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プライバシー保護が加速した理由とは? Web行動のアナリティクス指標の変化【中編】

CXとプライバシー保護は同時に進む。プライバシー保護が加速した理由とアナリティクス指標の機能変化を解説(中編)。

前回は、プライバシー保護の強化や、アナリティクスの位置付けと変化という大きな歴史の流れについて整理しました。今回は、オンライン行動の分析アプローチの変化と、それを受けたアナリティクスの指標と機能の変化についてまとめます。

ブラウザの進化とプライバシー保護が加速した25年間のまとめ

まず、前回の内容をまとめます。

ブラウザとネットワークが進化し、ブラウザ側の処理が増えた
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タグマネージャーが普及し、タグのみで導入できる広告・CX系ソリューションが爆発的に増加
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ブラウザ(Cookie)に保存されるパーソナルデータの乱用が問題化
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Do Not Trackやオプトアウトなどの自主規制が機能せず失敗に終わる
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GDPRなどの法規制が世界的に広まる
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Google、Facebook、Twitterなどの巨大プラットフォーマーに顧客データが集中
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Appleがブラウザの制限強化(ITP)で反撃
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GAFAの独占に反感が強まる

日本でも、内閣官房デジタル市場競争本部によって、公正性や透明性を確保しつつ、イノベーションを促進できるデジタル広告市場のあり方に関する議論が重ねられています。

直近では、米連邦議会議事堂への乱入事件を受け、緊急措置として一連のネットサービス提供者がトランプ氏や一派の各種SNSアカウント停止やアプリ削除、取引の停止などが講じられるという動きがありました。政権交代に伴う慌ただしさがひと段落すれば、巨大テック企業の判断のみに依存せず、表現の自由と社会の安定のバランスを守る方法についての議論が進むことでしょう。

長期的には、巨大プラットフォーマーによる寡占・独占が軽減され、データのコントロールを一般企業や個人が取り戻す方向に向かうと筆者は予測します。

CXとプライバシー保護は同時に進む

プライバシー保護の強化と並行して、1990年代からUX(ユーザーエクスペリエンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)という考え方が普及してきたのは、偶然ではありません。

  • 「データをいつの間にか取得されて気持ち悪い」
  • 「自分のデータがどう取得され活用されるのかを自分で把握してコントロールしたい」

というプライバシー保護の考え方も、「企業の都合を押し付けず、社会や相手に対する思いやりを持った企業や人たちと接してサービスを受けたい、応援したい」というCXの考え方も、人権尊重の考え方に支えられているという点で似ています。

大きく捉えると、技術の進化でバランスが崩れ、情報や権力、富が集中し、個人の権利が軽視されてきたデジタル業界にも、ヨーロッパを中心に数百年間も積み重ねられ、個人の自由や権利を尊重するようになった社会の変化が及ぶようになってきた、ということなのでしょう。

今から200年後の歴史の教科書には

21世紀初頭は、技術が急激に進化した結果、情報や富の集中が進み、新たな方法で搾取される労働者や貧困層が増えたにも関わらず、人々はそれをイノベーションやドリーム、一時的な不景気だと錯覚した。議論が進み、法律が改正され、フランス革命で始まった人間と市民の権利が再び尊重され、世界的な景気が復活するまでに半世紀を要した。

などと書かれるくらいの大きな変化が始まろうとしているのかもしれません。

シフトしつつある行動ログ:企業都合から人間中心へ

CXの流れを受け、企業による利潤追求の効率を確かめる目的で使われることが多かったWebアナリティクス(アクセス解析)は、一人ひとりの行動履歴データを取得する装置としての役割も担うようになってきました。

なぜなら、人間中心の考え方においては、収穫する作物や獲物や漏斗から落ちる水ではなく、心を持った「人間」として顧客と向き合い、一人ひとりの状況や心の変化も把握した上で接し、応えていくことはビジネスの本質だからです。

個人単位で属性や受注データ、時系列で繋がった行動ログのデータを統合すると、KGI(Key Goal Indicator)の予測や、広告・マーケティングオートメーション・接客ツールなどの対象オーディエンスを作成するためのデータとして利用できます。

デジタルなら、一人ひとりの状況に合わせて、利便性が高いだけでなく、心地よい体験を提供することを、場所や時間、人数の制約を受けずにスケールさせることができるのです。

そのため、アナリティクスが取得する行動ログのデータも変わってきました。前回は、生データに近い細かいデータを利用できるようになってきた経緯について紹介しましたが、今回と次回は、データの単位に関する4つの変化について取り上げます。

(1)見直しが必要な「ページビュー」

Googleアナリティクスの公式ヘルプでは、ページビューは以下のように説明されています。

ページビューとはブラウザにページが読み込まれる(再読み込される)ことです。ページビュー数は、閲覧されたページの合計数として定義される指標です。

実は、この説明は矛盾しています。ブラウザに読み込まれるタイミングと、目で見て実際にコンテンツを読めるようになるタイミングは異なるためです(表示されても目に入って閲覧されるとは限らない、という点は考慮しないでおきます)。

