BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『ウェブ進化論』著者も感銘を受けたシリコンバレーの金言集/書評『ウェブ時代5つの定理』

ブックレビュー

BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊

『ウェブ時代5つの定理――この言葉が未来を切り開く!』

評者:神野 恵美(編集者、ライター)

停滞する日本に今必要なものは?
シリコンバレーのトップランナーによる金言集

  • 梅田 望夫 著
  • ISBN:978-4-16-370000-7
  • 定価:1,300円+税
  • 文藝春秋

本書は、『ウェブ進化論』『ウェブ時代をゆく』の梅田氏がビジネス書として初めて書き下ろした一冊。彼によって厳選されたシリコンバレーのビジョナリーたちの名句を、「アントレナーシップ」「チーム力」「技術屋の眼」「グーグリネス」「大人の流儀」の5つの定理に分類し、シリコンバレーに長年在住し、彼らとも交流のある著者だからこそ知りうるシリコンバレー特有の気質や文化的背景の解説を加えながらまとめられたものだ。

本書を読んで、個人的に特に興味深かったのは、筆者が第4の定理として紹介する“グーグリネス”だ。グーグリネスとは、組織としてのグーグルの特異な気質を表した言葉。グーグルという会社は、数多くのシリコンバレーの企業と関わってきた梅田氏をしても「変な会社」と言わしめるほど突出して異風な文化を持つ組織だ。グーグルの創業者であるラリー・ペイジ自身も株式公開に先駆け「グーグルは“普通の会社”ではない。そうなろうとも思わない」と投資家に対して堂々と宣言する。「グーグルに投資することによって皆さんは、チームに、特にサーゲイと私に、そして私たちのイノベーティブなアプローチに、“かなり長い時間をかけて回収する金”を賭けるのだ」と言ってのける。さらに、企業の第一倫理として「邪悪ではあってはならない」を掲げるグーグル。まるで宗教家のような道徳感を自らに課すこの言葉は奇妙に感じるかもしれないが、いまや「世界中の情報を整理し尽くしてあまねく行き渡らせる」ことが現実の課題となったグーグルにとって、遭遇するあらゆる問題に対処するための“基本的な理念”は、何よりも重要なのだ。

本書を読むと、グーグルに限らず、シリコンバレーを支配している空気は「世界をよりよくしたい」というものであることがよくわかる。成功と報酬はその結果として得られるもので、シリコンバレーで成功している多くの創業者のモチベーションは、世の中を変えるという革命的な野心であり、決して経済的な利潤の追求から始まっているわけではないのだ。思うに、彼らがリスクを苦慮することなく、ビッグビジネスを生み出し、次々と成功に導くことができたのは、そうした確固たるビジョンと姿勢によるものなのかもしれない。そして、本書でも紹介されている、初期コンピュータの祖であり、個人投資家としても知られるゴードン・ベルが語った「起業することはエキサイティングなスポーツに参加するようなもの。リスクは大きいが、そのぶん報酬もでかい」の言葉に代表されるように、シリコンバレーの世界では、未来を変える“ビッグチャレンジ”に、誰もがスポーツを楽しむようにカジュアルに挑んでいるのだろう。

本書は、「明日からこれをしよう」とか「成功のためにはこれをすべき」というような具体的な実践例を指南するビジネス書とは一線を画する。だが、今日のウェブ時代を切り開いた、最先端のリーダーたちによる、とてつもなく前向きでチャレンジ精神に富んだ格言の数々は、誰しもの心に響くものばかりだ。そして、これらの言葉は仕事のみならず、人生における新たなモチベーションへと突き動かす力をも与えてくれる。依然として経済が停滞し、なにかと悲観的なニュースばかりを耳にする今日の我が国において、社会が再び元気を取り戻してほしいという著者の思いが伝わってくる一冊だ。

用語集
アントレナーシップ / グーグリネス / シリコンバレー / チーム力 / 名句 / 大人の流儀 / 技術屋の眼 / 書評
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