DA PUMPはバズの波に上手く乗れた「バズサーファー」!

実は筆者は『U.S.A.』が初披露された5月のライブイベントに足を運んでいたのですが、当時の客席の反応は正直「ピンと来ていない」状態だったと思います。何やらナゾの空気が漂う楽曲に衣装……。「ネットで“迷走”とか叩かれないといいな」と勝手に危惧していた帰り道が今や信じられないほど、いつのまにか「今年の顔」とも呼ぶべきヒット曲となっていました。

SNSでバズッたときは単純に嬉しかったですし、楽曲をきっかけにDA PUMPが再評価されたことも本当に感慨深いのですが、マーケター目線で見てもこの現象には学ぶべきポイントがあると感じています。

それは、バズが起きてからの彼らの対応力。

それは例えるなら、来る波(バズの種)に上手に体勢を合わせ、波乗り(バズ)を楽しむサーファーのようなゴキゲンな雰囲気。DA PUMPは「バズの波に乗ることが上手かった」からこそ、ここまで大きなムーブメントを形成できたのかも……?

想定外のバズが起こったとき、企業はどう対応すべきか

所属事務所社長のインタビュー※1 によると、『U.S.A.』リリースに至るまでには同事務所の荻野目洋子さんの「バブリー再ブーム」にヒントを得た部分もあったそうですが、現在のムーブメントについては「何でダサいなんて言われたか、いまだによく分からないですけれども(笑)」とも語っています。

ということは制作サイドも「ある程度のバズを期待した部分」はあれど、当初から現在のような「ダサカッコいい路線」で売り出すつもりではなかったということですよね。

確かに、いかに「バズるか」を焦点にした企画を考えても、今の時代それが狙い通りにバズるかなんて予測しづらい……というか、正直「不可能」にも近いのではないでしょうか?

実際、DA PUMP以外の企業や著名人による「バズサーフィン」成功事例も生まれています。

 

「 #ニクレンジャー 」

吉野家(@yoshinoyagyudon) の「ボツ企画」投稿に他企業が相次いで反応し、ポジティブなソーシャルボイスを生んだ例。詳しくはBACKYARD「月刊ソーシャル」の記事へどうぞ!

 

「こぐまのケーキ屋さん」

元々は作者のカメントツさん(@computerozi)が友人のために描いた作品でしたが、Twitterでの反響を受け、すぐに連載形式での新作投稿を開始。その結果、あっという間に書籍化や企業コラボが実現したのでした。

 

起こったバズの波にどう乗れるかを念頭に置き、世の中の反応に合わせてコンテンツを「育てていけるか」どうかで、その後の結果に大きな差が生まれる。

言うなればリアルタイムでPDCAを回して波に乗っていける力が、今後企業にもより求められていくのではないでしょうか。

では、ここからDA PUMPが(制作サイドも含め)どのように「起こったバズの波」を生かせていたのか詳しくご紹介していきます。

【検証】DA PUMPはこんなにバズの波に乗れていた!

バズサーフィン①「ダサカッコいい」の反響を即座に「新たな売り」にする

おそらく最初のバズは、CDジャケットの公開タイミング。今や見慣れてしまいましたが、当時は衣装やポーズが「絶妙なダサさ」などと話題になりました。

……が、YouTubeでミュージックビデオが公開されると、「ダサいけどスキルがハンパない」「ダサいけどカッコいいじゃん」の声が急増します。

そんな世間の声への対応の仕方が、彼らはとても上手かった!

ISSAさんはその後のインタビューで何度も「ダサカッコいい」について言及。「ダサカッコいいを日本中に広めたい※2」「『ダサい』は褒め言葉※3」などコメントし、他メンバーもリアルタイムで好意的な反応を示していった結果、ダサッコいいがメンバー公認かつファンを巻き込む「アピールポイント」になっていきました。


このバズサーフィンによって「あ、ダサカッコいいって言って(いじって)いいんだ」という空気が生まれ、メディアでも「ダサカッコいいで話題の」など共通の認識を持って取り上げやすくなったのではないかと推測します。企業担当にも彼らのような臨機応変な切り替えとプロデュース力が必要かもしれません。

バズサーフィン②「ハロプロファン」への思わぬバズも味方につける

次なる「想定外バズ」は、ハロプロ(Hello!Project)ファンへのバズ。モーニング娘。'18や、最近 #46億年LOVE という楽曲がバズり始めているアンジュルムなど、ハロプロ所属のアイドルファンが「この曲ハロプロっぽくない?」と話題にしだしたことで『U.S.A.』のミュージックビデオがさらに拡散されました。そして、DA PUMPはその評判もいち早くキャッチし歓迎していたのです。

