Web広告研究会セミナーレポート

Web閲覧環境の変化による企業とユーザーのギャップはどう埋めるべきか、2016年の企業Webサイトの姿とは?

環境変化をどのようにとらえ、Webサイトを運営していくべきか、パネルディスカッションで議論
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

企業Webサイトの閲覧環境はどこまで担保すべきか、スマートフォン対応はどのように進めるべきか。スマートデバイスやOSの進化によってWebサイトの閲覧環境が大きく変化するなか、企業のWeb担当者は、環境変化をどのようにとらえ、Webサイトを運営していくべきか。月例セミナー第二部では、岩崎電気、Mizkan Holdings、リコー、ネコメシ、フォースが「企業内Web閲覧環境」の結果をもとに、今後の対応についてディスカッションした。

B2C/B2B企業で異なるWebサイト利用者の主要ブラウザ

各パネリストやモデレーターの自己紹介後は、まず、各社Webサイトのブラウザ対応について議論が交わされた。

モデレーター
株式会社ネコメシ
石村 雅賜氏

2015年の企業内Web閲覧環境調査の結果では、Internet Explorer 6.x(以下、IE.x)がなくなる一方、IE 8.xが前回調査(2013年)と比較して16ポイント減少したものの、いまだ根強く29%が利用していると回答している。今後は、IEの9.x、10.x、11.xの混在状態も続き、Chromeも伸びていくだろうと石村氏は分析する。

社内でもっとも多く利用されているインターネットのブラウザ<単数回答>
株式会社Mizkan Holdings
古川 大輔氏
株式会社リコー
伊藤 恵美子氏
岩崎電気株式会社
新井 隆之氏

Mizkan Holdings(以下、ミツカン)は、B2C企業であるため一般消費者の閲覧が多く、Webサイトのアクセスはモバイル版のSafariが6割を超える状況だという。2位はIE 11.x、3位はChromeで、ともに10%前後であるといい、今後企業内に残ることが懸念されているIE 8.xのアクセスは3%程度しかない。

新しいブラウザを使うユーザーが多く、事業別のサイトではHTML5を使った表現もしているが、ミツカンの企業サイトでは、古いブラウザでも一定の情報を閲覧できることが前提だと考えており、最新のリッチ表現よりも、どのような環境のユーザーも利用できる閲覧環境を提供しようとしていると、古川氏は説明する。

リコーでは、ユーザーのIE 8.x利用率が1割を切っており、2015年4月の新標準に対応するためのリニューアル時には、IE 8.xの対応をやめようと考えていたが、リコー社内の標準ブラウザがいまだIE 8.xであるため、対応せざるを得ない状況だという。社内のコンテンツオーナーがWebサイトをチェックするブラウザがIE 8.xであるため、たとえIE 9.x以上のブラウザでキレイに見えていても、IE 8.xで大きくデザインが崩れたり、動作できなかったりすれば、コンテンツオーナーからチェックが入るという。

岩崎電気では、IE 11.XとIE 8.xの閲覧者が多く、次いでChromeの閲覧者が多い。Webサイトのチェック環境としては、パートナーがMac OS上のFirefoxで制作を行い、社内担当者はWindows上でIE 8.xおよびChromeを使って確認する場合が多いという。もちろん、FirefoxやSafariにも対応しようとしているが、各ブラウザで全ページを確認するのは負荷が高いため、要所で確認をしている。

Web標準に対応するという観点で議論すべき

また、新井氏は独自にWebサイトが推奨環境を記載しているかどうかを調べており、2013年よりも2015年は記載していないWebサイトが増え、半数以上が記載なしの状況だったという。このため、新井氏は掲載することで免責されるわけでもなく、ブラウザの多様化も進んでいるので、推奨環境は掲載しないほうがよいのではないかと話している。

合同会社フォース
増井 達巳氏

これに対して増井氏は、W3Cが標準化の対応度によって「モダンブラウザかどうか」を決めており、IE 8.x以降、Chrome、Firefoxなどはすべてモダンブラウザと定義されていると説明し、これらの対応を明示する企業はWeb標準対応を宣言しているのと同義と話す。

推奨環境にIE 8.x以降やChromeの最新バージョンと書いている企業は、Web標準に対応すると自動的に宣言していることになるが、宣言しているにもかかわらず、まだまだ古いブラウザとの互換性を意識したコーディングをしているため、表示の崩れなどのギャップが出てくる。

Web標準に準拠するということは、基本的にはスタイルシートで視覚表現をすべて管理することであって、表示が崩れるかどうかはブラウザ側の問題になり、きちんとコーディングすれば基本的には崩れない。IE 6.xがなくなって、ほとんどの企業がIE 8.x以降に対応することになるため、Web標準にすべての企業が対応するという観点で議論を進めたほうがよいと思う(増井氏)

