企業ホームページ運営の心得

成熟市場を攻略する提案型コンテンツと1%へのアプローチ

成熟市場で客に買ってもらうための手法、提案型営業コンテンツの基本を紹介
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の279

ものが売れない時代

日経新聞(2012年9月3日朝刊)にニヤリとしました。

あなた好みの品 定期的に提案

と題されたその記事は、会員向けに「オススメの靴」を毎月紹介するサイトや、酒販業者の代表が品定めした日本酒をオススメ商品として販売する業者を紹介し、洪水のように溢れるネットの商品情報から、客自身が欲しい商品を見つけられずにいることを背景に普及していると結びます。

これは「提案型営業」と呼ばれ、20世紀の終わり頃にブームになった営業手法そのままです。また「ホームページ」や「メルマガ」の活用法として繰り返し紹介され、最近では「Facebook」の利用法としてもちらほら見かけます。ネットなら24時間365日客への提案が可能で、パンフレットなどの紙媒体より安価に実現できるからです。ネットのビジネス活用においては、「古典」に属する手法が最新情報として紹介されていることに口の端が持ち上がります。

とはいえ提案型営業は、ネットビジネスにおいて今後より重要となっていくでしょう。

提案型のアキレス腱

「提案型営業」とは顧客のニーズを先回りして提案することで、価格競争から脱却し顧客ロイヤリティを高めることを目指すものです。実現できれば最高の結果を得ることができますが、難易度の高い手法です。今回、記事になったように注目されるものの、しばらくもせずに消え、忘れた頃に復活するという繰り返しが、継続の難しさを雄弁に語っています。

最大の理由は「提案」が個人のポテンシャルに依存することです。日経の記事にある酒販店は、店主の目利きに依存します。典型的な個人依存による提案型営業です。スタートダッシュに限定すればそれもありでしょうが、中長期的に継続させて行くことを考えると、個人依存はリスクが大きすぎます。

節制と自己研鑽で回避するにしても自ずと限界があり、「ひとりよがり」による提案の質の低下は「提案型営業」のアキレス腱です。

ひとりよがりの回避

「提案型営業」を成功させる条件は「チーム」での取り組みです。提案内容、成功事例をチーム内で共有し蓄積します。個性によるバラツキも、それを共有しチーム全員の「引き出し」とすることで活用します。選択肢を増やすだけでなく「ひとりよがり」を回避することが最大の狙いです。仮にひとりぼっちのWeb担当者でも、書面に残しストックすることで事例集として蓄積していきます。後任への引き継ぎはもちろん、ときおり読み返すことで「ひとりよがり」の防止になります。

それでは次より「提案型営業コンテンツ」作りの基本を紹介します。

ライフスタイルの提案

基本は「ライフスタイルの提案」です。日経の記事の「靴」も「酒」もこの延長にあたり、以前紹介した「焼き鳥屋理論で商品開発」による「温泉の素」の売り方も同じです。エアコンの効きすぎたオフィスで冷え性に悩まされる人への「週末温浴」という週末の過ごし方、楽しみ方を示しているのです。

スマホやタブレット端末のテレビCMも「提案型」の好例です。ドコモの「しゃべってコンシェル」や、iPhoneの「Siri」のCMでは、端末を「パートナー」と位置付け、タッチパネルを操作することなく、語りかけることで便利になるとする「ライフスタイル」を提案しているのです。

この時のポイントは「利用方法」を紹介するのではなく、利用することで得られる「世界」を表現することです。ドコモのCMでは桑田佳祐さん演じるスマホによって、モデルの山下リオさん演じる女子大生と日本語が不自由な留学生との心の交流を描くことで、ただの「翻訳サービスの紹介」と一線を画しています。

その他にも「しゃべってコンシェル●●さん編」など、ライフスタイル別のアプローチを行っています。

色即是空の格言

「提案型営業コンテンツ」に取り組むコツは「独善」です。たとえば、ホームページ制作は業種業態に加え、クライアントの事業規模、経営方針によって「正解」が異なり、四文字熟語で表現するなら「千差万別」です。そこでついついWeb屋は「全方位型」のコンテンツを作りたくなるのですが、ここでミヤワキ流営業格言。

何でもある。は、何もないに等しい

客の大半はホームページの素人で、何でもの「何でも」が理解できません。換言すれば独善的に「ライフスタイル」を提示するのが「提案型営業コンテンツ」です。99%の客に相手にされなくても、1%の客を確実にゲットするためのアプローチで、不特定多数の客を相手にするための「公約数」を優先する一般的なコンテンツとの違いです。そしてこれが「ひとりよがり」への入口となることから、繰り返し戒めるのです。

スマホのCMが提案型である理由

20世紀の終わりに提案型営業が普及しなかった背景には「時代」があります。当時の管理職が「市場が拡大する時代」しか知らなかったからです。戦後からバブル崩壊までの市場が拡大する時代は、極論すれば商品を並べるだけで売れました。この時代に営業の最前線に立っていた人が管理職となっていた世紀末、わずか1%にアプローチする提案型営業は理解できなかったのです。

しかし、市場の拡大は止まりました。つまり商品を並べるだけで売れることはなくなります。消費が一巡すれば「持っていないから欲しい」という購入動機が消滅するからです。そこで追加購入や、積極的に買い換える少数派の1%に焦点を合わせる「提案型」が求められるのです。

スマホのCMに「提案型」が多いのは、「ケータイ」はすでに普及しているからです。反対に普及期のケータイのCMは、軽さやつながりやすさといった「機能」を紹介するもので「欲しい」という欲求を前提に作られていました。

国内のネット市場の拡大も徐々に止まりつつあります。ほぼすべての業種がネットに進出したという意味です。Web屋など飽和状態で、すでにネットに進出しただけで勝てる(売れる)時代は過ぎています。すると1%の客にアプローチする「提案型営業」が求められるのは必定です。

今回のポイント

成熟市場では1%の客にアプローチする

「ひとりよがり」が最大の敵

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