広報・PR術入門/インタビュー

これから広報どうする? 「オンライン記者会見ノウハウ」「有事の広報スタンス」など

コロナ禍のなかで行われたイベント「こんな時だからこそ、広報どうする?」でみえてきたTIPSを紹介します。

2020年4月と5月の2回にわたって行われたZoomでのイベント「こんな時だからこそ、広報どうする?」。本連載「広報・PR術入門/インタビュー」をご担当いただいているビーコミの加藤恭子さんが主催した本イベントには、当初の予定の倍を超える参加者があった。イベントでは、広報担当者が現場で抱える「どうあるべきか」という課題、具体的な「どうやるべきか」という疑問が次々と話し合われた。

今回は、4月10日に行われた第1回目の本イベントの内容について、TIPSを中心に紹介する。ここでは主に、記者側、企業広報側それぞれの視点からのオンライン記者会見ノウハウ、有事の広報スタンスについてプレゼンテーション及び議論があった。登壇者は次のとおり。

モデレーター:株式会社ビーコミ 加藤恭子さん
プレゼンター:フリーライター 三浦優子さん
プレゼンター:Sansan株式会社 PRグループマネージャー 小池亮介さん

ビーコミ 加藤恭子さん(左)、IT系媒体でライター活動中の三浦優子さん(真ん中)、Sansan ブランドコミュニケーション部副部長 PRグループマネージャー 小池亮介さん(右)

記者側からみた「オンライン記者会見」参加TIPS

新型コロナの感染拡大で会見が激減

記者側としてプレゼンされたのは、主にIT系の記事を書かれているフリーライターの三浦優子さん。三浦さんは、Googleカレンダーを利用して、どのような記者会見がいつあるかを作成・共有している。その共有カレンダーで、昨年と今年の4月第2週を比べてみると、記者会見が激減していることが一目でわかる。

三浦さんの記者会見共有カレンダー

2月の終わりくらいに新型コロナが拡大して会見がどんどんオンラインに変わり、4月に入ってからはオンラインの会見でさえ、非常に少なくなりました。1年前のものと今年の第2週と比べてみると、会見の数が全然違います(三浦さん)

オンライン会見、参加してわかったこと

事前参加申請が必要かの確認が不可欠

記者側からみたオンライン会見のメリットは、たとえば昨日案内を受け今日会見に参加できる即時性だという。東京から地方の会見にも参加できる。とはいえ、気軽に参加できるオンライン会見も事前申込みが必要な場合もあるので確認が必要だ。

「オンラインだから大丈夫。今日は急に参加できるようになったから参加しよう」と、時間になってアクセスしたら、「申込みしてないから会見に参加できなかったー」ということもありました(三浦さん)

使うツールのチェックが不可欠

また、会見ごとに利用しているツールが異なるため、戸惑うことも多かったそうだ。ツールチェックは事前に行うことが必須となる。

ある会見ではブラウザから、ある会見はアプリのダウンロードが必要というように、使うツールが毎回違うので、「あ~ダウンロードしてないよ~!」とギリギリになって慌てたこともありました(三浦さん)

オンラインなら、同日時の会見の両方に参加可能

オンライン会見ならではのメリットは参加しやすいこと。リアルな会見であれば、会場から会場への移動があるため短時間でのハシゴは難しい。まして同じ日時なら、両方参加することなんて不可能だ。しかし、オンラインであれば可能になる。

通常の会見は2つ重なると行けないんですけれど、オンラインでは1つは「録画して参加」もできます。2つの会見を2つのモニターを並べてハシゴしました、という方もいらっしゃいました(笑)(三浦さん)

オンライン会見で困ったこと

写真が撮りにくい

画面のキャプチャ画像だと、同じような写真になりがち。主催者からもらう写真では他媒体と差別化できず、正解が見つからない。

質問がしにくい

写真問題とともに、課題としてよくあがるのが質疑応答の方法だ。主催側が利用するツールによって、チャットや音声、メールでの送付等いろいろな方法があり、その場での質問方法に戸惑うことも多いようだ。

さらに、質疑応答で辛いのは、リアルな記者会見の質疑応答であれば、複数の記者が同じような質問を、視点を変えて行うことで主催者側の本音がみえてくることがあるが、それができないことだという。

3回目に「う~ん、おっしゃっていることはわかりました。できないとは思うんですけど、善処したいとは思ってます」とか、ちょっと本音が出て、記事には書けないが、発言者の真意が理解できる応答になることがあります。オンラインの会見だとなかなかそういう質問がしにくいので、ちょっとそこは難しいなと(三浦さん)

会見に来た人との雑談ができない

オンラインでは、記者会見の後で、主催側の広報担当者や知り合いの記者どうしで雑談することができない。以前であれば雑談中に、「どんなところを書くか、こう聞こえたけれど間違ってないか」など、自分の聞き取りの確認などができていたという。

メモが取りにくい

それと、メモがとりにくことも課題の1つだ。

私は今、紙のノートでメモをとっていますが、デジタル機器は複数台ないとデジタルメモがとれない。そこのところは、まだ答えがなくて非常に迷っています(三浦さん)

