【レポート】Web担当者Forumミーティング 2019 Autumn

ゼロから始めるDMP構築。サッポロビールが実践する顧客理解のためのデータ活用

サッポロビールの「顧客理解」の6つの壁と克服のカギとなるDMP構築のステップを解説。

多くの企業で、より顧客を深く知り、最適なコミュニケーションを行う重要性が高まっている。事業モデルの性質上、最終消費者とのタッチポイントを持たないサッポロビールは、なぜ顧客理解を深めるためのデータ統合の必要性があったのか。

Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に登壇したサッポロビールの堀内氏は、オンライン・オフラインを含めたデータを統合管理する基盤としてプライベートDMPを構築した経験から、その背景や狙い、導入の注意点について説明した。

サッポロビール株式会社
マーケティング開発部 マネージャーの堀内亜依氏

消費財メーカーとしてのデータ活用「6つの課題」

サッポロビールのデータマーケティングを担当する堀内氏は、「サッポロビールにおけるDMPは、導入、運用開始したばかりの段階にある」と話す。

当社は、BtoBtoCのビジネスモデルであるため、接点を持つのは、卸先である小売業や飲食業です。そのため、最終消費者に関する情報が少なく、お客様(消費者)の理解を深めるためのデータも少ないという課題がありました(堀内氏)

では「なぜ、顧客理解を重要視したのか」。堀内氏によると、その背景には6つの課題があるという。

課題① パワーゲーム

1つ目は、ビール業界は「パワーゲーム」である点だ。大量に商品を作って陳列し、大量に売る「規模の経済」が働くため、マーケティングも、マス広告を中心に大量に広告を投下することが主流だった。

しかし、消費行動の変容によって、企業のマーケティングも変わっていく必要性を感じたことから「規模が小さい当社はパワーゲームから降り、丁寧にマーケティングしていきたいと考えた」のだ。

課題② 顧客が全く見えない

2つ目は「顧客が全く見えない」という課題だ。「どんなお客様に」、「どのように自社のビールが消費されているか」見えていないことが課題だったという。Webに関してはデータは蓄積されるものの、上述した事業モデルの特性から、商品購入のカスタマージャーニーにおけるWebチャネルはそれほど重要ではない。これまでとは別のやり方で、顧客を可視化する必要があったのだ。

課題③ リサーチデータの限界

3つ目は「リサーチデータの限界」だ。顧客を知るための手段として有効なのが「リサーチ(アンケート)などを通じたデータ」だ。しかし、アンケートで答えることと、実際の行動の間には差があるのも事実だ。そこで、リサーチデータと実際の行動データの組み合わせが重要なのだ。

課題④ 数字の落とし穴

4つ目は「数字の落とし穴」という課題だ。堀内氏はデータを重要視すると「本来の目的を見失うケースがある」という。たとえば、PVや離脱率などのアクセス解析の数字だけを見ていると「お客様に理解、共感、コンテンツに触れてもらいたい」という本質を見失うことがある。

「アクセス解析の数字だけにとらわれずに、コンテンツの改善やサイトへの流入導線の整備などをセットで設計、検証することが大事」だというのだ。

課題⑤ PDCAのギャップ

5つ目は「PDCAのギャップ」だ。マーケティング施策は、一つ一つの施策を「点」で実施するのではなく、マーケティングファネルの中で「線」で実施していく。しかし、検証段階に入ると「点」で検証することがよくある。その原因として「データがない、足りないから線として見ることができない」と堀内氏は述べる。

課題⑥ 増大するマーケターの業務

最後の6つ目が「増大するマーケターの業務」だ。顧客の嗜好が多様化し、マーケティングやコミュニケーションは複雑化している。本来、クリエイティブに費やす時間を、オペレーション、分析のための準備に取られるようになっていたのだ。

データ統合管理、分析の基盤としてDMPを導入

こうした課題を解決するために、同社では、オンライン・オフラインのデータを統合する基盤整備を行うことにした。堀内氏は、「当社のDMPは、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)に近い」としたうえで、自社が保有するさまざまなデータ(ファーストパーティデータ)を統合管理する目的は、次の3点だと説明した。

  • 顧客理解とファン化の促進
  • CRM施策や広告効果の向上
  • ブランド担当者のPDCAサイクル確立

目的達成のカギは、「確かで、多角的な情報を、正しく分析すること」だ。たとえば、顧客はどんな人か? ライフスタイルは? 自社と顧客との関係性は? 実施した施策の効果は? といった顧客と施策の関係を可視化、分析していくことである。

