インタビュー

川崎フロンターレ「天気が悪かったから」と言い訳しない。データ分析で来場者数を正確予測

「勘と経験」に頼らない正確な予測で来場者の「また来たい」を実現したいという川崎フロンターレの谷田部然輝さんにデータ活用について聞いた。
川崎フロンターレのマスコットキャラクター「ふろん太」

Jリーグのサッカーチーム「川崎フロンターレ」では、天候や外的要因に左右されずに売上を伸ばし続けるために、データ分析ツールを使って、正確なスタジアム来場者予測数やグッズ販売予測数などを立てているという。

そのために導入したのが、データビークルのData Diver(データダイバー)だ。同サービスは、『統計学が最強の学問である』の著者で知られる西内氏が開発に携わっており、統計学を用いた高精度な予測ができる。

どんな経緯で導入して、どう活用しているのか、川崎フロンターレの谷田部さんに詳しく聞いた。

川崎フロンターレが抱える課題とは?

――Data Diver(データダイバー)を導入したんですよね? 導入前はどんなところに課題を感じていたんですか?

谷田部(川崎フロンターレ): サッカーってその年によって成績が良かったり、悪かったりするんですよね。たとえばお金をかけて有名な選手を獲得したとしても、必ず優勝するとは限らない。成績が悪ければJ2に降格することもあります。

スポーツだから当たり前と思われるかもしれません。ですが、メーカーで考えると次の年に買った商品のスペックが下がっているなんてこと、あり得ないですよね。でもサッカーではそれが起こってしまうんです。だからこそ、数字にこだわった事業運営が大事なんです。

――川崎フロンターレさんは創立以来、一度も赤字になったことのないクラブだと思うのですが、事業を安定させるのは、それほど難しいのですね。ちなみにサッカーの売上というと、どういうものがあるのですか?

谷田部: 主なものは広告料、グッズなどの物販、入場料です。サッカーの場合、外的要因で売上が下がってしまうこともあります。

――外的要因とは?

谷田部: たとえば、サッカーは雨でも試合をするんですね。寒くて、雨が降っている日は、晴れの日と比べると入場者数は落ちますし、グッズ販売にも影響がでます。サッカーはエンタテインメントです。家族で楽しみに来てくださる方も多いので、雨の日に子供を連れて観戦しないですよね。ですから、クラブ事業を安定させるには、予測や数字にこだわる必要があるんです。

――では、Data Diverをどう活用しているのでしょう?

谷田部: 目的は2つあります。

まずは、「ビッグデータが教えてくれることを知る」です。

どんな要因が来場者数に影響を与えているかをデータで分析してみても、分析結果が、「これ知っている」とか「そうだったよね」となることはやっぱり多いんです。そういう意味で、人間の勘(カン)ピューターってすごい性能が高い。

でも、データ分析を続けていくと、私たちが気付いてないことが必ずあるんですよね。ですから、今はData Diverから出てきた結果をもとに、社内のスタッフでブレストしたり、こんな結果が欲しいからこういうデータを集めたり、いろいろ試行錯誤しているところです。

――もう1つは?

谷田部: 「正確な予測をする」です。

川崎フロンターレの2016年度の売上は42億。2017年度は50億を超えました。一見すると「右肩上がりの成長」ですが、2017年度はJリーグでチームが優勝したんですね。売り上げ増は、優勝したことによる特需も大いに関係しています。

特需は毎年起こるわけじゃないですよね。経営の視点で考えると、売上の予測が甘いと社員の給料も上がらなければ、クラブ運営もどうすべきか判断に困るわけです。来年度の売上の予測が高精度で出せて、「今年は間違いなく黒字です」ということが事前にわかっていれば、たとえば、チームに足りない選手を厚めに補強するという判断を下せます。

高精度の予測がなければ、人の勘に頼るか、前年度の実績を基に判断するしかないんですよね。そういった点でデータ分析をもとにした予測を活用しています。

経営の視点からすると、どんなにすごいデータ分析ができたとしても、最初はコストなんですよね。だから、川崎フロンターレ全体としてデータ分析を推進していけるようにするためには、いかにそのデータで売り上げを上げられたかが大事なんです。

2017明治安田生命J1リーグ優勝記念のプレート

得られたデータはどう活用するのか?