長時間のものは集中力がもたない

また、オンライン会見を視聴している側は、家など集中力が続きにくい場所にいることも課題だ。オンラインならではのスピーカー側の工夫が必要になってきているのではないか、との話があった。

話すのが苦手で下を向いて話されるような方だと、見ているほうもちょっと困ってしまうことがあるので、しゃべり方、見せ方には工夫がいるような気がしています(三浦さん)

オンライン取材で感じたこと

お互いの顔を見て話したい

オンライン取材とはいえ、声はするけれど顔が見えない取材はどうも調子が悪いと三浦さんは話す。

帯域の問題もあると思うんですけど、取材の間、自分の姿を映さないでお話しされる方もいらっしゃいます。やっぱり顔を見ていないと伝わらないこともあるので、お互いに顔が見える環境がいいと思います(三浦さん)

質問は事前に送っておくほうがよい

質問事項に関しては、当日いきなり質問するよりも事前に送っておく方がうまくいくように感じているという。

その他、オンライン会見同様「写真」や「名刺交換」はオンライン取材でも課題だ。

オンライン会見をどんどんやってほしい!

いろいろ課題はあるものの、オンライン会見は試行錯誤が始まったばかり。三浦さんは最後に、参加の敷居をできるだけ低くして、どんどん会見を行ってほしいと語った。

家で書く仕事だけしていては情報が入ってこないので、短時間でもどんどん会見をやってください。1つのテーマで、30分くらいの勉強会みたいなことでも構いません。たくさんしていただけるとありがたいと思います(三浦さん)

企業側広報の「オンライン記者会見」開催TIPS

守りと攻めのバランスを意識

企業広報側でプレゼンされたのは、名刺管理で有名なSansanでPRチームのマネージャ―をされている小池亮介さん。法人向けに「Sansan」、個人向けに「Eight」というサービスを提供している。そのSansanが、コロナ禍のなかの企業としてどのように動いたかについてまずは話された。

コロナ禍での広報活動として意識しているのは「守りと攻めのバランス」だという。

守り

守りとしては、「コロナ対策委員会」を広報も携わりながら設置。社内にコロナの影響があった際に迅速に動ける準備を行った。

たとえば、社内に万が一感染者が出てしまった際の対外発表のフローの構築やプレスリリース内容の検討、Q&Aの作成など、2月から準備をしました(小池さん)

また、3月に予定していた1万人規模のイベント『Sansan Innovation Project 2020』を中止にしたという。

攻め

しかし守りだけでは止まってしまう。そこで攻めとして、先の中止を決めたイベントの代わりにオンライン記者発表会の企画をスタート。現在求められているものを提供できるよう活動しているそうだ。

オンライン記者発表会で、まさに今皆さんが困られているオンライン名刺機能の発表を行ったりしました。世の中が求めているものを社内にあるアセットでどう解決できるか、情報提供できるかという観点で、いろいろアイデアを出してPR活動をしています(小池さん)

有事の広報スタンス

小池さんは、コロナ禍という有事のなかで「広報としての3つの役割」をチームメンバーにシェアしていると語った。

正しい情報収集

1つ目は「正しい情報収集」。コロナに関する正しい情報を収集し、社内にシェアしている。

正しい情報を最速で、役員とかコロナの対策委員会のメンバーにシェアできるような体制を、今構築しています。たとえば、都内の感染者数の速報が出たら、十数分以内には役員にインプットして、東京の今の状況が正確に伝わるようにしています(小池さん)

平時と同様の広報活動

2つ目は「平時と同様の広報活動」。たとえば、とめなくてもよい内容のプレスリリースは粛々ときちんと出すようにしている。

全てとりやめてしまったら企業活動が止まってしまいます。あまり萎縮しすぎないように意識して動いています(小池さん)

チャンスに変える

3つ目は「チャンスに変える」。攻めの話にも出てきたが、世の中の動きをきちんと見て、求められている情報に合ったコンテンツなどの提供を考えている。

たとえば、オンラインでリモートワークをしている中で、「チームビルディングができない」といったことをかなり聞くので、「オンラインコーチングのススメ」という企画を持ち込んでいます(小池さん)

オンライン記者会見の実施で気を付けたポイント

Sansanでは3月11日にオンライン記者会見を行ったが、その実施にあたり、気を付けたことは次のとおり。

使い慣れたツールを使い、不安定な放送にならないようにする

途中で音声が途切れる等の不安定な放送にならないよう、もともと使っていてノウハウの蓄積があり、使い方マニュアルのあったWebexを使用した。

記者側がログインや初期設定などに戸惑わないツールを選ぶ

小池さんが仮に記者だったら、と想定してログインし、わかりにくい部分があるかを試したという。記者がリンクをクリックすれば視聴できる設定とした。具体的には、Webexでプレゼンを行い、その画面キャプチャをYouTube Liveで配信し、記者側に視聴してもらった。

