ad:tech tokyo 2013 レポート by Yahoo!

いいね! で終わらない本質的なエンゲージメントを生むコンテンツの作り方とは?

エンゲージメントを生むコンテンツ作りの思想、コツ、クリエイティブな思考・発想
ad:tech tokyo 2013 レポート
by Yahoo!
ad tech:tokyo 2013で、ヤフー株式会社からスピーカーが
登壇したセッションについて内容をレポート。
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「いいね!」だけで終わらない、本質的なエンゲージメントは、いかに生み出されるのか。また、「エンゲージメント」とは何か。「エンゲージメント=ブランドと顧客をつなぐ“熱い”絆」という捉え方のもと行っている、エンゲージメントを生むコンテンツ作りの思想、コツ、クリエイティブな思考・発想とは。

ad:tech tokyo 2013 Day2に開催された公式セッション「クリエイティブ・イノベーション クリエイティブコンテンツとエンゲージメントとは?」では、アサツー ディ・ケイの八嶋氏がモデレーターとなり、ゆめみの深田氏、博報堂ケトルの木村氏、ジャム・ジャパン・マーケティングの大柴氏と、ヤフーのクリエイティブ・ディレクター内田が登壇し、エンゲージメントをテーマとしたセッションが行われた。

ユーザーとのエンゲージメントを考えるとき、ブランド・企業自体がオーセンティシティに向き合わなければならない

エンゲージメントとは「ブランドと企業の熱い絆」

「エンゲージメント」とは何か。セッションの冒頭でモデレーターの八嶋氏は、その定義を以下のように示した。

「エンゲージメント」とは、Facebookの「いいね!」などのユーザーの表層的な反応ではなく、根本的なコンシューマーとブランドの結びつきである「熱い絆」のこと

この定義に基づいて、各者のエンゲージメントについての見解や、感銘を受けたエンゲージメントについてのプレゼンテーションが行われた。

「ユーザーに喜んでもらえるのに届け切れていない」ものを見つけてもらう

ゆめみの深田氏

まず、ゲーミフィケーションを生かしたサイト構築・運営を手掛けるゆめみの深田氏からは「ウェブにはおもてなしが足りない」との発言があった。

ウェブの世界ではよく「最適化」という言葉が語られるが、はたして最適化を続けるだけで顧客との絆を築けるのか。

京都の「おもてなし」の思想をウェブに再現したいと思っている。

(深田氏)

同社が運営を支援しているアサヒビールの会員サイトでは、サイト閲覧に応じてポイント(経験値)がたまり、それによってユーザーの「MYコレクションルーム」にアイテムが追加されていく「ゲーミフィケーション」の要素を取り入れている。

ゲーミフィケーションはコンテンツディスカバリーの要素が強い。ブランドが持っているものでユーザーに届けたら喜んでもらえるのに届け切れていないメッセージがある。

(深田氏)

予算のほとんどを「ユーザーのための場」作りに費やす

クリエイティブエージェンシーの博報堂ケトルで「手口ニュートラル」なプロモーションを手掛ける木村氏からは、広告でも、ウェブのプロモーションでもないエンゲージメントの事例としてトヨタの「TOYOTA 86」のプロモーションが紹介された。

スポーツカーの市場が年々小さくなるなか、「スポーツカー市場、カルチャーをもう一度作らなければならない」という課題からスタートしたプロモーションは、ユーザーのプレイグラウンド(遊び場)を作るという点にフォーカスして実施された。

このプロモーションでは、その広告予算のほとんどが、マス広告ではなく、「スポーツカーファンのプレイグラウンドを作ること」に使われた。

  • 全国86か所の峠を選んでBS日テレで「峠 TOUGE」という番組を制作し
  • 箱根と京都の伊吹山に「86ピットハウス」というファンのための集まれる場所を作り
  • ドライビングのハイライトを撮影する「TOYOTA 86シューティングカーブ」を設置する

など、徹底的にスポーツカーファンのために“場”を作ることに注力したという。

「スポーツカー好き以外には1円たりともお金を使わない」という決意のもと、「集いの場や遊び場の提供」や「新しい楽しみ方の提案」をしていくことで、スポーツカー市場は3倍に膨れ、TOYOTA 86も記録的なセールスとなった。

(木村氏)