――川崎フロンターレさんが導入した分析ツールの開発元であるデータビークルのご担当者さんにお聞きしたいのですが、精度を高めるために必要なデータとはどんなものですか?

山中(データビークル): 欲しい予測値によって、集めるデータは異なります。一例を挙げると、1試合ごとの結果、順位、得点、入場者数、グッズ売上、天候などのデータをData Diverに読ませると、天候による売上の増減などがわかってきます。もちろん、統計学なので予測結果が絶対ではないですが、データが増えれば予測データは精度の高いものになっていきます。

――なるほど。

山中: 雨が降れば、通常の試合よりも入場者数が減ることは、誰でも予想できます。ですが、具体的にどのくらい減るのか、グッズの売上がどのくらい減るのかまではわかりませんよね。それらがデータによって、数値で明らかになっていくのです。

――川崎フロンターレさんに聞きますが、得られた結果(予測値)をどう活用しているのでしょう?

谷田部: たとえば、天候によって2000人入場者数が減るとわかっていれば、別の方法で2000人を増やすマーケティングプランを考えたり、全く別の方法で減る分を補う方法を考えたりできます。

減る分をどう補うか、さらに売上を伸ばすにはどうするか、という打ち手について、議論ができるようになります

どこの企業もそうだと思うんですが、結果論に対する議論が多いんです。「天気が悪かったらから~」とか「成績が悪かったら~」とか。会議で、これから起きる話を深掘りできると、ビジネスがもっと有意義なものになっていくと思うんです。

――なるほど。

谷田部: たとえば、サッカーの試合は平日と土日に行っていますが、当然ながら土日と比べると、平日は入場者数が減ります。でもその差が、土日と平日だとどのくらいあるのか、月末月初だと違いがあるのか、気温によってどのくらい違いがあるのか、ということがわかると打ち手が変わってくるんです。

あとすごくわかりやすことだと、川崎市内の子供の運動会とかあると、家族連れは来ないですよね。それが明文化されていると、誰もが理解できるようになるんです。

――なるほど、運動会。確かに、それは行きたくても行けないですね。

谷田部: 最初は予想の範囲の話が多いんです。でも、我々でも気が付かなったことがあるんですよね。ですから、その2つの目的で今は回しているところですね。

――ちなみに、どういうきっかけで、データビークルのデータ分析ツールのData Diverを導入したのですか?

谷田部: 実は、JリーグでBtoB向け、BtoC向けの委員会が立ち上がったんです。私がそのBtoCの委員会のメンバーで、『統計学が最強の学問である』の著者西内さんが講演してくれたんです。もともとその本を読んでいて、興味があったこともあって、Jリーグに間に入ってもらって、川崎フロンターレでデータビークルのData Diverを2018年3月から導入をしました。導入にあたっての事前打ち合わせには、川崎フロンターレの社長も同席して打ち合わせをしました。

――社長もコミットしてのプロジェクトだったのですね。

日本のバナナ業界発展に大きく貢献したことが評価されて世界に一つだけの「バナナトロフィー」がドールより贈呈されたという。詳細は、川崎フロンターレの「DOLEバナナ感謝状授与式」をご覧ください。

「シーズンチケット」と「等々力陸上競技場改修」は目下の課題

――データを見て、マーケティングプランを考えている人は何人いますか?

谷田部: 5~6人ですかね。主に、チケットを販売している部門でデータを見ています。

――日々の動きとしては?

谷田部: まだ社内で、ガリガリ分析を行うという体制ではありません。

山中: 現状、川崎フロンターレさんには、散らばっていたデータを集めてもらっているところです。分析を回すところは、今のところは、弊社メンバーを中心に行っています。もちろん、西内とも打ち合わせをしながら、欲しい結果を集めるには、どんなデータが必要か、そのデータを集めるために必要な施策はなにか、というのを検証しながら、回している段階ですね。

――今は「体制を整える」「データを整える」というフェーズなんですね。

谷田部: そうですね。課題として挙げられることの一つに、年間シート(シーズンチケット)をどこまで売るか、ということがあります。ホームグラウンドの等々力陸上競技場には、座席数が2万6千席ほどあるのですが、毎試合の入場者数が2万2~3千人と平均収容率が80%くらいまで来ています。シーズンチケットは通常の価格よりも割引して販売していて、1万席以上売れています。