今後のブラウザと互換性への対応

今後のブラウザ対応について、石村氏は、HTML5や標準化への対応、ChromeやFirefoxが1~2か月ごとにメジャーバージョンアップするのに対して、IEやSafariがOSのバージョンアップに合わせていること、Windows 10の登場によってIE 11.xとEdgeが併用されていること、スマートデバイスのB2B分野での普及という4つの時代背景がポイントだと説明した。

この背景を前提に、社内システムの制約をいつまで引きずるのかという問い掛けに対して、増井氏は次のように答えている。

IE 6.xが全盛だったころは、独自の社内システムが多かった。しかし、最近はグループウェアやERPもクラウドサービスを利用することが多くなり、基本的にWeb標準に準拠したブラウザで作業できるようになっている。そのため、ユーザーの閲覧環境と社内のチェック環境に大きくギャップがあるとは思えない。それを制約と考えるのではなく、社内システムに最新のブラウザを入れるように情報システム部に働きかけることが重要だし、現実的にモダンブラウザを社内で使える環境が整ってきているはず(増井氏)

また、新井氏は、Windows 7上のIE 10.xまでのサポートが2016年1月に切れることに対して、Web広告研究会等の会員各社がどのようにするかを聞き、20社ほどの回答を得られたと説明する。多くの企業が、IE 8.xから11.xへの移行を決めており、導入済みが20社中3社、2016年1月までに対応する会社は13社あったという。そのため、2016年1月以降にはブラウザの利用状況が大きく変わり、IE 8.xをどうするかという議論はなくなっていくと新井氏は予測し、これらの情報を社内標準ブラウザの変更を推進する一助にしてほしいと述べた。

では、今後さらにバージョンアップが進み、閲覧環境が変化していくなかで、新しい環境に対応する前方互換と古いブラウザに対応する後方互換はどう考えるべきだろうか。増井氏は、前方互換で対応を進めれば、Web標準に準拠することになると話す。

前方互換を担保するということは、結果的にWeb標準に限りなく準拠することになる。それによって、再利用性や相互運用性が高まり、オウンドメディアのコンテンツの有効性も高まる。前方互換でWeb標準に準拠すれば、前述のようにIE 8.xまでの後方互換性もかなりの部分で確保できる(増井氏)

また、前職でキヤノンマーケティングジャパンのWebマスターを務めた増井氏は、実際の対応例として、キヤノンのサイトでは、推奨環境を記載していないが、古いブラウザでアクセスされた際には、旧ブラウザユーザー向けの案内ページを表示していることを示した。セキュアで最適な状態で利用してもらうため、Web標準に準拠していることを説明したうえで、コンテンツを表示するかどうかのボタンを用意しているという。

ニーズの多様化と環境の進化にどう対応するか

続いて、石村氏は、ユーザーニーズの多様化と環境の進化にどう対応するかについて議論を進める。2015年の企業内Web閲覧環境調査の結果では、個人のスマートフォンで仕事の情報を閲覧する比率が非常に高くなっており、石村氏はB2Bでスマートフォン対応を行った岩崎電気とキヤノンの事例を聞く。

岩崎電気では、2015年4月のリニューアルの際に、レスポンシブWebデザインを採用してスマートフォンに対応している。その結果、モバイルの閲覧比率が増え、全体のうちタブレットが2%、タブレットも含めたモバイルデバイスが15%を占めているという。ほとんどがビジネスユーザーである同社では、ソーシャルメディア経由の流入が少なく、PCユーザーとモバイルユーザーの動きがほぼ一致していることから、現場で急遽資料などが必要になって、スマートフォンなどでアクセスするケースが多いと推測する。そのため、今後は、ZIPファイルなどで提供している資料をスマートフォンで閲覧できるような形に変えていく必要があると考えている。

また、レスポンシブWebデザインでPCと同じコンテンツをスマートフォンにも提供するのは限界があると新井氏は話し、今後は最適化して、よりシンプルに見せる必要があるとした。

続けて増井氏が、キヤノンでのスマートフォン対応事例を紹介する。

スマートフォンの利用率で対応する時期を決める企業は多いと思うが、平均的にならして利用比率を見ることはまったく意味がないのでやめてほしい。たとえば、キヤノンでも、B2Bのニュースリリースの閲覧が18時~20時ではスマートフォンが40%を超える。ターゲットユーザーの行動がスマートフォンに向いている時間帯や、スマートフォンに向いているコンテンツがあるため、全体を平均化しても意味がない(増井氏)

キヤノンでは、早くからWeb標準に準拠してきたため、スマートフォンでも閲覧できたが、日本独特のF型のサイト構造で、グローバルナビとサイドナビゲーションがスマートフォンの画面を占拠し、コンテンツが響かない状態だったという。2012年からモバイルファーストに転換したキヤノンでは、モバイルユーザーのコンテキストを考え、ナビゲーションをシンプルにすることで、異なるデバイスでも同じ操作性を維持できるようにしている。

