中小企業こそWebの活用で売上UP! 人通りが少ない高知のアパレルショップが、新規来店客増加を実現したホームページとは?

「ウェブ解析士会議2018」坂上北斗氏のレポート「地方のウェブ解析士が案件から学んだ事業に貢献するために必要なこと」。
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「地方のウェブ解析士が事業に貢献するために必要なこと」坂上北斗氏

約30年HP(ホームページ)を持たずに経営をしてきた高知県のアパレルショップ。人通りも少ない路面店のアパレルショップが戦略を持ってホームページを作ったら、店舗の集客・売上に貢献したという。

「ウェブ解析士会議2018」では、坂上北斗氏が「地方のウェブ解析士が事業に貢献するために必要なこと」と題した講演を行い、高知の広告代理店に勤める坂上氏が自らが手掛けた事例を3つ紹介しながら、ウェブ解析士の事業への貢献について解説していった。撮影:イイダマサユキ

3つの事例から学ぶ:事業に貢献するために必要なこと

現在は、高知の広告代理店メディア・エーシーでWebを担当している坂上氏は、元々は東京で企業支援や事業開発を行う会社で勤務しており、高知にUターンしてからWebの世界に飛び込んだという。

人口減少と高齢化が深刻になってきている高知の中小企業こそ、インターネットを活用すべきと言う坂上氏の手がけたアパレルショップ店の事例から紹介していった。

事例①: 30代前後の女性をターゲットにしたアパレルショップ/ゼロベースでクライアントのことを考える

まずは、30代前後の女性をターゲットとしたアパレルショップの事例だ。

地方では、ホームページを作ると商工会議所などから助成金が出ることがある。この事例も「助成金をもらったからホームページを作ってほしい」という依頼だった。

アパレルショップを30年間、ホームページなしで経営してきたオーナーは、そもそもホームページを作る必要性を感じていなかった。一方で、「ネットショップをやってみたい」という思いもあり、助成金を申請する。

しかし、アパレルショップが取り扱うブランドは、実店舗での販売は可能でも、メーカーが直販サイトを持っているため、ネットショップでの販売ができなかったのだという。

Webだけでなく、事業に貢献したいと考えていた坂上氏は、「必要ないものは売りたくない」と考え、どうやったら事業に貢献できるホームページを作れるかを模索した。

仮説

そんなときに、アパレルショップで取り扱うあるブランドの検索ボリュームが2014年頃から急激に増加していることを発見。しかも、そのブランドの商品を高知県内で取り扱う唯一の実店舗が相談者のアパレルショップだったのだ。

これに気が付いた坂上氏は、「そのブランドの商品を高知の人も欲しがっているが、高知県内で実店舗の取り扱いがないと思われて、仕方なくネットショップで購入しているのではないか」という仮説を立てた。

しかも、大手オンラインショッピングモールにおける都道府県別の年間購入額ランキングにおいて、高知県は、ネットショップ購入率が全国3位という調査結果もあったのだ。

そこで、「ネットショップを作るのではなく、人気ブランドの商品を実際に手に取って確かめてから買える」つまり、「実店舗に誘導することを目的としたホームページ制作」をアパレルショップに提案し、採用された。

結果

その結果、サイト公開から2か月でメルマガ会員が急増し、アクセス数も順調に増え、非常に喜んでもらうことができたと話す坂上氏は、「ホームページを作ることが前提ではなく、ゼロベースで考えて、そのビジネスにとって何が必要かを考えることをこの事例から学んだ」と話している。

事例②: 高知特産品を取り扱う企業/パートナーとして二人三脚でやっていく

2つ目の事例は、高知の特産物をカタログ通販とECで販売する会社だ。

売上は伸びているが、「勘や気合で立てた施策で、何に効果があったのかがわからないので、成果や施策を可視化するために現状のデータを分析して客観的な意見がほしい」と依頼された坂上氏は、過去4年間の売上データを分析した。

ECの売上が4年前は全体の1/4だったが、直近の売上では、1/2以上に増えていることに注目する。

また、クライアントから「ギフトの注文が多い気がする」と聞いていた坂上氏は、届け先が自宅の場合は「自宅用」、それ以外の場合は「ギフト用」というセグメントを作って、アクセス解析を行った。そうすると、春秋は約6割、夏冬は約8割が「ギフト用」であることがわかり、「ギフト商品の拡充」と「高知らしい包装紙を使う」という施策につなげていった。

さらに、アクセス解析データから、ある特定の商品ページに情報ポータルサイトからの流入が多いことも見つけ、「その情報ポータルサイトから誘客を強化できないか」と提案し、担当者にアプローチしてもらった。その後、相互に誘客することを見越して、担当者と共に特産品メディアサイトのリニューアルを手がけたという。

この事例を振り返った坂上氏は、「最初はウェブ解析士としてデータ分析と現状把握を行い、次にディレクターとしてメディアサイトのリニューアルに関わり、現在はアドバイザーとして社長含めた社員と一緒にディスカッションをしながら、戦略立案や施策整理・実行に関わっている」と言う。

「小さな会社は、1人の人が何役も兼務しているので、事業パートナーとしてやっていくためには、業務範囲を絞ったり、関係を固定したりすることはできないことをこの事例から学んだ。二人三脚で一緒にやっていくことが重要だと感じた」と坂上氏は話している。

