【レポート】Web担当者Forumミーティング 2018 Spring

小売店のデジタル化がいち早く進む中国の先進事例から学ぶ「OMO(Online Merges Offline)」

「OMO(Online Merges Offline)」をはじめ、「Always-On」「個票データ」などデジタルマーケティング最新動向
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中国をはじめとする世界の先端企業の事例を通じて、「OMO(Online Merges Offline)」をはじめ、「Always-On」「個票データ」などデジタルマーケティング最新動向を徹底解説する。

宮坂祐氏
ビービット
エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト
宮坂祐氏

「Web担当者Forum ミーティング 2018 春」で、ビービットの宮坂氏が、「デジタルの競争原理でオフラインを統合する!世界先端企業の『データ』×『UX』マーケティング戦略」と題して講演した。コンサルタントの立場から、UX(ユーザー体験)の向上を巡る最新トピックについて、国内外の事例を交えて解説した。

テレビ視聴率が示す「デジタライゼーション」のいま

社会全体の急速なデジタライゼーションはすでに疑う余地がないが、それ以前の時代におけるメディアの主役とはテレビだ。約40年前となる1979年、視聴率30%を超える番組は1年間で1860本にも達していた。しかし2016年となると、その数は年間3本にまで減少したと宮坂氏は説明し、下記のように補足する。

これだけをもってテレビのパワーが下がったと短絡的に言うつもりはない。AIDMA(Attention、Interest、Desire、Memory、Action)で言うところのAttention(注意)をとるためにはテレビが最強であり続けている。グーグルやメルカリがテレビCMを出していることもその証明だ(宮坂氏)

とはいえ、この視聴率の変遷は、人間の嗜好や生活スタイルが明らかに変わってきていることを示唆している。一人一人の人間が持つ1日24時間という枠は変わらない。そこから寝る時間や働いた時間を引いた時間がメディアとの接触時間になる。かつてならテレビがほぼすべてだったが、その現状は間違いなく変わってきている。つまりネット、スマホが台頭しているという訳だ。

宮坂氏はもう1つ、ローマ法王の退位・選出にまつわる、とある写真を例に挙げた。新法王の選出にあたっては、多くの教徒がその姿を見ようと教会に集まる。しかしそれは2005年と2013年ではまったく様変わりした。2013年の写真では、集まった教徒たちが、法王の姿を写真に捉えようとスマホを構えており、その画面から発せられる光が一種の幻想的な光景を生み出していた。

ある調査によれば、日本人は1日平均で約100回、スマホの画面を見るという。端末をそれほど頻繁にオン/オフしているということだ。これは「常時デジタル世界にオンラインになっている」ことを意味しており、マーケティングではこういった状態を「Always-On」と呼ぶ。スマホが前提となった時代にはマーケティングの在り方もまた変わったと宮坂氏は指摘している。

シリコンバレーよりも中国が進んでいる!?

こういった社会的変貌を受け、海外では小売店のデジタル化がいち早く進んでいる。アマゾンが米国で開設した無人コンビニ店舗「Amazon Go」は特に著名だが、中国でも事例が豊富だ。中国の大手EC企業である京東(ジンドン)は2017年10月にやはり無人コンビニ店の運営を開始した。

また、アリババ系のネットスーパー「盒馬(フーマー)鮮生」は、「注文から30分以内の配送」を実現するための配送センターを構築しつつ、そのセンターに一般客がウォークインもできるという、意欲的な店舗を展開している。店内で注文した食材をその場で調理してもらい、味わうことも可能だ。

小売店のデジタル化は、アメリカのみならず中国でも急激に進展

デジタルとUXの組み合わせは、中国で非常に進んでいる。日本では、ITの先進事例を米国のシリコンバレーに求め、それを2~3年後に日本へ輸入するのが1つの流れだったが、今や中国を見た方が効率が良い(宮坂氏)

中国の保険大手「平安(ピンアン)」、その驚きの戦略

その中国での事例として宮坂氏が挙げたのが、中国の4大保険業者の一角「中国平安(ピンアン)」である。1988年に設立。多くの外交員を抱える、伝統的な生命保険会社であったが2000年代初頭からデジタル化に転じ、成果を産み出している。

生命保険は販売業者が多いながらも、商品面での他社との差別化は極めて難しい成熟市場だ。宮坂氏の取材によれば、平安が差別化策として打ち出したのが「テクノロジーによる、顧客とのタッチポイントの最大化」だった。

平安は現在、約100種類のアプリを公開している。そのほとんどが、健康維持や生活利便性の向上に役立つアプリ。これらはすべて1つのIDで利用できるようになっており、客は必要に応じてアプリを使い分ける。外交員によるセールスや、テレビCM以外のタッチポイントとしてアプリが機能しているのだ。

約100種類にもおよぶアプリを公開し、顧客とのタッチポイントにした。またIDの共通化で利用動向を詳細に分析

たとえば「グッドドクター」アプリは、平安の保険を契約しているか否かにかかわらず利用できる。中国は都市部でも医師の品質にばらつきがあるため、一般の市民は風邪程度のささいな病状であっても大学病院などを頼る。結果、患者がそうした病院に集中し、ちょっとした病気の診療で2日待ちになるケースすらあるという。

そこでグッドドクターでは、信頼できる医療機関をデータベース化。ユーザーはアプリを通じ、信頼できる医師に対してチャットで質問できるようにした。返事は数分で得られ、相談内容によっては受診予約も可能。また医師の評判をレーティングする機能も盛り込まれている。