堀内氏は、「分析のもととなる顧客の属性データや、自社サイト上の行動データ、あるいは広告やCRM施策に関するデータは変動の可能性が大きい」と述べる。そこで、サードパーティデータも積極的に活用しつつ、「自社に合うものを選んでいく」ことが重要だ。

同社が導入したデータの基盤図は次のとおりだ。

自社保有データを収集し、データ分析基盤(プライベートDMP)で統合管理する。これをダッシュボードや広告配信(DSP)、キャンペーンなどのCRM施策に活用していくのだ。

これによって、クロスデータ分析や顧客セグメント別のブランドエンゲージ、施策の費用対効果などの分析が可能になる効果を期待した。

パートナー、ツール選びは「何を実現したいか」を明確にしてから

DMP導入と併せ、社内組織も整備した。2016年4月に全社データマーケティングチームを発足、オウンドメディアや広告チームと連携した体制を整備した。

DMPツールの選定は2016年、2017年ころにかけて行われた。まず、「自社にエンジニアがいない」「DMPも後発」「スピーディな対応が必要」といった点から、外部パートナーとの連携は必須だった。そこで、「顧客理解やCRM、コンテンツマーケティングの拡張など、何をしたいのかを明確にしたうえで、目的に対して強みを発揮するパートナーを選んだ」のだという。

当初はミニマムスタートで、DB上で、DMPのような仕組みを作り統合管理を行った。具体的には「自社会員データにスコープを絞って可視化、分析を行う」「IDに紐付かない売上データをダッシュボード化する」ことの2点だが、これらの取り組みを通じて、「自社データだけでは限界を感じた」という気づきが得られた。

特に、ブランドマネージャーにとってオウンドメディアの立ち位置、役割が明確ではなかったため、オウンドメディアに閉じた自社データだけを提示しても、あまり関心を持ってもらえなかったのです(堀内氏)

そこで、ミニマムで始めたDMPを拡張するために、本格的なツールを導入した。選定ポイントは「外部接続が有効に行える点」だ。コネクタが用意されており、APIを開発しなくてよいとか、ツール間の連携がスムーズに行えるといった点を重視した。

そして、ECサイトなどのように「コンバージョンを前提としたPDCAサイクルは、当社の場合は不要だったので、ツールの設計思想なども検討に入れながら選定を進めた」ということだ。

導入時に注意すべき「データ」と「目標設定」のポイント

堀内氏は、DMP導入時に注意すべきポイントとして「データ」「目標設定」の2点を挙げた。

導入時の注意点① データ

データについては、「社内にあると思っていたアクセスログや会員データなどは、分析のためにはほとんど使えないと思った方が良い」ということだ。

分析のためには、「IDベースで連携している必要があり、IT目線やCRM目線で蓄積されたデータは、データマーケティングでは、そのままでは使えないことが多い」というのだ。そこで、DMPをはじめとするハード面の整備だけでなく、データに関するリテラシー教育などのソフト面での環境整備が必要だ。

目標設定については、「DMPの取り組みは終わりがなく、正解もない」と堀内氏は指摘する。データの加工や入手に時間をとられることもあり、導入当初は成果の見えないまま時間が過ぎることもある。

導入時の注意点② 目標の管理

そこで大事になるのが「いつまでに、具体的に何を見たいか」という目標で、これを最初に明確にしておくことで、軌道修正もスピーディに行えるという。

堀内氏は、今後の展望として、「新しい双方向の関係性の構築」をポイントに挙げた。これまで企業が行ってきたコミュニケーションは「一方的」であり、それを双方向にしたいというのだ。

店頭や飲食店、SNSなど、オフライン・オンラインの双方で、よりお客様にあった価値提供を行い、情報に触れるきっかけを含めて「いいね」と思ってもらえる、共感してもらえるコミュニケーションを実現したいと堀内氏は語ってくれた。

また、企業活動を通じて得られた購買データから、直接販売に携わっていない間接部門がどう売上に貢献しているか、多角的に分析を行っていきたいという。これにより、間接部門のモチベーションアップに繋げていくのが目標だ。

堀内氏は、「消費財メーカーとしてのオウンドメディアの存在意義は、まだ正解は見えていない」としたうえで、ブランドの世界観を作り、顧客の共感を得て、直接コミュニケーションする接点としてオウンドメディアを成長させていきたいと話した。さらに、売上貢献度の関係性を定量的指標から明らかにして、「オウンドメディアの価値を可視化していきたい」との抱負を述べた。

最後に、堀内氏は、サッポロビールの経営理念である「お客様の楽しく豊かな生活を、より楽しく豊かに」を、データを使って実現していくために、本日のような機会をきっかけに、みなさんとの協業、共創から新たな価値を生み出していきたいとセッションを締めくくった。

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