はじめての企業YouTubeチャンネル活用

で結局、YouTubeはCVにつながるの? 問い合わせ全体のたった2%だけど、認知貢献度がすごかった

6回にわたって、お届けした企業YouTube活用の連載も今回で最終回! 最後の今回は、『創業融資ガイド』の運営者さんに話を聞きに行きました。
新人マーケター

これまで、YouTubeチャンネルの運営についてたくさん学んできましたけど、紹介された方法論ってあらゆるチャンネル運用に当てはまるんでしょうか?

中山

個人か企業か、BtoBかBtoCか、収益目的か認知目的か……で多少は変わりますが、基本は同じですよ。ただ、ミエルカチャンネル以外の話も聞いてみたいですよね?

新人マーケター

そうなんです。他社さんの事例ってありますか?

中山

創業融資ガイド』を運営する、株式会社SoLabo(ソラボ)さんは、2年近いチャンネル運営の経験があり、ファベルカンパニーもコンサルティングを通じてお手伝いしてきました。代表の田原 広一さんと対談してきたので、ぜひヒントにしてみてください。

新人マーケター

承知しました!

【注意】本連載は企業に勤めるマーケターさんに向けて書いており、広告収益でマネタイズを目指す個人YouTuber向けではありません。
【対談したお相手】

創業融資ガイド』(YouTube)を運営する、株式会社SoLabo(ソラボ)代表の田原広一さん。事業内容は、資金調達サポート、補助金申請サポート等。主に田原さん本人が、日本政策金融公庫や民間金融機関(信用金庫等)の融資についての正しい情報を配信している。

YouTubeも大事だけど、SEO施策に着手するのが先

中山: 2年間のYouTube運用を振り返ってみて、いかがですか?

田原: 絶対に企業はYouTubeを取り組むべきだと思います。弊社はBtoBモデルなので「関係ないでしょ?」って思われがちなんですが、BtoBこそマーケティング手法をいくつも持っていないと、これからの時代難しいです。

中山: それは、情報収集のスタイルが多様化しているから?

田原: ですね。積極的に情報収集している人、そうでもなくて受け身な人、いろいろいます。たとえば、Googleで調べる人もいれば、YouTubeやTikTokをボーっと眺めているときに偶然弊社を知る人も。中長期的な施策を考えたとき、できそうなことは何でも試すのが僕の信条。ただ、「YouTubeが最重要施策なのか?」と訊かれると、実はそうではないです。

中山: YouTubeよりも先にやるべきことがある、と?

田原: はい。テキストによる記事制作とコンテンツSEO施策から着手するのが良いと思います。記事を通じて、どのキーワードが問い合わせに貢献しているか否かが見えてきます。売り上げに近いキーワードやテーマは動画化してもニーズが高い。YouTube内検索でもヒットしやすい印象もあります。

いきなりYouTubeで動画公開が怖いなら、TikTokもアリ

中山: 「動画活用」といえば、YouTubeの他にTikTokもありますが、SEO記事、YouTube、TikTok……やるとしたらどの順序ですか?

田原: 一気にすべてやれるのが望ましいです。しかし、その体制がなければ、まずはSEO施策、その後に動画かなと。いきなりYouTubeが怖ければ、TikTokもアリです。理由は「始めやすくて継続しやすい」からです。TikTokの検索性はあまり期待できませんが、拡散力が高いんです。拡散力では、YouTubeより分があると思います。

中山: 確かに、TikTokで動画撮影と顔出しに慣れてみるのは、ハードルが低そうですね。

田原: 弊社は2016年からオウンドメディアで記事を通じた情報発信をしていて、そのお陰もあって『創業融資ガイド』の成長スピードは想定より速く、チャンネル開設から2年で登録数はもうすぐ5,000です。

中山: 業界の中での位置づけはどれくらいですか?

田原: 融資系で登録者数が5,000に近いチャンネルって、他に存在しないんですよ。たとえば、「税金」や「不動産投資」のジャンルには大きなプレイヤーがいますが、個人と企業の両方が対象のチャンネルなので、弊社とはちょっとターゲットが異なります。

中山: YouTubeのシークレットモードで「日本政策金融公庫」というキーワードを試しに検索してみると、『創業融資ガイド』が検索結果1位と2位ですね。業界内の認知は、かなり高そうです。

「日本政策金融公庫」をYouTubeで検索した時の検索結果画面(21年9月時点)

CV数はさほどでもないが、認知貢献度が予想以上だった

中山: 企業向けの融資ジャンルのYouTubeチャンネルで最大規模の登録者数はどのくらいなんですか?