質問にはポイントが必要だが、アプリを立ち上げてウォーキングすればポイントが貯められるなど、健康不安がないときでもアプリを使ってもらうような仕組みが備わっている。

「グッドドクター」アプリはそれだけで便利だが、マーケティング面でも抜かりはない

平安ではさらに、ユーザーと医師のやりとりをすべてデータ化している。この内容を元に、平安のデータはいわゆる“売り込み”以外でユーザーにアプローチできる。契約者が自分の子供を医院に連れて行くことになった場合、その旨が営業担当者に通知される。そこで担当者は「特約によってお子様にも保険金が支払えるかもしれません」などと電話するのだ。

これは顧客にとって相当な感動体験のようだ。保険会社からかかってくる電話はたいてい売り込みだが、平安は適切なタイミングで気遣ってくれ、さらには知らなかった保険の存在も教えてくれる。営業担当者にも当然メリットがある。電話すれば感謝されるし、その状態ならば他の商品を売るチャンスも増える(宮坂氏)

宮坂氏は、平安を契約するユーザーのインタビュー調査を実際に見学。回答者が「私は平安が好き。なぜなら平安に守られているから」とまで発言するのを聞き、心底驚いたという。日本の保険・金融機関の調査では、まずあり得ない反応だからだ。

時代は「O2O」から「OMO」へ

マンパワーによる伝統的な営業と、デジタルによって高度に効率化された顧客体験を兼ね備えたこの概念は「OMO(Online Merges Offline、「Merge」は「融合」の意味)」と呼ばれ、中国で広がりを見せつつある。オンラインでの顧客行動をリアル店舗でも活かすためにはO2O(Online to Offline)がよく知られているが、OMOはその発展版的な位置付けだ。

オンライン・オフラインかどうかにこだわることなく、データ化されたあらゆる行動を、あくまでUXのもとに集約することが肝になっている。

「OMO(Online Merges Offline)」の概略。宮坂氏が取材した大手中国企業のマーケティング責任者曰く「O2Oはもう古い」のだとか

平安の業務システムでは、個別のユーザーがどの平安製アプリを利用したかの履歴などがタイムラインとして確認できるようになっており、コールセンター対応などでも逐一この情報を確認することで、UXの向上を図っている。

「30代男性の嗜好が一般的にどうか」という傾向値ではなく、ユーザーA氏個人がどのような行動をとり、実際に平安のどのサービスを利用しているか、完全に把握した上でコンタクトする。ビッグデータの考え方とは真逆だ。

個票データからなにが分かるのか

方々から集めたデータを統計目的でまとめ上げる一方、ユーザー1人1人の行動に分解・解析するこのアプローチは「個票データをみる」などと呼ばれている。しかし実際には、生ログを加工し、さらに会員データと結びつけるといった複雑な作業をこなさなければならなかった。そこでビービットが開発したのがデジタル行動解析ツール「ユーザグラム(Usergram)」だ。

ユーザグラムはアクセス解析ツールの一種だが、 あるユーザーがどの経路でサイト流入し、どのようなサイト遷移、あるいはサイト離脱を経ながらコンバージョンに至ったかなどの行動を調べられる。

ECサイトでユーザグラムを導入したなら、「4月1日からの2週間の間、深夜に買い物をしたユーザー」というようにデータを絞り込む。絞り込まれたユーザーの行動履歴は個別にチェックでき、「何度も同じ商品ページを見ている」「ヘルプページと商品ページを繰り返し遷移している」といった行動も把握可能だ。

宮坂氏はユーザグラムでは「定性調査をデータで行うことができる」と説明する。単純に数値を集計する定量調査と異なり、定性調査はユーザーインタビューを行うのが一般的。相対的に、手間も時間もかかる。ユーザグラムならば、すでに企業が抱えている顧客データで定性調査に近い分析ができるという訳だ。

個票データでは、ユーザー1人1人の実際のデータを見る

ユーザグラムは中古車販売大手のガリバー(IDOM)でも採用され、ユーザーセグメントの分析などに役立てられている。例えば「ボディタイプ」「初心者コンテンツ」のページを頻繁に行き来するユーザーに対し、「車の選び方がそもそも分からない客なのではないか?」と仮説を立て、バナーを差し替えるなどの対応を取ったところ、KPIの向上に繋がった。

“やらなくてもよいこと”を見つけて効率アップ

また、サイト改善の課題設定がそもそも正しいかどうか判別するためにも、個票データは役に立つ。あるECサイトでは、特定の商品ページからの離脱率が極端に高いことがGoogleアナリティクスのデータから判明した。この場合、商品ページの記述などに不備があると想像しがちだ。しかしユーザグラムで個票データを確認すると、購入検討中と思われるユーザーが同じページを1日に何度も確認し、買わずに離脱していたものの、最終的に購入に至るケースが多いとわかった。

同じユーザーが1日に4回も離脱すれば、当然離脱率は高くなってしまう。しかし恐らくは、「高額だからか決められない」、あるいは「家族と相談中」といった理由からの離脱ではないかと推察できる(宮坂氏)

つまり、このケースでは「商品ページの不備」という課題設定自体が誤っていて、「ユーザーの意思決定を後押しする施策」こそが必要だった可能性が高い。こういった“やらなくてもよいこと”を発見するためにも、ユーザグラムは有効という。

統計データと個票データを同時に見れば、“やらないでもよいこと”が浮かび上がる

宮坂氏はまとめとして、「UXの向上には、顧客が置かれている状況や文脈を理解することが重要」だと改めて指摘。統計調査などで全体の概要を把握しつつも、ユーザーごとに分解された「個票データ」を同時に参照することで業務効率を上げる──そのためにもユーザグラムを是非活用してほしいとアピールし、講演を締めくくった。

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