【レポート】Web担当者Forumミーティング 2018 Autumn

データ分析で大事なのは「とにかくシンプルに」! メルカリ流Data Analytics実践のススメ

メルカリのCRM戦略をどのように成長させてきたのか? データアナリストの樫田氏が語った。

マーケティングにデータ活用が当たり前となったが、最初から「高度で、精緻な、細分化された」データ分析を求めた結果、行き詰まる担当者は多いのではないだろうか。しかし、データ分析で大事なのは「簡単でもいいから一歩を踏み出すこと」だと述べるのが樫田氏だ。

Web担当者Forumミーティング 2018 秋」に登壇した樫田氏は、フリマアプリ「メルカリ」のCRM戦略をどのように高度化してきたのか、その取り組みについて語った。

株式会社メルカリ データアナリスト / マネージャー 樫田 光 氏

「CRM1.0」をシンプルにはじめた方がよい理由

私が国内におけるサービスのグロースを担当した当時は、「No CRM」というべき状態で「セグメントはなし、全ユーザーに同じ施策を打つ」という状況だった(樫田氏)。

そこで、まず第1フェーズとなる「CRM 1.0」では、顧客を3セグメントに分類し、「CRM 2.0」では、そのセグメント分けをもう一歩進めた。そして、現在の「CRM 3.0」では、セグメントを5セグメントまで詳細に分け、さらに施策の自動化、チューニングまでを実現している。

フリマアプリ「メルカリ」のCRM戦略の歩み

文字通りゼロからのスタートだったわけだが、樫田氏は、最初のフェーズとなるCRM1.0では「シンプルさ」が何より大事だと述べた。

最初から精緻さにこだわらないことです。心配しなくても、シンプルにスタートすることに成功すれば、精緻化はあとから可能です。また、何事もはじめてみてわかることがたくさんあるのです(樫田氏)

樫田氏は、良くないケースとして3つのパターンを示した。

  1. Too Late to Start

    できるだけ正確にセグメントを切りたい、など志を高く持ち過ぎた結果、半年たっても方針が決まらずに始めることができない

  2. Too Hard to Operate

    セグメントが多すぎるなどで、運用が回らない

  3. Too Difficult to Understand

    セグメントの切り方やコンセプトが複雑でごく一部の人しか理解できない

樫田氏は、セグメント分けを複雑にしてしまうと、上に挙げたような状況に陥ると直感的に感じ、とにかくシンプルにすると固く心に誓った。

CRM1.0では、セグメントは3つに設定することになるのだが、実際に取り組みをはじめると、社内でも「もっと細かく」「もっと正確に」設定したいという声があがったそうだ。しかし、そうした「複雑化の誘惑」にとらわれそうなときには、樫田氏は『先人達の言葉に学び、じっと我慢して欲しい』と呼びかけた。

アインシュタインは『知的な馬鹿は物事を複雑にする傾向がある』と述べました。また、スティーブ・ジョブズは『シンプルであることは複雑であることよりも難しいときがある』といいましたし、ソクラテスも『賢者は複雑なことをシンプルに考える』という言葉を遺しています(樫田氏)

樫田氏はこうして、「シンプルに実施すること」を死守したそうだ。

セグメント分けを「シンプルにはじめる」ための3つのステップ

樫田氏は、シンプルに実施することを念頭に置き、以下の3つのステップに沿ってセグメント設定を進めていった。

ステップ1: これまでの知見から仮説を考える

施策担当者とブレストしながら、すでにある程度わかっていることから、簡単な分析をベースにアイデアを出すことが大事だという。

フリマアプリ「メルカリ」の例では、最初に「メルカリで物を買ったことがある人とない人」という分け方をした。ここで、直近でいつくらいの購入時期かということや、購入金額はいくらくらいか、といった要素は排除した。「月間の購買数は人によって差がある、またアクティブでない(購買経験がない)人にはプッシュ施策が届かない」と考えたからだ。

そこで、「過去に購買経験があるか」「直近に購買があるか」の2軸、4つのセグメントに整理した。「もう少し、いろいろな軸で考えたほうがいいのではないか」という指摘に対しては「3次元以上になると複雑過ぎて理解できない」と説明し、シンプルさを死守した。

まずは顧客を2軸に整理し、分析を始めることにした

樫田氏は、分析軸を設定する上での条件として以下のポイントを示した。

  • 直感的にわかりやすいこと
  • セグメントごとの人数が極端にばらついていないこと
  • セグメントを分けるためのデータが容易に入手できること

ステップ2:考え方を目に見える形に落とす

次に、社内の担当者と「このセグメントに属する顧客がどんな人かイメージできるか?」「このセグメントに対して打つべき施策は何か?」を議論するためのアウトプットづくりを行った。

樫田氏の場合、セグメント設定の目的や、各セグメント間の意味合いなどを補ったA4 1枚程度の資料を用意した。

担当者間で共通認識を持つために、簡単な資料を作成することが大事

ポイント3:ある程度の複雑さのレベルで分析しつつ、まとめる

ここでの複雑さとは、たとえば「クロス集計」で分析できる程度のものだ。シンプルにセグメントを設定しておくことで、過去の「セグメントなし」での施策も、「このセグメントで分けていたらどうだったか」を振り返って分析することが可能になる。

