稲富滋のWebマスター探訪記 稲富滋のWebマスター探訪記

売上の3割を生み出す2.5%のコアなお客様。「好き」を育てるカゴメのコミュニティサイトとは?

アクション率は10%超えというカゴメのコミュニティサイト&KAGOME。ファンとの良好な関係づくりを実践するカゴメ担当者に話を聞いた。
左から、聞き手の稲富滋氏、カゴメの浮ヶ谷陽子氏、水野慎也氏

カゴメの売上の3割は2.5%のコアなお客様によるもの。この2.5%のお客様に対して何も手を打たなかったらきっと離れていってしまう。そこでコアなお客様と対話できるコミュニティサイトとして2015年に「&KAGOME(アンドカゴメ)」ができました。

そう話すのは、カゴメのマーケティング本部広告部宣伝グループの水野慎也課長と浮ヶ谷陽子氏。

&KAGOMEのサイト(サイトで見る

カゴメが運営する「みんなとカゴメでつくるコミュニティ&KAGOME」は「デジタル・マーケティング戦略骨子」の一環としてアイデアが提案されました。

企画はサイトが公開される2年前の2013年に社内へ提出されました。実はその頃、カゴメの業績は落ち込んでいる時。原因は主力のトマトジュースの市場規模が縮小したことに加え、売上の3割を支えるコアなお客様の離脱でした。

離脱の原因をカゴメでは、「飲料種類の増加で購入者の選択肢が広がったため」と分析しています。これ以上のコアなお客様の離脱を、何とか防がなければいけない。ということで、会員制コミュニティサイトが生まれたのでした。

会員数はあえて増やさずファンとのコミュニケーションを重視

コミュニティサイトを作るにあたって、まず気になるのは「ベースとなる登録会員をどう集めるか? 会員数の目標をどう定めるか? KPIはどうするか?」といったところですが、カゴメが目指したのは、次のようなことでした。

会員数の拡大を追うことはせず、段階的なサイト展開・コンテンツ施策を通じて、着実なファン化を追求する。よって、開設にあたって会員増を狙った集客キャンペーン等は実施せず、「すでに接点のあるお客様」に対してアプローチしました(水野課長)。

初年度の目標は「等身大のカゴメを伝えるコンテンツなどをもとに会員ニーズを図り、カゴメファンとはどのようなお客様か分析する」こと定めて、会員数も控えめに1年で「1万人程度」にしました。

「無理に会員数を増やすことは決してしない」というポリシーは今でも健在。「増やすだけならいつでも増やせると思います。ただ、優先するのはお客様との深い関係作りでした」と水野課長。

カゴメ マーケティング本部広告部宣伝グループ 水野慎也課長

当時「すでに接点のあった」お客様は、株主・通販会員など約15万人ほど。

「すでに接点のあるお客様がこれだけいれば、1年で1万人はさほど難しくなかったのでは?」と浮ヶ谷氏に聞くと、達成できるかハラハラしたのだとか。

初めての取り組みなので、達成できるだろうと予想しつつも、実際、ハラハラしました。おかげさまで、1万人の目標は前倒しで達成できました(浮ヶ谷氏)。

カゴメ マーケティング本部広告部宣伝グループ 浮ヶ谷陽子氏

KPIはアクション率

当初から広くお客様を集めるよりも、お客様との深い関係作りを趣旨としていた&KAGOMEでは、会員数よりもその中身を重視したKPI、「アクション率」を設定しました。

アクション率とは、具体的には次のようなものを指します。

  1. ログインをしてくれる
  2. いいねをしてくれる
  3. コメントをしてくれる
  4. 投稿(クイズなどへの回答など)をしてくれる

また上記のアクションに応じてポイントが付与される仕組みもあるそうです。

ちなみに原則として、商品モニターに応募できるのは300点以上のアクションポイントを持つ会員に限定していましたが、「今や300点越えの会員が多くて選考基準にはならなくなってしまった」という嬉しくも困った状況だそう。

このアクション率が現在は10%以上。&KAGOMEの運営を手伝うイーライフ曰く「一般的な企業のコミュニティサイトでは一桁が普通」とのことなので、突出した高いパーセンテージを達成しています。

稲富滋(聞き手)

炎上に備えて万全の体制づくり。でも3年間で1件も無し

2013年にアイデアが提出されて、2015年にサイトが公開されるまでに、社内の組織体制も変わっていきました。

当初はマーケティング部に所属する5名のデジタルマーケチームでしたが、現在は「宣伝グループ」として、マスとデジタル両方を担当する10名の組織体制に変わっていきました(水野課長)。

&KAGOMEの担当は宣伝グループ内の2名で、日々の運営は株式会社イーライフさんが手伝ってるそうです。具体的なサポートとしては、投稿のチェック、メール問い合わせの対応、カゴメ側から投稿者へ返信や会員からのコメントを見るなどです。