「瞬間的な満足」で足りるユーザーには、「本物」が必要

サンフランシスコに18年在住し、ジャム・ジャパン・マーケティングで日米マーケティング・ビジネスのファシリテーターとして活躍する大柴氏は「エンゲージメントとは非常にシンプル。“参加すること”」と語り、ユーザーとブランドの関係性に欠かせないものとして「オーセンティシティ(本物であること)が非常に重要」だと述べた。

ジャム・ジャパン・マーケティングの大柴氏

ユーザーは広告が嫌いなのではない、邪魔されることが嫌いなだけ。

テクノロジーが発達したことで、より効率よく「ユーザーの邪魔をする」ことができるようになっているけれども、邪魔をされると広告が嫌いになる。

(大柴氏)

大柴氏は現在のユーザーを取り巻く環境として、数多くのSNSに囲まれ常につながっているユーザーが「瞬間的な満足(インスタント・グラティフィケーション)」で充たされしまうことを示す。

ユーザーに瞬間的な満足をさせつつ、さらに本当の意味での「エンゲージ」をさせるには、「オーセンティシティ」が大切だ。

(大柴氏)

そして、オーセンティックな(本物の)コミュニケーションの例として米ホールフーズ・マーケットの例をあげた。

ホールフーズ・マーケットでは健康的な食生活の追求のため、「どうやったらいい食肉を食べられるか」や「本当にいい食肉を生産している畜産農家の取り組み」などを丁寧に伝えていくことで、ライフスタイルのマーケティングをしている。

ポイントは、短期的なマーケティングギミックではない「コミットメント」を背景情報も含め伝えていくこと。そうしていくことでユーザーとの強固なエンゲージメントを築くことができるのだと大柴氏は語った。

ソーシャルグッド+みんながつながる場がエンゲージメントに

ヤフーの内田は、エンゲージメントに関する事例として、音声検索と3Dプリンタを組み合わせた「さわれる検索」のプロジェクトを紹介した。

「さわれる検索」の動画/YouTube
ヤフーの内田

「さわれる検索」は、ヤフーのマーケティング事業のプロモーションとして行っているもので、キーワードを入力して検索すると、一致したものを3Dプリンタで出力する。近未来のコンセプトモデルとして作られ、実際に触って確かめることを必要としている盲学校に提供された。

プロモーションとして単純に実施しても振り向いてもらえない。「ソーシャルグッド」なだけではなく、子どもたち、お得意先含めみんながつながる場を提供することが、エンゲージメントにつながっていく。結果的にそれがプロモーションになったりブランドになったりする。

(内田)

エンゲージメントは昔からいわれている、なぜ今必要とされるのか

アサツー ディ・ケイの八嶋氏

各人からのプレゼンテーションが終わったあと、後半はエンゲージメントに関するディスカッションが行われた。

「なぜエンゲージメントが必要なのか」という八嶋氏からの問題提起に対して、各登壇者は次のように答えた。

ブランドのエンゲージメントについては、今に始まったことではないのだが、普通の人が簡単にエンゲージできるプラットフォームが登場したことで、以前とは異なり非常にわかりやすくなってきた。

ユーザーの行動が多様化、分断されてきているので、ユーザーを大きなかたまりで捉えにくくなってきている。

(大柴氏)

広告・マーケティングの観点でいうと、情報の寿命が非常に短くなってきている。拡散するのが楽になった一方、忘却も早くなった。

だからこそ、1回きりのアドではなく「場」を作ったり、ゲームなどで滞在時間を高めたりする必要がある。

(木村氏)

先ほどのおもてなしの例でいうと、京都には「わかる人だけにわかってくれたらいい、そのかわりわかる人には徹底的にわかってもらう」という世界がある。これは客側も店側の創意工夫をわかるために努力する必要があるということ。

結果的にお互いに成長しあうというプロセスとしてのエンゲージメントが生まれる。デジタルやソーシャルというのはこういった相互を理解する場をもっと広げたものになるのではないか。

(深田氏)

エンゲージメントを作るうえで重要なのは、「実はやりたい」「本当はやりたいな」とみんなが思っていることを自分が行うと、ちゃんと人はついてくるということ。

「こういうことを言いたかった」というところに着地させるのが、エンゲージメントを生み出すうえで一番大切。

(内田)

さらに八嶋氏からは各スピーカーに対し「エンゲージメントを生み出すコツとは?」と質問が投げかけられた。

1万人を動かそうとするのではなく、1人の人を深く共感させ行動を起こさせるようにすることが、結果的に社会全体を動かすことになる。先ほどの「さわれる検索」のように万人に届くメッセージではなく、1人に深く届けばいい。