一般的な方法でGoogleアナリティクスやAdobe Analyticsを導入した場合、正確には、ブラウザからのURLのリクエストにWebサーバーが応答し、コンテンツがまだ表示されないタイミングでページビューのデータ記録が開始されます。

広告や各種ツールのタグがたくさん貼られ、JavaScriptの重い処理が実行される最近のWebサイトでは、ブラウザに実際にコンテンツが表示されるまでに10秒~20秒かかることも珍しくありません。文字や画像がなかなか表示されないので、前のページに戻ったりタブを閉じたりすることもあるでしょう。

つまり、ページビューは「閲覧」と呼ぶには記録のタイミングが早すぎます。

ページビュー数(PV)は「ブラウザがサーバーからの応答を受信し始めた回数」

として捉えた方が正確です。

なお、タグマネージャーを使うと、ページビュー計測のタイミングを選べます。

この図は、Googleタグマネージャーのトリガーの設定画面です。

ページビュー

「ページビュー」は前述のように、ブラウザがサーバーからの応答を受け取り始め、ページの読み込みを開始したタイミングです。重いページでは、まだコンテンツが表示されていない状態です。

DOM Ready

「DOM Ready」は、テキスト形式のコンテンツ(HTML)の受信が終わり、コンテンツの構造(DOM)が確定した時点、ただし、全ての画像や動画が完全に読み込まれるよりも先のタイミングです。

ウィンドウの読み込み

「ウィンドウの読み込み」は、ページに埋め込められた全ての画像や動画、CSSやJSファイルが読み込まれたタイミングです。

つまり、「ページビュー > DOM Ready > ウィンドウの読み込み」の順番で発火タイミングを選択できます。本来はルールを決めて適切なトリガーを選択するべきですが、デフォルトの「ページビュー」のまま変更しないで設定しているケースも多いのではないでしょうか。

筆者は、タグが多いサイトでは、成果報酬型の広告のように高い精度が求められる場合のみに「ページビュー」のタイミングを設定し、分析やデータ取得が目的のアナリティクスや広告タグ、リマーケティング用タグは「DOM Ready」のタイミングにすることで、人間にとってのサイトのパフォーマンスを高めることを推奨しています。

データ収集を優先させ、コンテンツの表示タイミングを遅くしたり、サイト自体の動作に支障をきたす不具合が発生するリスクを高めたりするのは、人間中心のCXの考え方に反します。

タグが大量に貼られたサイトではDOM Readyでは遅すぎる

とはいえ、タグが大量に貼られたサイトでは、DOM Readyでは遅すぎることがあります。例えば、Facebookのタグをサイトに貼り付けて「いいね!」ボタンを掲載させる場合、FacebookのサーバーからJavaScriptファイルを読み込み、実行が終わり、サイト上にボタンを表示させる準備ができるまで、DOM Readyの発火が遅延してしまいます。

Facebookだけであれば問題ない程度の遅延で済みますが、他のSNSや広告のタグ、MAや接客ツールのタグ、サイト自体の動作に必要なJavaScriptファイルなどが大量に使われていると、この遅延は無視できないレベルになります。

●参考:ページビューのタイミングとしてベストなのはFCPやFMP

人間視点で「ページビュー」を計測するベストなタイミングは、人間がコンテンツを閲覧できる状態になった時です。WebパフォーマンスやSEOの分野でGoogleが提唱している以下の指標が参考になります。

First Contentful Paint(FCP):画面上にページの一部が表示され始めたタイミング

First Meaningful Paint(FMP):画面上にコンテンツとして意味ある要素が表示され始めたタイミング

まだブラウザの互換性が低いので、実際に利用するのは時期尚早ですが、いずれタグマネージャーで、これらのタイミングも選べるようになることでしょう。

(2)「ブラウザ数」を「ユーザー数」にする試み

「ユーザー」指標は「ユニークユーザー数」(UU)とも呼ばれます。最初からビジネス色が強かったAdobe Analyticsでは「ユーザー」ではなく「訪問者」(ビジター)という用語が使われ、UVと略されます。

ブラウザやデバイスに関わらず、同一人物を一人としてカウントするのが理想ですが、個人を識別するIDはブラウザ単位で発行され、ブラウザのデータ保管領域であるCookieに保存されるので、実際は「ブラウザの数」を意味します。

ところが、モバイルの普及によって、Webサイトにアクセスするデバイスやブラウザの数が増えただけでなく、プライバシー保護が強化された結果、Cookieが短期間で消去されるようになり、ブラウザの数すらカウントが難しくなってきました。同じデバイスの同じブラウザを使っている同一人物が10日後にサイトにアクセスした場合、2人としてカウントされる、ということが既に起きています。

