カスタマーエクスペリエンスで道は開ける~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論

縦割り組織でも一環したカスタマーエクスペリエンスを提供するには

マルチチャネルで一環したカスタマーエクスペリエンスを実現するための方法論を紹介します。
ジョナサン・ブラウン

[コラム]カスタマーエクスペリエンスで
道は開ける
~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論
by ジョナサン・ブラウン

フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏によるウェブコラム。

主にカスタマーエクスペリエンスとマーケティングの側面から企業のビジネスをサポートしているジョナサン氏が、企業サイトにおけるユーザー志向の考え方や方法論をさまざまな切り口で解説します。

今月、6月22日~23日に、米国のニューヨーク市でフォレスター・リサーチのカスタマーエクスペリエンス・フォーラムが開催されます。「不景気の中で、どうしたらカスタマーエクスペリエンスを継続して向上させることができるか」というテーマで、フォレスターのアナリストや各界のリーダーがディスカッションします。

フォレスターが、2日間に渡るカスタマーエクスペリエンス・フォーラムを開催するのは今年が初めてです(2001年、2002年にデザインサミットという同様の1日のイベントはありましたが)。では、なぜ今、カスタマーエクスペリエンスにフォーカスしたイベントを行うのでしょうか?

フォレスターの調査によると、この不況期においでも、多くの企業がカスタマーエクスペリエンスの予算を比較的キープしているようです。しかし、やはり予算の確保が難しいことには変わりなく、担当者は、どうやってカスタマーエクスペリエンスの重要性を経営陣に見せればいいのか、どうすれば予算節約の中で効果を挙げることができるか、を日々模索しています。

そのヒントを提供するため、フォレスターの幅広いネットワークを活用し、フォーラムでは普段イベントではスピーチをしないようなゲストスピーカーの講演をセットしました。特に興味深いスピーカーは、USAAの副社長ウェイン・ピーコック氏です。USAAは、米国の軍隊のメンバーあるいはその家族のために保険・金融サービスを提供している会社で、日本ではあまり聞かないかもしれませんが、米国では有名な会社です。

USAAは、フォレスターが行ったカスタマー・アドボカシーのアンケート調査において、数年にわたり消費者から一番高く評価されています。「この会社が本当にあなたのために働いていると思いますか?」という質問に対し、多くの人が「はい」と答えているのです。

また、フォレスターのカスタマーエクスペリエンス・インデックスという調査においても、USAAは高く評価されました。この調査は、消費者に対して3つの質問

  • この会社はあなたにとって価値があるか?(valuable)
  • この会社は利用しやすいか?(easy)
  • この会社を利用することは楽しいか?(enjoyable)

を尋ね、1点(非常に悪い)~5点(非常に良い)の5段階で点数をつけてもらう手法で行います。USAAは他の米国の金融・保険会社に比べてスコアが高かっただけではなく、米国で有名な書店のBarnes & Nobleよりもほんの少し下、同じく書店のBordersに対してはスコアが勝るという高い評価を獲得しました。

考えてみてください。金融会社の主な製品やサービスは複雑なものです。それにもかかわらず、USAAで金融商品を取引することが、本屋さんで書籍を買うのと同じくらい簡単で、楽しいと利用者に感じてもらえることは、とてもすごいことだと思います。そのようなすばらしいカスタマーエクスペリエンスを提供しているUSAAのピーコック氏のスピーチでは、金融業界の破たん以前と以降でカスタマーエクスペリエンスがどのように変わったか、そして、その状況下でUSAAは顧客をどのように満足させ続けるのかをお話しいただきます。

他のゲストスピーカーも、カスタマーエクスペリエンスの評価が高い会社のエグゼクティブの方々ですので、ぜひご期待ください。

さて、フォーラムは、次の4つのトラックに分かれています。

  1. 優れたWebエクスペリエンスをデザインする(Designing Great Web Experiences)
  2. クロスチャネルで顧客を満足させる(Mastering Cross Channel Experiences)
  3. 社内文化を顧客中心に変える(Building A Customer-Centric Culture)
  4. 顧客とのタッチポイントすべてにおいてブランドを強化する(Reinforcing Brands With Every Interaction)

私も②の、クロスチャネルにフォーカスしたトラックで講演します。顧客を深く理解することによって、マルチチャネルのカスタマーエクスペリエンスをどうやって改善できるかについてお話する予定です。また、「顧客の深い理解」とはどういうことかを説明するために、エスノグラフィックリサーチを紹介します。今、このスピーチのために、複数の企業にインタビューを行っていますが、ここでみなさんにインタビューから得た情報を少しだけお話しましょう。

◇◇◇

紹介したいのは、オランダの航空会社KLMのおもしろい事例です。

KLMは航空会社ですから、顧客と接するポイントといえば、まず空港や飛行機の中があります。また、ここ数年はやはりWebサイトの利用がどんどん増えてきています。Webサイトでは、旅行のプラニングや航空券の購入はもちろん、その後のアフターサービスまで行えるようになっています。また、Webだけでなく、顧客からの電話をコンタクトセンターで対応したり、Eメール携帯電話へのテキストメッセージなどでフライト情報のアップデートやリマインダーを顧客に送ったりすることもあるでしょう。このように顧客とのインタラクションはさまざまな場面(マルチチャネル)で行われます。

では、KLMの組織はどうなっているでしょうか? たとえば、空港のターミナルビルから出て飛行機のキャビンに入った瞬間に、その顧客に対する責任は、ターミナルサービス担当の役員から機内サービス担当の役員に代わります。つまり、ターミナルで行っている仕事とキャビンでの仕事、あるいはコールセンターの仕事やWebサイトの仕事は、担当の組織が異なるのです。KLMのような大きな会社では避けられないことでしょう。しかし、そのような状況においても、顧客がどのタッチポイントでも同じブランドが感じられる良いサービスを経験できるかがとても重要になってきます。そのためには、顧客についての共通したピクチャーを社内で共有することが必要です。

KLMではまず、会社にすでにあったデータとエスノグラフィックリサーチを活用し、5つのペルソナを作りました。この5つのペルソナを会社全体で活用しましたが、場合に応じてはその5つからいくつか選んで使いました。たとえば、あるペルソナは役員クラスのビジネスマンでしたが、役員クラスの人は、自分でWebから航空券を購入するのではなく秘書が予約を行うのが普通でしょう。ですから、KLMのWeb部門では、役員のペルソナは対処とはせずに、実際に最もWebを利用している他のペルソナのためにWebサイトをデザインしました。つまり、チャネルごとに、どのペルソナを採用するかを使い分けているのです。各チャネルにおいてカスタマーエクスペリエンスを改善し、そして1つのチャネルから別のチャネルへのトランジション(移動・遷移)を完成していく方法を、KLMでは実行しています。

現在、KLM以外にもWells Fargo社やBest Buy社などにもインタビューを行っており、私のスピーチでご紹介する予定です。実はフォレスターの日本のお客様も何人かこのフォーラムに参加される予定ですので、その方々に会えることも楽しみにしています。またフォーラムで、マルチチャネルのカスタマーエクスペリエンスをデザインしている企業と会話することも楽しみにしています。ニューヨークに来ることができないみなさんには、フォーラム後に簡単なレポートをしたいと思っていますので、お楽しみに!

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