カゴメ以外にも、100社以上のコミュニティサイトの運営委託を受けているというイーライフさんには、過去に炎上となった事例などのノウハウが蓄積されています。そういった知見を基に&KAGOMEを公開する前に、会員間の揉め事、不満、ネガティブな意見など炎上の兆しが見えた場合の対応やエスカレーション、最悪の場合のサイト閉鎖、休止判断を行うプロセスまで決めて準備していました。

いざ蓋を開けてみると、開設以来の3年間で一度もエスカレーション発動の機会はなかったそうです。

&KAGOME会員の皆さんは、良い人ばかりで、カゴメからの投稿をマイナスに捉える人は少ないです。辛口のコメントがあっても「ファンとして申し上げますが」とか「カゴメさんらしくない」という前振りがつくことが多く、カゴメのことを想ってくださるコメントが多いです(浮ヶ谷氏)。

イーライフさんによれば「炎上にはいくつかのパターンがあってカテゴリー分けができていますが、カゴメの場合はその心配がまったく無い」とのこと。工場見学やカゴメ社内で開催されるキッチンイベントなどで面識のある投稿者も増え、ファンとの関係づくりはさらに深まっているそうです。

&KAGOMEのユニークなコンテンツを2つ紹介

ここで、&KAGOMEのユニークなコンテンツ「トークルーム」と「実(み)になるおはなし」の2つを紹介します。

独自のコミュニケーションが生まれた「トークルーム」

&KAGOMEの中でファンとカゴメとの相互コミュニケーションを図る目的で開設されたのが「トークルーム」。

&KAGOMEの「トークルーム」(サイトで見る

「トークルーム」は、カゴメからテーマや情報を投げかけて、会員がそれに応えるという想定で作られたものでした。しかし今では、会員が独自にテーマを設定して他の会員の投稿が始まったり、会員同士でチャット的に使い始めたりと、初期の想定以上に活発に利用されています。

カゴメからの投稿者は公式テーマへのコメントを返信する「&KAGOMEスタッフ」と管理人としてカゴメ社内のテーマ紹介などで登場する「カゴメ社員」がキャラクターイメージ付きでスタンバイしています。

左:「カゴメ社員ミッティ」ブログの管理人でカゴメ社内のテーマ紹介などで登場する。
右:「&KAGOMEスタッフ」「トークルーム」「レシピのーと」の公式テーマ投稿でコメント返信する。事務局のおしらせ発信も行う。

予想外に読まれていたアカデミック・コンテンツ「実になるおはなし」

通常コミュニティサイトというと、一般的に親しみやすいライトな記事を用意します。社内でも「専門性が高いディープ過ぎる記事は、読んでくれる人はいないのでは」との懸念があったそうですが、カゴメならではの知見を活かした記事を「実になるおはなし」で作って出したところ、非常に人気があったのだとか。

たとえば、トマトの機能性に関するディープな記事「リコピン」や健康に関する「肝機能改善のメカニズム」などです。

「実になるおはなし」内の「~肝臓機能を改善!注目の健康成分”スルフォラファン”~」他記事に比べてダントツで閲覧数が多い(サイトで見る

硬い内容でもしっかり読んでいただけるので用意する甲斐があります(浮ヶ谷氏)。

「実になるおはなし」内の記事をいくつか拝見しても、「いいね」が多数あり「コメント」も数多く投稿されています。これも「カゴメのファンサイトらしさ」のかもしれません。

社内の評価と期待

こうしたコンテンツやイベントを通じたコミュニケーションによって、&KAGOMEのファンは今や3万人弱に増加。意識が高く、投稿も熱心でカゴメのことを考えてくれる&KAGOMEのファンは、一体どんな人たちなのでしょうか。

開始当初は50~60代の年齢層が多かったですが、今は30代から各年齢層まで幅広い方が参加してくれているようです。ファンの7割は女性で、&KAGOMEサイトには投稿してくれますが、あまりSNSなどを使って拡散させる人は少ないとのこと。

ただし、家族や親しい知人には「カゴメのことを熱く語ってくれる」人が多いと言います。それはNPS(Net Promote Score)の調査結果にも現れています。&KAGOMEのファンを対象にしたNPS調査では、3年連続で調査結果は上昇中。昨年は53.1という極めて高いスコアになりました。

会員による購買金額は一般消費者の1.4倍。購入しているカゴメ製品の種類は2倍。たくさん買って飲んでいただき、それをごく親しい人に積極的に伝えていただいています。&KAGOMEのファンの方は、カゴメへのロイヤルティが高く、真面目で、アクション率も高いです。「売上」という点からも社内へ実績を提示できるようになりました(水野課長)。

※NPSとは顧客ロイヤルティを測る指標。詳しくはこちらの用語集を確認。

市場調査母体としても商品開発にも

イベント参加者が作ったキャッチコピーをそのまま店頭のPOPに使ったり、会員コメントが商品開発やプロモーションにも役立ったりする局面が見られるようになりました。

&KAGOMEの社内での評価が高くなるのは嬉しいことです。ブランド担当者からは「まず&KAGOME会員の反応が知りたい」とか「こんな商品が出ました的なお知らせコンテンツを出したい」といった要望も増えています。