オンライン記者会見の仕組み

資料は事前に送付

写真素材、プレゼン資料は当日朝にデータで送付し、万が一放送が途切れてもフォローアップできるよう、リスクヘッジをした。

リハーサルの実施

当日は、異なるオフィスからパートナー企業のコメントをいただくため、パートナー企業側が複雑な設定をせずにすむようにし、リハーサルを実施した。

冗長にならないよう、画面を切り替える

WebexとYouTube Liveの間にスイッチャーがあるため、それによって、プレゼン画面、プレゼンターの顔など、映すものを切り替えて、視聴者側が冗長だと感じない工夫をした。

オンライン記者会見でのプレゼンの様子。画面を切り替える工夫を行った

当日の役割分担を細分化

「登壇者が入れ替わるときにスイッチをオフにする係」といった、細かいところまで配慮した役割分担をし、ミスがないようにした。

細かい役割分担をしてオンライン会見に臨んでいる様子。たとえば、Aはプレゼンテーションを送る担当と、スクリプトを送る担当の2人体制。Bはカメラが起動しているかを常に監視し続ける担当

なお、当日の質疑応答は、YouTube Liveのチャット機能で質問を受け付け、それを司会の小池さんが読み上げて登壇者が答える、という形でやりとりをしたそうだ。

オンライン記者会見のメリット

オンラインで行うメリットについて、小池さんはオフラインで集まれない環境下で開催できることが一番だという。その他、遠隔地の記者に参加してもらえたり、当日参加できなかった記者にもアーカイブで視聴してもらえることをメリットとしてあげた。

配信形式にもよりますが、たとえばYouTube Liveであればアーカイブを残せるので、当日参加できなかった方にはリンクをお送りして見てもらえます。実際に当日参加できない記者さんに後日動画を送り、記事掲載を獲得することができました(小池さん)

オンライン記者会見のデメリット

デメリットとしては、次のようなものがあるという。

  • 質疑応答のインタラクティブさがなくなること。たとえば、記者からの質問と企業側からのコメントとの間に、リアルでは生じないタイムラグができてしまう
  • 記者との雑談ができないので、感想を気軽に聞いたりできない
  • 記者に、スポークスパーソンの紹介がしにくい
  • 役割分担を細かくしなくてはならないため、人員が通常よりも必要(先のオンライン会見では、3倍かかったそうだ)
  • リアルなリアクションがなく、ノンバーバルコミュニケーションが効かないので、プレゼンターは不安になる(先のオンライン記者会見では、その対策として、スクリプトを作りこみ、リハーサルを行い、プレゼン最中にはスタッフがうなずくようにしたそうだ)

初めてのSansanのオンライン記者会見に、小池さんは反省点もあるものの、「会見として成り立ったかなと思っています」と、ひとまずほっとされているようだ。最後に、今後は「クオリティとコストに関して割り切ることも考える」と語った。

ミニマムであれば、PCとZoomだけの記者会見もありかなと思っています。「ミニマムでやり切る」といったところは各社の判断になるんじゃないかな(小池さん)

広報担当者が今だからできること、やっておきたいこととは?

イベント「こんな時だからこそ、広報どうする?」の開催にあたり、企業広報の方や記者からさまざまな悩みや意見を聞いてきた加藤恭子さん。その加藤さんから、今回参加者に行った事前アンケートの結果を踏まえ、最後に、まずは1歩踏み出せそうなこととして次のような提案があった。

加藤さんが提案する「1歩踏み出せそうなこと」

小さく試す、実験する

まだ多くの企業がオンライン記者会見の経験値は高くない。この時期に、小さく試していこうと加藤さんは話す。

今は皆さん、試行錯誤でやっているので、ちょっとの失敗が許されるタイミングだと思うんです(笑)。だからこのタイミングで、小さくやって経験値を積み上げていく。特に小さい会社やベンチャーには、ある程度は勢いで許されるみたいなところもあるので、どんどん経験値を積み上げてもらいたい(加藤さん)

他社広報と情報交換、連携する

また、経験値がお互いに高くないからこそ、他社の広報の方にお話を聞いたり一緒に動いたりということが非常に重要になってくるという。そのための方法としては、「ソーシャルメディアで話しかる」「人に紹介してもらう」「広報グループに入る」などがあるそうだ。

いろいろなFacebookグループなどもあります。そういうグループの中に入っていってそこで連絡をとってみる、つながってみるというのも有効だと思います(加藤さん)

自社の立ち位置を客観的にみる

世の中の動き、ベンチマークしている他社の動きをみて、自社の立ち位置を客観的にみることも大切だという。

自社の立ち位置を客観的に見ていくことを忘れないようにやっていく。これを心がけると、ズレた広報にならないで、今の状況に合っている活動ができると思います(加藤さん)

相手に尋ねる

最後に、わからないことはどんどん相手に尋ねましょうという提案があった。

記者が何を考えているか、欲しているかわからない」とよく聞きますが、だったらちょっと聞いてみたらいいのかなと思っています。「ぶっちゃけ、これどうなんですか?」と聞けば、教えてくれる人は教えてくれますよ(加藤さん)

モデレーター:加藤恭子さんプロフィール

IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業、2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本マーケティング学会理事、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)

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