田原: 1万くらいです。

中山: 競合の登録者数が1万くらいだとすると、『創業融資ガイド』の登録者10万を目指そうとは考えないですよね?

田原: ええ、登録者数を闇雲に増やすのではなく、狙った領域でしっかり認知をとっていくことが大切ですから。

中山: リード獲得にはどれくらい影響がありましたか?

田原: YouTube経由で月20件ぐらいお問い合わせがあります。ただ、CVしているかどうかを正確に計測するのは難しいので、「YouTubeを見て連絡しました」という声を拾って推測している状況です。

中山: オウンドメディアや、公式サイト経由と比較すると?

田原: さまざまなチャンネルを通じて、月に1,000件以上のお問い合せをいただいているので、YouTubeは全体の2%にすぎず、高くはありません。でも、チャンネル名と自社サイト名を同一にしているので、『創業融資ガイド』の認知が上昇しているのを実感しています。

中山: それは、指名検索が増えてきたってことですか?

田原: そうです。自社サイトもYouTubeも、指名検索での流入が大きく増えました。YouTubeやTikTokほど、顔と声を知ってもらい、しかも万単位で視聴される媒体って他にないんじゃないでしょうか。両方を継続して、本当に良かったと思います。

つくづく思うのは、YouTubeは長期的な施策だということです。とりあえず視聴してくださる方々と接点を持ち、SoLaboという社名や『創業融資ガイド』に幾度となく触れていただく地道な種まきのようなものです。

中山: 継続力がカギだというのは同感です。即効性を期待しすぎると、息切れするか、空中分解するか、となりやすいですからね。

「CVRが高い動画だけ出す」「CPAを下げる」とは考えない

中山: 会社の雰囲気や社員の人柄がより強く伝わるのは、やはり動画だと思います。YouTube経由のお客様のエンゲージメントに、これまでとの違いは感じますか?

田原: 感じます! 大きくは次の2点です。

  • 会う前から、弊社に好印象&信頼感を持ってくださっている
  • 情報収集した上でお問い合わせくださるので、商談スピードが速い

オウンドメディアでも同じ効果は感じていましたが、YouTubeはそれ以上です。

中山: とはいえ、YouTubeって、機材の用意、企画作成、演者の確保、撮影と編集など、リソースも多いじゃないですか。ROI的にいかがですか?

田原: YouTubeについては、費用対効果を厳密に追うのは無理だと割り切っています。

中山: 「CVRが高い動画だけ出そう」とか「なんとかCPAを下げよう」ってマインドにはならない?

田原: なりません。ベンチマークとして「チャンネル登録者数1万」は目指していますけど、それ以外は捨てました。

YouTube内の導線を頑張って改善して、月20件のお問い合わせを25件、30件と積み上げるのは、努力のわりに大きなインパクトを生めません。

そのため、YouTubeは「認知拡大ツール」という位置づけです。再生数が伸び、ファン(登録者)が増えれば、巡り巡って公式サイトやオウンドメディア経由で自然と問い合わせが増える確信があります。

中山: 再生されることで種がまかれ、時間差で芽が出て、どこかで花が咲いている……のは間違いないことだけど、それを数値化するのは難しいということですか?

田原: 100%不可能ではないかもしれませんが、努力が割に合いません。まあ、機材はスマホとカメラと三脚とライトのみで、稼働するのは僕と従業員1人だけ。それに撮影場所は自社の会議室。人件費は別にして、大きなコストが掛かっているわけではないのでOKです。

ゆるいKPIにした結果、社員が伸び伸び動けるように

中山: 以前、アトリビューション分析をされていたと伺ったのですが。

田原: はい、お客様にヒアリングして、アトリビューション分析はやってみたんですが、いくら掘り下げても、YouTubeが第一接点なのか、第二接点なのか、第三接点なのかは正確にはわかりません。

YouTubeを過大にも過少にも評価したくないし、動画以外のさまざまなコンテンツも目に触れているでしょうし、広告も見ているかもしれない。何がどれだけ効果を発揮したかを把握するのは不可能です。

中山: 最終接点だけを見て、「CVに貢献したコンテンツはこれだ!」って決めつけるのは危険ですからね。

田原: そうです。動画はインパクトが強いため記憶に残りやすく、聞き方によってはYouTubeが過度にクローズアップされることもあります。そう考えた結果、細かい計算式に捕らわれるのはやめよう、となりました。

中山: 以前は、どのような目標設定をしていたのですか?