ブランドとユーザーとの間にはTaking(ブランドの取り分)とGiving(ユーザーの取り分)という関係性があると思うが、いまはTakingが先に来てしまっている。ブランドはまずGivingを考え「あなたに何ができるのか」を伝えなければならない。

(木村氏)

ブランドがストーリーテラーにならなければならない。そのときに気を付けなければならない視点が2つある。

  • What ―― ブランド自身が何を気に掛けているか
  • Why ―― なぜそれを気に掛けているのか

また男女の関係でもそうだが、長期的なエンゲージメントに一方的な関係はあり得ない。主語を変えてみることも必要。

(大柴氏)

エンゲージメントにおいては、「オーセンティシティ」、つまり本物であることがとても重要であり、やっていることと考えていることが一致していることが重要になる。

ゆめみの深田氏からは、ヤフーの「さわれる検索」のオーセンティシティについて言及があった。

いやらしい質問になるが、ヤフーの「さわれる検索」はマーケティングギミックか、オーセンティシティかと問われることにはならないか。

悪い見方をすれば、盲学校の子は利用されているだけと見ることもできる。

(深田氏)

今回限りで終わってしまえばマーケティングギミックになるし、それはこれからヤフーが自分たちで示していかなければならない。

オーセンティックな存在になるために「さわれる検索」のような未来をきちんと目指していかなければならない。

(大柴氏)

お二人のご指摘のように、ソーシャルグッドな取り組みは批判を受けやすい。「さわれる検索」では検索が実現したい少し未来の姿を見せたものだが、ヤフーとしてこれからそういった未来が実現するよう努力しなければならない。

(内田)

さらに「オーセンシティー」という観点で、ある事業のマーケティング活動に留まらず、企業としての全体の整合性についても話題が広がる。

博報堂ケトルの木村氏

本質論でいくと、企業内のブランド間での食い違いもオーセンティシーを崩すことになる。

たとえば1つの企業のなかにAとBの2つのブランドがあって、AというブランドとBというブランドが別々のメッセージを出していてそこに矛盾があると、問題がある。

(木村氏)

1つのブランドでとても良いことを言っていても、もう1つのブランドでまったく逆のメッセージを出してしまえば、いまのユーザーは頭がいいから、その矛盾に気づく。

そこは企業側がコミットしなければならない。ユーザーは企業をちゃんと見ている。

(大柴氏)

クリエイティブに特化している立場の木村氏からは、さらに次のような発言があり、大柴氏が今の状況を背景にコメントしている。

私の立場でいうと「わかる人にだけ、わかる」というオーセンティシティがあると思う。

全員に八方美人にコミュニケーションはできない。新しいことをやろうとすると批判を集めるというのは、しばしばあることだ。

(木村氏)

ソーシャルの世界だから、何か投げかけて、反応があった場合にはそれに応えていけばいい。そういう意味ではやりやすくなってきている。

(大柴氏)

最後に八嶋氏からは各スピーカーに対し「エンゲージメントを作っていくにはどういうクリエイティブな発想が必要なのか?」と質問が投げかけられた。

リアルタイム性を考えた方がいいと思う。われわれは「瞬間満足」を求める存在だから、その時の彼らの気持ちにあったものを「ライトタイム(適切なタイミング)」に「ライトプレイス(適切な場所)」で提供することが重要。

(大柴氏)

発想力としてのクリエイティビティは個人的にはそれほど重要ではない。ライトタイム、ライトプレイスで適切な情報というのはブランドがもともと持っているものにある場合が多い。ブランド自身に向き合うことが重要。

(深田氏)

「みんなが求めているもの」というのは、自分で調べて自分で手に入れてしまう。「まだこの世にないもの」「本当は欲しいけど気づいていないもの」「ユーザーの期待を超えるもの」がないと、最適化はできても革新はない。

批判を恐れずに相手が予想しないおもてなし、サプライズを提供することが重要。

(木村氏)

シンプルだが「うそをつかない」ということが一番大事だと思う。

いろいろな利害関係があるなかで、「やったら批判をされるかな」と恐れて無難なキャンペーンをするのではなく、良いと思うものをうそをつかないでやり切ることが重要。

(内田)

エンゲージメントをテーマとしたセッションで、テクニック的な内容にも触れながらも、全体としてはブランドとユーザーの関係性やエンゲージメントの本質的なところに迫るセッションだった。

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