たとえば、過去に全ユーザー向けに行った施策の反応率が30%だったとします。担当者とのディスカッションで、改めて個別のセグメントで分解してみると、実はセグメントごとに反応率が違ったというようなことが検証できれば、そのセグメント設定は正しかったといえるでしょう(樫田氏)

その後、樫田氏は、セグメントを8つまで細分化し、過去の施策の反応率なども分析項目に含め、セグメントごとの特徴を分析シートに落とし込んだ。

そのシートをベースに、施策担当者と話しながら、「打つべき施策が変わらないセグメント、人数が少なすぎるセグメントはまとめる」「データから分析が容易かどうかを考慮する」「過去の反応率やKPIから、傾向が同じ場合はまとめる」といった考えに沿って議論を重ね、セグメントをシンプルに削いでいくことを行った。

その結果、得られた最終的なセグメントが「直近に購買あるか」「過去に購買経験があるか」の2軸で分類した3つのセグメントだ。

新規(New)、継続(Keep)、既存復帰(Comeback)のシンプルな3つのセグメントが決まった

「シンプルなセグメント」から得られた3つのこと

樫田氏は「CRM1.0」でシンプルなセグメントを設定した結果、3つの効果が得られたと説明した。

1つ目は、セグメントごとにKPIを分けて考えることができることだ。

全体のKPIは売上の向上だが、実際にすべてのセグメントに対して売上アップをKPIとして設定するのは現実的ではない。

新規顧客は獲得数やCPA、LTVなどを、継続顧客は売上やキャンペーンROIなどを、そして、既存復帰顧客は復帰バイヤー数などのように、セグメントごとにKPIを変えて分析、モニタリングが可能です(樫田氏)

KPIをセグメントごとに変えることで、数字の好不調の理由も理解しやすくなったという)

2つ目は、セグメントごとに施策を分けて考えることができることだ。施策の実行がより効率的に、効果的になったのだ。

セグメントごとにやるべきこと、かけられるコストは異なります。その意味で、全体に同じ施策を行うことは非効率的でした。セグメントごとに施策担当者を分けても、それぞれが疎結合で連携できるため、施策全体を統括する視点は失われませんでした(樫田氏)

3つ目は、目標数値をセグメントを使って精緻化できることである。たとえば、成熟しているサービスであれば、会員の継続率はある程度予測可能だ。

セグメントを分けることで、こうした会員の継続率を加味しながら、それぞれ新規獲得系施策や既存復帰系施策などを実施し、会員数を積み上げていく目標計画が立てられる。

前年比よりも可変性が高い目標計画が立てやすくなる

これにより、12月は広告施策で新規獲得に注力するというように、ある月の施策がその翌月にどんな影響を及ぼすか、セグメントごとの計画も立てやすくなりました(樫田氏)

施策運用に「分析」を組み込み、さらに精緻化、自動化へ

樫田氏は、施策の運用にあたり「セグメントごとに施策を考え、実施」「実施した施策の分析」「分析結果から良い施策を定期化、うまくいかない施策を改善」というサイクルを確立することが大事だと述べた。

運用に分析を組み込むサイクルを確立することで、『鉄板施策』を見極めて必要なら予算化したり、施策の反応率を知見化することができます。そして施策あたりのコストが肌感覚としてつかめること、そして、結果が出ない施策を理解して、同じ失敗を繰り返さないことの実現につながります(樫田氏)

フリマアプリ「メルカリ」の施策チームと分析チームは、施策素案と予算計画をもとに、週1回から2回程度の定例ミーティングで一緒に検討を行う。分析チームでは、効果分析や予算に収まるかの試算、場合によって対象層の絞り込みなどを行い、施策を実施。施策の実施後は、ダッシュボードなどで結果をモニタリングしながら効果分析を行い、振り返りと知見を共有するというサイクルで運用を行った。

運用サイクルに分析を組み込むことで、チームで目標を達成していく

マーケティング施策を実施するうえで、分析担当者は「やや外れた存在になりがち」だと樫田氏は述べる。しかし、分析チームは本来、戦略の中心にいるべきで、その意味からも「チームで目標を達成するチームワークを大切にすることが、運用の成功のカギを握る」と説明する。

CRM1.0の運用に慣れてきたら、上述のセグメント数を3から5に増やした「CRM2.0」に進化させた。これは、直近で購買のある「Keep」セグメントを、購買の頻度や額から2つに分類、また、新規顧客の「New」セグメントも、登録時期で2つに分離させた。

CRM1.0からCRM2.0へのアップデート

そして、現在はセグメント数をさらに細かく分割した「CRM3.0」で運用しているという。

「チームで進みたいなら、先に進むことを焦ってはだめで、小さいことを積み重ねていく意識を忘れてはいけない」と樫田氏は言う。

また、次のステップとして、機械学習を導入した「CRM4.0」への移行に取り組んでおり、『Simpleセグメント』から、多数の行動特徴を機械学習モデルで複合判定する『Complexセグメント』の取り組みを一部実証しているという。

最後に、樫田氏は、顧客セグメントを分け、データ分析を行う際には「最初はシンプルにはじめること」「精緻さにこだわらないこと」が成功のカギだと改めて述べ、勇気を持って取り組んで欲しいとセッションを締めくくった。

本セッションのプレゼンテーション資料についてはSpeaker Deckにて公開している。

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