田原: 「月の問い合わせ目標10件」としていた時期もありました。「パラメーター付与→YouTubeからLPに遷移→CVの寄与を計測」という取り組みをしていたんです。一定の意義があるのは否定しませんが、5件10件を追い求めて一喜一憂するより、「継続的に発信→ファンが増える→さらに発信→未開拓領域に入ってさらにファンが増える」というゆるいKPIにしたほうが社員も伸び伸びやれるなと。

中山: それは、代表である田原さんの発案ですか? それとも部下から?

田原: 僕です。「10件の目標、無くしてもいいよね?」って思って、「0件でもいい」と宣言しました。その代わり、ファンのバロメーターである登録者数の推移はウォッチしよう、と。

中山: 部下の方からすると、ちょっとホッとしたかもしれないですね。

田原: それはあったかもしれません。融資の解説をする動画は再生数が急激に伸びることはないし、バズることもないです。でも、そこが目標じゃないからかまわない。

中山: 必要な人にだけ届けば良し! ってことですね。

田原: そうです。炎上させてマスを狙うことはしないし、そもそも創業とか融資のチャンネルで10万登録って現実的じゃないです。

動画に出演することもある田代さん

エース級社員でも、カメラトークは苦手……は普通にある

中山: YouTubeを始めたおかげで、社員の方々の考え方や行動に変化はありましたか? たとえば、YouTube出演の立候補者が増えたとか。

田原: むしろ逆ですね。出演してくれるメンバーは限定的です。カメラに向かって話すって難しいんだなと。「無理な人には無理」ということがハッキリしました。

中山: 田原さんはなぜ得意なんですか?

田原: 資格取得専門予備校のTACで講師をしていたので、人前で話すことも、録画されることにも慣れていました。予習無しにアドリブで収録もするし、カメラを向けられても何とも思いません。大勢の聴衆の前でのセミナーとか、人が多いほど興奮します。全然緊張しないんです。

中山: 最初からYouTubeへの適性があったんですね。でも、それだと社員は「田原さんみたいには話せないよ」って思ってしまうでしょう。

田原: トライしてくれた社員も何名かいたんですが、撮影にすごく時間がかかりました。「7時間かけてスクリプト覚えて撮影しました」みたいな。さすがにそれは工数がかかりすぎかなと。

知識も経験も豊富な、いわゆるエース級社員でも、カメラトークは苦手ってこともある。これはもう完全に別の能力なんでしょうね。

中山: カメラ目線で話すのは慣れもありますけど、苦手な人には苦手なままですからね。

田原: お客さんとのやり取りは問題ないのに、動画撮影ってなると、「きっちり話さなければ」「すべて頭に叩き込んでおかねば」「失言したらアウトだ」「間違ったこと言ったら叩かれる」と、いろいろ考えてしまい……。

中山: がんじがらめになっちゃう。

田原: ただ、最近の新卒や若手社員は、人前に出ることを厭わないし、SNSを通じて自分をさらけ出すことに抵抗がないケースも多い。若手を中心に社内でメンバーを募って、チームを拡大させていこうと思っています!

中山: 今後のチャンネル成長に期待しています。ありがとうございました!

◇◇◇

6回にわたって続いた『はじめての企業YouTubeチャンネル活用』の連載も、今回が最終回です。株式会社SoLaboさんの事例からも、YouTubeの潜在力の高さがよくご理解いただけたと思います。

ただ、そうはいっても、「一歩を踏み出すのは不安」という気持ちが拭えない方もいらっしゃるでしょう。わかります……。私もかつて同じ気持ちでしたので。

そんな方へのエールとして、筆者が敬愛する格闘家、ブルース・リーの言葉を紹介して締めくくらせてください。

Knowing is not enough, we must apply. Willing is not enough, we must do. (知るだけでは足りない。応用せよ。決意だけでは足りない。実行せよ)

皆様のYouTubeチャンネル運営の、成功のお役に立てれば幸いです。

 

 

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