと頭には入ってこない。その理由は、「4行もあるのに全部ひとつの文で、内容が変わってもまったく区切ってないから」(橋口氏)だ。

例文。4行に渡っているが1文に内容が複数ある。

意味ごとに色分けすると、以下のようになる。ひとつの文章に3つの内容が入っている。

意味ごとに例文を色分け

3つ意味があるのであれば、3つの文に分けるとぐっと読みやすくなる(橋口氏)

3つの内容は3つの文章で表現しよう

元の文章では「SNSアカウント」と書いてあるが、「ソーシャルメディア」に書き換えてある。これは、「SNSは和製英語で、海外の人と話していると通じないから」(橋口氏)だということも、ついでに覚えておこう。

言葉ダイエット② 一文は40字~60字以内

一文が必ず「40字~60字以内に収める」というわけではない(長い単語を使う業界もある)が、要は「ひとつの文は何文字までにするかを定めておく方がいい」という目安の文字数だ。一文を40字~60字にすると、抜群に読みやすくなるという。

先ほどの例文の文字数を見てみると、以下の通りだ。「一文一意」のルールを徹底するとほぼ60字以内に収まる。文字数がオーバーする場合は文章に問題があると思ったほうがいいという。

例文の文字数

言葉ダイエット③ 抽象論禁止

橋口氏は、ビジネス文章が抽象的になりやすい理由を「カッコつけるから」と指摘する。具体的な数字や話は外部には出せないこともある。そこで抽象的な表現を使いがちだ。しかし、具体的に言った方が、断然伝わる。

だめなコピーのお手本として、橋口氏は新しいスマートフォンの広告のボディコピーを例文として示した。

橋口氏が妄想して作成したスマートフォンの広告コピー。黄色の部分は修飾語だ。

「なんとなくよさそうなことを言っているが、具体性は何もない」ので、意味がわからない。これを具体的に直したのが以下だ。

言葉ダイエット後のコピー

「革新的で洗練されたボディデザイン」よりも「手からすべり落ちにくいボディデザイン」の方が、よほど欲しくなる。最新モデルの何が具体的に良いのか、旧モデルと比較して何が改善されたのか、をシンプルに書いた方がビジネスとしても結果が得られる。

言葉ダイエット④ 繰り返し禁止

仕事は真剣勝負なので、自分が言った内容が伝わるかどうかすごく不安。だから大事なところを何回も繰り返したり、文章のつながりが不安で『この』とか『その』とか『このような』とか連発したりする。それをやればやるほど子どもっぽい文章になるので、気をつけた方がいい。似ている意味の言葉を繰り返すと、冗長でわかりづらくなります(橋口氏)。

具体的には、以下のような表現のことだ。

例:「~を検証、調査します。」

検証するのか、調査するのかがわからない。「~を検証します」「~を調査します」と言い切るようにしよう。

例:「アイデア(コンセプト)」

アイデアとコンセプトでは意味がまったく異なる。たとえば、クライアントへのCMの提案で、「今日はアイデア(コンセプト)をお見せします」と使った場合、CMの具体的な案の提案なのか、CMの大まかな方向性の提案なのかがわからず、コミュニケーションの齟齬が生じやすい。

例:「戦略・ストラテジー」

同じ位意味合いで使われることが多いが、文章が長くなりわかりづらくなる。言葉を「・」でつなげず、「戦略」または「ストラテジー」と言い切ったほうがよい。

言葉ダイエット⑤ させていただきます禁止

「ご相談させてください」という言葉を使う人はここ数年増えているが、これは「イヤなことを伝えようとしているが、相手には嫌われたくないというモチベーションが背後にある」と橋口氏は考えている。

「能力の高い人は、やり直せという意味だなと解釈して仕事をするが、本当に相談したいのだと思う人もいる。認識に齟齬が起こりがちなので、曖昧な表現はやめた方がいい」と言う。

この「ご相談させてください」だが、表現が進化を重ねているという。具体的に表現をみていこう。

ご相談させていただければ幸いです。この表現はまま見かける。

満足できず、さらに次のように書く人もいる。ちょっとまわりくどい印象になってくる。

ご相談させていただければ幸いと存じます。

次の表現は、橋口氏が実際に受け取ったことのあるメールの文面だという。

ご相談させていただくことを、ご相談させていただけないでしょうか。

伝えづらい依頼内容が書かれていたというが、遠回しに言うことで文章が無駄に長くなる。橋口氏がおすすめするのは、「させていただく」を「いたします」に変えるという方法だ。