事例③: 薪ストーブのホームページリニューアル/最も親しい第三者となる

3つ目の事例は、薪ストーブを作っている会社だ。

「ホームページをリニューアルしたい」という依頼が来たのだか、予算が足りないので、どうにか一緒にできる方法はないかと相談されたという。

夫婦で経営している薪ストーブの会社は、妻がWebデザイナーであったため、全ページを坂上氏が作るのではなく、「ホームページで何を、どう伝えたらいいか」を一緒に考え、ホームページの企画と情報設計、重要なデザイン、コーディングのルール決めを坂上氏が行い、各ページはクライアントが作るという形となったのだ。

坂上氏は、ホームページのリニューアルをするにあたって、次のようなことを行った。

  • 強みの抽出
  • メッセージの言語化
  • 必要なコンテンツの洗い出し
  • マーケティング施策
  • チャネルの整理

しかも薪ストーブは1台数百万円する高額商品であるため、購入までの期間も長く、購買のためにどの時点で何が必要かを整理し、成約までの活動を制約ステップとしてまとめていったという。

この事例で坂上氏は、最も親しい第三者になることが重要だと学んだという。製品の価値や魅力、作り手の思いを語るために事業に入り込んで親しくなる一方で、客観的に見ていくポジションを取ることが重要だ、と話している。

実践の場と社外の共有の場を作ることが重要

ここまで3つの事例を紹介してきた坂上氏は、地方のウェブ解析士の事業への貢献に話を移し、4つのポイントを説明した。

自分のミッションや理念を持つ

1つ目は、中小企業の場合、「経営理念」と「経営者の人生理念」がほとんど共通のものになっていることが多いと話す坂上氏は、そこにビジネスパートナーとして入るには、自分のミッションや理念を持つ必要があると説明する。

坂上氏は「心に描いたものをカタチにする“つくるひと”」というミッションを持っており、何かを創り出すことが喜びにつながることを人生の中心に置いているという。

メディア・エーシーに入社したときには、「会社のミッション」「部門のミッション」「職種のミッション」「自分のミッション」を一直線上に並べて明文化して、「自分のミッション」が「会社のミッション」とどのようにつながっていくかを考えていたという。

株式会社メディア・エーシー 坂上北斗氏

クライアントの事業を好きになる

2つ目は、クライアントの事業を好きになることだ。好きになるためには、相手を知る努力をする必要がある。クライアントと仕事を進めていくうえで、徹底的にヒアリングすることを心がけているという。

たとえば、次のようなことを深堀して聞いていく。

  • 商品ターゲットは誰か
  • 買わなかった人はどのような人か
  • クレームとなるのはどのようなケースか
  • どのような顧客が増えてほしいかなど

また、商品だけでなく配送や付属品、アフターフォローを含めて「商品の魅力」となるため、深堀してヒアリングし、確認していくという坂上氏は、「好きになるために徹底的に情報を集める努力はするが、それでも好きになれない場合や相性が悪い場合は、事業パートナーにはなれないので、仕事を断ることもアリだと思っている」と説明する。

実践主義に徹する

3つ目は、知識で判断せず、実践主義を貫く、ということだ。

マーケティングでは3C(自社、市場、競合)がよく出てくるが、特に地方の中小企業では、市場や競合について、正確な情報を手に入れることが困難であるケースも多く、クライアントと共通認識を持てるような、納得感のある「市場分析」や「競合分析」を行うことは難しいケースが多い。

3C分析をするよりも、確実に存在する「今買ってくれている目の前の顧客」を分析し、買ってくれる要因を横展開して、強みを伸ばしていくことが重要だという。

これを地方のクライアントに話すと、「うちには強みはない」と話す会社が多いというが、ビジネスが継続しているということは顧客に評価されているので、誰にでも強みがあると説明しているという。

職場外のコミュニティで学ぶ

最後の4つ目は、職場の外のコミュニティで学ぶということだ。

坂上氏は、地方にいると、「高知では」マシなほう、「高知では」難しい、「所詮は田舎の企業のレベルだから」といったことを聞くことが多く、ガラパゴス化や井の中の蛙になることが地方のリスクだと話す。

坂上氏は、「ウェブクリエーターズ高知(WCK)」というコミュニティで月1回勉強会を行っている。この勉強会では、講師と参加者がフラットであるというコンセプトを持っているといい、2018年からは坂上氏が代表を務めている。

それ以外にも、Facebookのコミュニティやドラッカーの読書会など、会社を出てさまざまな場所で活動しているという坂上氏は、「常にチャレンジすることで縁や関係性がつながっていく。実践の場と共有の場のサイクルを回していくことが、地方において、事業に貢献できるウェブ解析士という立ち位置を維持・改善するために重要だと考えている」と話している。

この記事の筆者

野本幹彦

IT系ローカライズ会社、IT関連雑誌記者を経て、フリーライターとなる。コンシューマから企業システム、ソーシャルアプリ、デジタルマーケティングまでの幅広い分野で記事を執筆。事例取材やインタビューを中心に、書籍、広報誌記事、Web記事などを手がけている。

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