メンバーTOMOさんは特にいち早く反応。その後、ハロプロファンとの交流からTOMOさん自身がハロプロ曲にハマるという展開にも発展しました。

こちらのユーザーは、ハロプロ経由でDA PUMPのファンになった模様。

そんなメンバーの対応に感謝するハロプロファンも現れ、SNSのみならず彼らのリリースイベントにも足を運ぶ人も増加。池袋サンシャインシティ特設会場ではハロプロファンによる異例の「コール」が沸き起こりましたが、それに応えるISSAさんの「粋な対応」も話題になりました。

 

45秒付近からのISSAさんとメンバーに注目。不穏な空気?と思いきや、「もっと声出せるんじゃないのか!」とハロプロファンの声援を歓迎したのでした。

ちなみに同時期のインタビュー※4によると、「コール」についても事前にファンの企画を把握していた模様です。

この「池袋」以降メディアで取り上げられる機会がますます増加し、その後は音楽番組でのコラボやハロプロのコンサートにDA PUMPがゲスト出演するなど双方の露出増加につながる「二次ウェーブ」にも発展しました。

アイドルと似ていると称されたことはもちろんDA PUMPにとって予想外のはずですが、他ジャンルを否定しない彼らのスタンスが結果的にSNSの炎上防止と新規ファン獲得につながったとも考えられます。このバズをきっかけに「本当のDA PUMPファン」になったハロプロファンも多数いる模様ですし、「ダサカッコいい」に続いて予想外の波にしっかり乗れた好例です。

バズサーフィン③ファンの反応を受け?新たな「メンバーカラー」制度の登場

アイドルのファン以外の方にはなじみが薄いかもしれませんが、日本のアイドルグループには各メンバーごとに担当カラーを割り振る「メンバーカラー」システムが多く採用されています(ももいろクローバーZの色違いの衣装を思い浮かべていただければ分かりやすいかもしれません)。

調べたところ、7人体制のDA PUMPにはこれまでハッキリとしたメンバーカラーはなかったようなのですが、興味深いことに『U.S.A.』ブーム以降、全員にいつのまにかメンバーカラー(カラーというより、「柄」もありますが)が割り振られていたのです。

以前から一部のDA PUMPファンの間でも「衣装がメンバーカラーみたい」との声が上がっていましたが、「ハロプロバズ」以降は「DA PUMPにメンバーカラーってあるのかな?」「勝手に考えてみた」と予測をするハロプロファンも多数現れました。

「いいね戦隊ブルー出動!」など日々のツイートで「青色」担当をほのめかしていたメンバーYORIさんは、ハロプロのメンバーカラーにも早い時期から言及。

とはいえ、この段階ではまだ正式な「カラー案内」はありませんでした。

が、10月10日の単独公演用に7色のカラーを施したラバーバンドやタオルなどのグッズが登場したことで制度の信憑性はますます高まり、当日のMCではメンバーの口から正式に(?)「メンバーカラー」という言葉が登場したのでした(筆者が現地で確認)。

後付けなのか『U.S.A.』発売前からの戦略だったのか、もちろん正確には判断できませんが……もしこれがハロプロファンなどタイプの違う新規顧客がついたことをきっかけに正式採用されたものだとしたら、他界隈の属性をリアルタイムで研究し、バズの波を最大限に生かそうとした結果となり、賢い乗っかり方と言えるでしょう。ちなみに7色ラバーバンドはライブ前に既に完売していました。

バズサーフィン④SMAP、安室奈美恵など「話題のモーメント」を嫌味なく取り入れリーチを拡大

バズを受け音楽番組への出演が増加したDA PUMP。そんな「マス」からも彼らは新たな波を生み出しました。

番組出演後のKIMIさんのツイート。ハッシュタグの最後に注目!

中居正広さん司会の音楽番組(生放送)にて『U.S.A.』を披露した際、DA PUMPはラストのダンスをSMAPの『世界に一つだけの花』の振り付けに変更。生放送ならではの出来事はすぐさまTwitterで話題になり、ネットニュースにも。

中居さんの前だから「乗っかった」だけ?と思うかもしれませんが、実はISSAさんは以前からSMAP好きを公言。リスペクトがあるからこその行動だろうとSMAPファンは感謝し、新たな層へのリーチが獲得できました。

さらに、安室奈美恵さんの引退直後に出演した『ミュージックステーション(21年振りの出演だったとか!)』では、SMAPの振りを入れたシーンと同じ部分を安室さんの楽曲『a walk in the park』の振り付けに。それに気付いた安室さんファンがTwitterなどで拡散し、またも新たな層への広がりを見せました。