ブラウザが異なっても同一人物を識別するための手段として、AdobeもGoogleも、指定した会員IDの単位でセッションをつなげる機能を早い段階から提供しています。ログインが必要なサイトにおいては、エンジニアを巻き込んで正しく実装と設定をすれば、ある程度有益な機能でしたが、ログインする前のデータの扱い方が難しく、分析の際は注意が必要なので、ほとんど普及していないのが実情です。

個人単位のデータ収集や分析のニーズは高いですが、その手段としてアナリティクスからWebの行動データを取り出し、別のシステムの上で個人単位のデータを統合することが増えたため、Webアナリティクスとしては会員IDを記録できれば十分なのでしょう。GoogleアナリティクスのUser-ID機能は、しばらく進化していません。

プライバシー保護の強化が近年加速した大きな要因とは?

Googleはさらに、長い時間をかけて、Google広告とGoogleアナリティクスのCookieを連携させることに力を入れてきました。GmailやGoogle検索にログインしている状態のブラウザで、GoogleアナリティクスやGoogle広告のタグが貼られたサイトを訪問すると、アクセス履歴とGoogleアカウントが紐づきます。

  • いつ、どのページをどの順番で閲覧したのか
  • どの広告やサイト経由でサイトを訪問したのか

というデータが統合されて記録されます。通常の一般企業はアナリティクスを導入した自社サイトの行動データしか取得できませんが、ほとんどのサイトにGoogle広告やGoogleアナリティクスのタグが導入されている現状では、Google社は、世界中のほとんどのサイトの利用状況を個人に紐付けた形で活用できるのです。

なお、FacebookやTwitterも同様で、「いいね」ボタンを掲載するためのタグや、広告の効果測定のためのタグを導入するサイトが世界で増えるほど、FacebookやTwitter社はアカウントに紐付いた個人単位のサイト利用履歴をより多く得られるようになります。逆にいうと、サイト運営企業がそういったタグをページに導入することは、利用者や顧客の自社サイトにおける行動履歴データを各種プラットフォーマーに売り渡していることになります。

本来は、その是非を会社の方針として検討し、是とする場合はその旨をプライバシーポリシーなどでしっかり説明し、訪問者からの同意取得やオプトアウト機能の提供といった決め事や仕組みも必要です。

しかし、こういった事実を深く考えず、代理店から送られてきたタグを集客担当者が気軽にサイトに入れてしまうことが多いのも事実でしょう。事業会社やメディア企業が無自覚のうちに自社顧客の行動ログを無償譲渡してしまい、巨大プラットフォーマーのみがデバイス横断、サイト横断で世界中の個人単位の行動ログを寡占・独占していく。この状況は、プライバシー保護の強化が近年加速した大きな要因になっています。

このようなデータを武器に、Googleは2018年7月に、デバイスやブラウザを超えて同一人物を識別できる「クロスデバイス」のレポートをGoogle アナリティクスに搭載しました。ただし、ブラウザと人の被り具合をレポートで確認できるのみで、ゼグメントの作成や詳細な分析はできません。

面白そうな新機能を使ってみたいあまり、よくわからないままGoogle広告との連携機能を個人の判断で有効化してしまったアナリストやマーケターも多かったのではないでしょうか。Googleアカウントに紐づくページ単位の行動ログを無償で得られるサイトが世界規模で増えるので、Googleアナリティクスを無償で提供することは広告ビジネスに対するとても安上がりな投資といえます。

一方、広告ビジネスを持たないAdobeは、Webアナリティクスの位置付けを縮小し、より汎用的なデータ管理のプラットフォームとしてAdobe Experience Platform(AEP)を開発。顧客単位のデータの統合や管理、活用、可視化を容易にすることに力を入れているところです。

残りの2点と今後の展望については、次回に続きます。通知をメールで受けられるニュースレターが便利です。登録はこちらから。

この記事を書いた人

 

電通アイソバー
チーフ アナリティクス オフィサー(CXO)
清水 誠

組織のデジタル化を推進し続けて25年。UXの開拓、IT部門の社内改革、マーコム部門のデジタル改革、楽天におけるWeb解析の全社展開を経て2011年に渡米。ユタ州にてAdobe Analyticsのプロダクトマネジメントを担当した後、2014年に帰国し電通レイザーフィッシュ(現電通アイソバー)に参画。カスタマーアナリティクスやコンセプトダイアグラムを提唱し、その実践や普及の活動をしている。2013年Web人賞受賞。「清水式ビジュアルWeb解析」著者。

オリジナルの記事はこちら:プライバシー保護が加速した理由とは? Web行動のアナリティクス指標の変化【中編】(2020/02/25)

用語集
CSS / Googleアナリティクス / Google広告 / HTML / JavaScript / KGI / SEO / SNS / Webサーバー / アクセス解析 / オプトアウト / セッション / ページビュー / ユニークユーザー / 訪問 / 訪問者
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