こういったコンテンツを出したいブランド側の気持ちはわかりますが、なるべく宣伝、広告的な投稿だけにならないように、バランスに気をつけています。お客様に嫌がられてしまっては、コミュニティサイトは成り立ちません(水野課長)。

会員が選んで決めたサウンド・ロゴ

ここでもう一つ、&KAGOMEファンを巻き込んで決定したサウンド・ロゴを紹介します。カゴメ・サウンドロゴは2016年に&KAGOMEの会員へのアンケート結果によって決まりました。

  • 2016年09月 「カゴメのイメージや音楽のジャンルなど」を&KAGOMEファンのみなさんに質問。
  • 2016年10月 アンケート結果を伝えて、作曲家の方に作曲いただく。
  • 2016年11月 出来上がった6曲の候補の内から、&KAGOMEメンバーのみなさんで人気投票を実施。
  • 2016年12月 アンケート結果を元に、社内会議でサウンドロゴ決定!

9月のアンケートには860名、候補曲6曲から選んでくれた会員が783名。こうして現在CMでも使われているサウンドロゴが完成したのです。

決定までの詳しい経緯については、「みなさんのお声でカゴメ「サウンドロゴ」が決定しました!」の記事で紹介されています。また、実際に決定したサウンドロゴも記事で聞けます。

今後の課題

サイトが立ち上がって3年。お2人に&KAGOMEの課題を聞きました。

「成功すれば、あとは自動的に世の中に拡散するのでは」という思いは幻想でしたが、コミュニティサイトとしてはお陰様で軌道に乗ったと言って良いと思います。ただ、このまま継続していって良いのか、今後のサイト活性化、マーケティング上さらに効果を得る方法などは常に考えていなければなりません(水野課長)。

&KAGOMEで、ファンの意見を聞く仕組みはできたと思います。今後の課題は、この3万人から日本の全生活者のなかでカゴメ商品のターゲットとなるたくさんの皆様にどうつなげて行くかだと思います(浮ヶ谷氏)。

稲富の目

成功のための布石、慎重、綿密な計画立案、&KAGOMEは企業の性格を熟知したうえで、その特質に合った慎重な進め方でロイヤルティの高いコアファンを醸成したコミュニティサイトの成功事例だといえるでしょう。このあたりは石橋を叩いて渡る(渡らない場合もある)堅実な名古屋企業の真骨頂ですね。

初めからむやみに会員数を増やさず(納得した経営陣も立派)深いコミュニケーションを心がけたこと、経験豊富な運営支援チームができ上がっていること、社内関連部門との連携が危機管理体制を含めてしっかりできていること。

その結果が突出して高いアクション率やNPSに、そして何よりも「良い人ばかり」と言う投稿内容とその件数、価値を評価するブランドからのコンテンツ掲載増に現れています。

生活者接点の頂点としての&KAGOMEの経験を生かして、もう少し裾野を広げた次の層を作ることも考えて見る段階にきたのではないでしょうか。このコアファンから今後「何を導き出すか、どう展開するのか」カゴメ・デジタル・マーケティングチームの手腕に注目したいですね。

3つの小話

取材記事の本編には含められなかったものの、印象的だったお話と感謝の気持ちをつづりたいと思います。

チームワークとケア体制

取材の際、通常ならばインタビュイーのWebマスター1~2名に加え、付き添いに広報の方が同席されて、多くとも3名程が一般的なこのコーナーのインタビュー。しかし、今回はインタビュイーの水野課長と浮ヶ谷氏に加え、運営を預かるイーライフさんから2人、さらにネットの向こうで&KAGOMEの運営リーダーを務める佐藤さん(郡山在住)、イーライフさんのPRを行う森下さんまでスタンバイ。

万全の体制を作って取材を受けていただきました。何事にもケアに手を抜かないカゴメさんに感心してしまいます。このようなケアの姿勢がコアファンを増やすのでしょう。

ファン株主

お話のなかで「ファン」という言葉が頻繁に登場しました。一般に企業のIRサイトには「株主のみなさまへ」とかあるいは「投資家の皆様へ」と書かれていますが、カゴメの場合は「ファン株主のみなさまへ」となっています。

これは2001年に個人株主数を10万人に増やすという「株主10万人構想」を打ち立てたことがきっかけでした。1998年に6,567名だった株主数は、2014年にはすでに20万人超え。

「個人株主は株主であると同時に一般消費者の10倍以上、カゴメ製品を購入してくれるカゴメファンなのだからファン株主である」。こうして「ファン株主」という名前がカゴメで生まれました。

カゴメファン株主(サイトで見る

オムライス検定

水野課長、浮ケ谷氏の名刺には「オム検(オムライス検定3級)」と書かれています。

名刺に書かれた「オム検(オムライス検定3級)」

これは、カゴメが独自に行っている検定で、「役員も含め社員のほとんどが受けている」とのこと。検定は、実技テストと筆記テストが行われる。1級取得者はカゴメ社内でもわずか7名、「オムライス伝道師」として活躍中。トマトケチャップの売り上げに貢献しています。

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