安室さんとDA PUMPは同じ沖縄アクターズスクール出身。また近年ではメンバーのKENZOさんが安室さんの振り付けを行っていたこともあり、単なる便乗ではなくメッセージ性が込められているとファンは感じたようです。

話題のモーメントにただ乗っかるだけでは反感を買うケースもあるため企業も注意する必要がありますが、彼らのように対象への「リスペクトが感じられる」ことが、炎上を防げるポイントの一つでもあるのではないでしょうか。

バズサーフィン成功の近道は「SNSの特性を知ること」にある

こうして振り返ると、今回拡散に最も寄与したツールは「やはりTwitter」な印象ですが、実はDA PUMPのメンバーは7人全員がTwitterアカウントを保有。ブレイク前もブレイク後も、マメな運用でファンとのコミュニケーションを重ねています。

彼らが「バズサーフィン」を成功できた理由は、「バズの起点となったSNSを既に使い込み、特性を理解していた」点が大きかったのではと思います。今回はそれがTwitterでしたが、InstagramやTikTokを並行使いしているメンバーもいるため、デジタル界の波にはどちらにしろ敏感なのかも?

どんなプラットフォームにしても、その世界をまずは自ら体験し、どんなことが起こっているのか知ることで、より「想定外バズ」への柔軟な対応が可能になるということでしょう。

ちなみにメンバーの何名かは、ファンや一般ユーザーが発する大量のDA PUMP関連ツイートに頻繁に「いいね」をしていることもご紹介しておきます。特にDAICHIさん(@DAPUMP_DAICHI)に至っては、ファンからも「寝て」と心配されるほどのマメな「エゴサ」力です……。

そしてもう一つの押さえておくべきSNS特性が、「Twitterにはエンタメ系の拡散に強いタイプのユーザーが多数存在している」ということ。

プライベートアカウントを利用する中でも日々感じてはいたものの、「誰かや何かのファン」であるいわゆる「クラスタ」は、Twitterを情報収集の起点としたヘビーユーザーである傾向がかなり強い。

あくまでTwitterの世界の一部分を切り取ったものですが、以下の表はさまざまなユーザーのツイートやプロフィールを参考に、ざっとクラスタを一覧化したものです。

この表で言うと、今回の場合は「全タイプのクラスタ」がまんべんなく拡散していた印象ではあるのですが、早い段階で「ジャケットのダサさ」がバズッたことにより、「単一クラスタ」以外のエンタメに明るい多趣味系ユーザーを巻き込め、拡散パワーが増大したと思われます。

Twitter運用担当の方はもちろん、エンタメ系と相性の良い企画を考える際には、このような「独自の文化」を知っておくのもいいかもしれません。

……と、まあいろいろと書いてきましたが、もちろんDA PUMPが再ブレイクできたのは、バズサーフィンスキルだけではなく本業の努力ありきなことは忘れてはいけません。

気持ちよく波に乗るには日々の体力づくりなど準備が不可欠であるように、ショッピングモールでのライブなど地道な活動を継続していた彼らだからこそ、想定外のバズでメディア出演が増加してもパフォーマンスの質を落とさずにいられるのだと思います。

グループ(ブランド)の力を信じて、いつバズが起こっても慌てず優良なコンテンツを提供できる対応力を磨いてきたことが、彼らの一番の波乗りポイントかもしれませんね。

おわりに

SNSやYouTubeが存在していなかった頃に一時代を築いたグループが、平成最後の年にデジタルを活用して再ブレイクを遂げたなんて何だか夢のある話です。

予想外のバズを上手く生かせたDA PUMPの「バズサーフィン」事例をお手本に、「何がどんな場所から流行るか分からない」、でも「備えあれば憂いなし(!?)」なソーシャル時代を賢く生き抜いていきましょう !

そして改めて、DA PUMPの皆さん。「NHK紅白歌合戦」出場決定、おめでとうございます!

 

参照元:

※1 DA PUMP『U.S.A.』 仕掛け人が明かす誕生秘話

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO35206680R10C18A9000000?channel=DF280120166614

※2 DA PUMP すでに380万回 ISSA「ダサカッコいいを日本中に広めたい」

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2018/06/07/kiji/20180606s00041000294000c.html

※3  DA PUMP「U.S.A.」誕生の裏側 ISSA「ダサいは褒め言葉」

https://avexnet.jp/column/detail.php?id=1000231

※4 ISSA「U.S.A.を突破口に伝えたい」

https://www.lmaga.jp/news/2018/06/42653/

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