「させていただきました」は「いたしました」に

これで「文章は短くなるし、失礼な感じはしないし、十分伝わる」と橋口氏。

『させていただきます』は相手に嫌われたくない、責任を取りたくないという心が透けて見えてしまう、自分を卑屈に見せる言葉。相手に失礼がないことは大事だが、自分が卑屈になっていないか、卑屈語にならないように注意したい(橋口氏)

言葉ダイエット⑥ カタカナ語禁止

冒頭の例で挙げた文章でも、イノベーティブやソリューションなど、カタカナ語が頻出していた。カタカナ語がよくない理由は、「意味をわかっていない場合が多い」からだと橋口氏は言う。なんとなく使っているため、社外や他業界の人は、実は違う意味で使っていたということもある。

たとえば「アイデア」という言葉は、広告会社では「お父さんが犬で喋る」のようなCMのストーリーのレベルのことを指している。しかし、「家族向けの携帯電話CMをつくる」というCMのストーリーではないもっと手前のレベルのことをアイデアと言う人もいる。これでは、コミュニケーションに齟齬がうまれる。

さらに橋口氏は、「何も言っていないのに、何か言った雰囲気を出せてしまう」点もよくないと言う。大事なプレゼンであればあるほど、提案書の文字が少ないと不安になるもの。カタカナ語は文章のかさ増しに便利なのだ。「提案資料に長すぎるも短すぎるもない。伝わるならばかさ増しをせずに、自信を持って提出した方がいい」と橋口氏。

資料は、矢印禁止、色禁止、スライド番号必須、字は大きく

プレゼン資料などを作っていて、つい陥りがちな失敗も、まとめておく。

1.矢印禁止

「スライドを作成する際、矢印は極力使わない方がいい」というのが、橋口氏の意見だ。見にくくなるし、意味がないのに意味があるように見えてしまう。

矢印だらけのスライドの例。意味はないのに意味があるように見えるし、読みにくい。

2.色禁止

1枚のスライドにたくさんの色を入れると、見にくい。デザインの勉強をしたわけでもない人が多色配置をしても、きちんと伝わるものではない。「白黒で十分だし、どうしても強調したいところがあるなら、もう1色使う程度に」と橋口氏は言う。

色が多すぎて見にくいスライド例

3.スライド番号を必ず入れる

説明の途中で、「32ページに戻ってください」ということもある。ページ番号を必ず入れるようにしよう。ページ番号が入っていれば、指定するページをすぐに表示できる。

4.文字はとにかくデカく

橋口氏が最も重要だと強調するのが、文字を大きくすることだ。見やすいのはもちろんだが、文字が大きければ長い文章も入らない。

文字はとにかくデカく

また、職場で活躍している人の企画書を見せてもらったり、TEDのプレゼン資料を参考にしてみたり、「お手本」を見つけて、マネをするのがおすすめだという。

実践編!メールで重要な5つのポイント

最後に橋口氏は、ビジネス文章のうち、メールについて、具体的な書き方のポイントを紹介した。

1.ひとつのメールで完結させる

情報を複数のメールや添付ファイルに分散しないことが重要。たとえば、「本件について●月●日に送ったメールの添付を参照してください」と書いてあったらそのメールを探さなければならないので、一つのメールで完結できるように心がけよう。

2.重要な情報は前半に記載

だらだらと長いメールの最後の方に待ち合わせ場所が書いてあったら、読み落としてしまうかもしれない。重要な情報はメールの前半に書こう。

3.こまめに改行

内容が変わったら改行しよう。改行がないと読みにくい。

4.正しい敬語や気のきいた表現より即レス

たとえば、OB訪問で先輩にごちそうになったお礼のメールなら、内容よりも帰りの電車の中で書くのがベスト。すぐにお礼メールを送ったことが、いい印象につながる。返事が遅れるほど、内容のハードルが上がる。

5.ファイル名は特に短く!

何のファイルかを、ファイル名ですべて説明しようとする人がいる。それに追記した人が自分の名前を加えてどんどん長くなることもある。

橋口氏のTwitterの投稿。どんどん長くなるファイル名

どんどん、わかりにくくなるので、たとえば「CL_FB_20200120.pdf」(クライアント、フィードバック、何日時点のファイル)のようなファイル名のルールを作るのがおすすめだ。

最後に橋口氏は、「言葉がどんどん長くなっていく理由は、忖度、気遣い、保険をかける、横槍など気遣いができる人ほど、言葉がどんどん窮屈になっている。仕事は、競争であっても戦争ではないので、言葉の鎧を脱いで身軽になろう。自分を出していこう」とまとめた。

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