この状況はとてもありがたいことで、来場者の皆さんにはとても感謝しています。一方で、経営側からすると利益を最大化するにはどうすればいいかという判断に悩まされます。

また、2021年から等々力陸上競技場で、サイド・バックスタンド側(2万席弱)の改修工事が始まるんです。改修工事期間中はメインスタンドしか使えませんので、その時のどのようなことが起こるのかといった想定を今から準備しています。

※等々力陸上競技場第2期整備「整備計画」
http://www.city.kawasaki.jp/530/cmsfiles/contents/0000096/96903/seibikeikaku.pdf

――どれも経営に直結する課題ばかりですね。データ分析ツールを使って、実際にわかってきたことってどんなことがありますか?

谷田部: 1試合ごとのグッズ販売の目標は立ってきていますので、予算づくりにも反映させています。

「また来たい」を実践する難しさ

――Data Diverを導入した理由の1つとしてリリースに書かれていたものに、お客さんが「また来たい」と思ってもらえるようにする、とありました。「また来たい」と思ってもらえる要素って、具体的にどんなことが挙げられますか?

谷田部: 実はすごくそれが難しいんです。というのも、試合が負けたからって「もう二度と来ない!」とは、なりづらいはずです。もちろん、試合の質が高いに越したことはないですが、試合以外の部分が大きいのかなと。たとえば、「待たされる」「嫌な思いをする」「座席がない」とか。そういう体験をすると試合を見に来なくなっちゃうはずです。

スタッフの対応を良くするのは当たり前ですが、チケット購入の手間を減らすとか、あとは、ファンクラブ登録の更新の手間を減らすとか、そういう部分が大事になってくるのではないかと思います。

「親父ギャグ」は大事な要素

――川崎フロンターレさんは、すごく地域密着型で運営されているように感じるんです。なにかマーケティングをするうえで大事にしていることはありますか?

谷田部: 「コンテンツ」と「ハード」というのは大事にしています。ハード面はチームのことです。コンテンツ面で大事にしていることは、選手とお客様の近さですね。お互いの顔が見えるようにする、ということは大事にしていますね。

――川崎フロンターレのマーケティング担当者さんがマーケティングをするうえで大事にしていることは何ですか?

谷田部: 親父ギャグじゃないですか? (笑)

――え、親父ギャグですか……? (耳を疑う)

谷田部: たとえば、発言したことに対して相手がちょっと「クス」って笑えるとか、「バカだなぁ(愛嬌のある意味で)」と言ってしまうような、人を楽しませることは大事にしています

最近だと、優勝したときにシャーレを掲げるんですが、それが別の試合会場に行っていて実物が手元になかったんです。それで、風呂桶を掲げたんです。風呂桶とシャーレの形が似ているから。あと、風呂(フロ)ンターレですね(笑)。

優勝した時、風呂桶を掲げた写真。風呂桶の底にはシャーレの模様が刻印されている。
©KAWASAKI FRONTALE

――それニュースで見ました(笑)。川崎フロンターレさんのそういうスタンスを選手は理解してくれているんですか?

谷田部: 選手は理解してくれていると思います。それに選手ともよく会話をして、おもしろくするアイデアを出し合ったりしていますし、とても協力的です。他のチームからやってくる選手もそういうチームカラーだという認識で来てくれます。

――最後に一言お願いします。

谷田部: 私がよくデータ分析をするうえでよくスタッフに話していることは、データ分析を「サーフィン」にたとえて伝えています。

サーフィンって技術がないと波に乗れないですよね。優勝したことによる、大きい波が今来ているんです。この波を技術がある人は、しっかり乗れて、活用できる。でも素人だと乗りこなせないどころか、もしかすると溺れてしまう可能性もあるわけです。

どんな波が来るかを予測して、すぐに対応できる技術がないと、売上も最大化できないわけです。そういうところに期待していてもらいたいです。これからもファンの皆さんやそれ以外の人もびっくりさせたいですね。

ちなみに、僕はサーフィンしたことがないですが(笑)。

――え(笑)。期待しています! ありがとうございました。

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