ミツカン、リコーのコンテンツ施策例

講演後半のパネルディスカッションでは、ブランディング施策や読み物コンテンツの事例として、ミツカンとリコーの事例が紹介された。

ミツカンでは、2015年11月8日に開館する企業博物館「ミツカンミュージアム」のページを公開している。酢づくりの歴史や食文化の魅力を次世代に伝える目的で作られたミツカンミュージアムに来場してもらいたいと考えて作られたページだ。

ミツカンミュージアムのメインターゲットを子育て世代としているため、アクセスが多くなると予想されるモバイル用にレスポンシブWebデザインを採用し、若年層に親しみのあるトーンになるようにしていると古川氏は説明する。4月のWebサイト公開からのモバイル閲覧は3割程度だったが、9月頭に来館予約開始のプレスリリースを公開してから、Webメディアで取り上げられることで閲覧が増え、モバイルが6割以上になってきたという。

リコーでは、「西暦2036年を想像してみた」という読み物コンテンツを提供しているが、開設当初はパララックスなどのさまざまな取り組みを行うなか、Webサイトの表示が遅くなってしまったため、そもそもの目的に立ち返って、シンプルな作りにするようにしたという。運営目的は、堅い事務機器メーカーというイメージを払拭し、未来のことも考えていることを示すことで、未来の仕事環境にリコーがどのような提案ができるかを伝えている。

コンテンツは1週間に1回更新し、定期的な訪問によってエンゲージメントを深めつつ、空き時間や移動時間にも見てもらえるように、レスポンシブWebデザインでモバイル対応している。Webサイト閲覧のモバイル比率は3割強で、Mac OSやiOSが非常に多いため、意図したターゲット層に意図した形で届けられていると伊藤氏は説明した。

続けて石村氏は、ブランディング施策や読み物コンテンツなどを試行錯誤しながら運営しているだけでなく、多くの企業がSNSや動画コンテンツにも取り組んでいると説明する。

たとえば、キヤノンマーケティングジャパンのFacebookページでは、キヤノンのカメラに関する投稿も多いが、B2Bイベントの動画などを掲載すると、イベントの来場者を超える閲覧回数があるという。

カメラファンがB2Bの企業担当者の可能性もあるので、企業担当者とカメラファンを分けて考えるのではなく、人対人のつながりでFacebookを利用すれば、B2B企業でも効果が出てくると思う(増井氏)

環境変化に求められる3つの課題と理想の姿

これらの環境の変化やそれに対するさまざまな施策を行う上で、企業側には、「広報の進化」「事業部との連携」「コンテンツの魅力向上」といった課題があると石村氏は話し、広報の進化について問いかける。

これに対して増井氏は、「現在の広報は、企業に抱くユーザーのイメージと、企業が発信したいストーリーとのギャップを埋めなくてはならない。情報を置いておくだけでなく、コミュニケーションしたり、反応を見たりすることが大切で、インタラクティブな広報を目指す必要がある」と答えている。

また、キヤノンは2000年ごろから「ニュースリリース」や「新着情報」という言い方をしており、最初から「プレスリリース」というカテゴリを設けること自体が、エンドユーザーにニュースを届けてリーチしようとすることが表現できていないと指摘する。

事業部との連携、コンテンツの魅力向上については、リコーの伊藤氏とミツカンの古川氏が、それぞれ次のように話す。

現在は、コンテンツオーナー制でサイトを更新しているが、閲覧環境の変化やデバイスの多様化、SNSによる伝播などを考えると、事業部だけでなく、コーポレートのWeb担当が最新状況を把握しながらリードしていく必要があり、その上でマーケティング部門と事業部が密に連携していこうと考えている(伊藤氏)

一般消費者に伝えるためには、どのようなメディア接触をしているかや、どのような場面で何を見ているのかを知らなければならない。その上で適したコンテンツを作ることが重要(古川氏)

また、新井氏はあるべき理想の対応について次のように話す。

ブラウザ対応やモバイル対応が今回のテーマだが、実際に運用しているとそれらをユーザーから求められることはなく、華やかなコンテンツを求められたり、デザインがダサくて怒られたりすることもない。それよりも困るのは、探しているコンテンツがなかったり、見つけづらかったりすること。究極的な理想は、ユーザーがランディングした瞬間に必要な情報を得られて、直帰率が良い意味で100%になることだと思う(新井氏)

これらの話しを受け、講演の最後、増井氏は企業とユーザーのギャップを埋めることが必要だと次のように話し、全体をまとめた。

マーケティングも広報も、インタラクティブにユーザーと語り合うことが求められているなか、お互いの閲覧環境が違うということはありえない。さまざまな制約があるなかで、なるべくユーザーと同じ閲覧環境で快適にWebサイトや動画を見られる対応を行うことが必須。来年、同じテーマで議論するときにはそのような状況になってほしいと願っている(増井氏)

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「Web閲覧環境の変化による企業とユーザーのギャップはどう埋めるべきか、2016年の企業Webサイトの姿とは?」 2015年9月29日開催 月例セミナー 第2部(2015/11/05)

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