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『えんとつ町のプペル』はなぜ売れたのか? キングコング西野亮廣が語る“お金”と“広告”

日本eコマース学会の第1回シンポジウム基調講演で、お笑い芸人キングコング西野氏が絵本ヒットの戦略を語った

この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。

挑戦を阻む「お金」と「広告」の話

一般社団法人日本eコマース学会(JASEC:Japan Academic Society for E-Commerce)の第1回シンポジウムが4月14日に都内で開催された。テーマは「そのうちamazonに駆逐されて終わってしまう」と刺激的だ。

Amazonという巨人と戦うためのヒントとして、第1部の基調講演には、既存ビジネスの常識にとらわれない挑戦的な試みをする、絵本『えんとつ町のプペル』の作家、お笑い芸人キングコングの西野氏が登壇した。

西野亮廣 氏
西野氏4作目の絵本『えんとつ町のプペル』は現在、絵本としては異例の35万部を突破し、2019年の映画化が決定している。ディズニーを倒すことが目標だと語る。

打倒ディズニーを掲げる西野氏が、挑戦を阻む2つの要素、「お金」と「広告(集客)」を軸に、『えんとつ町のプペル』をどうやって売ってきたのか、常識にとらわれない作品作りの裏側を語った。

挑戦を阻むものの1つはお金。資金繰りができなくなった瞬間にあきらめなくてはいけない。もう1つは広告、どう宣伝して集客するのか、ブランディングしていくのかでつまずく。我々はお金と広告について教わらないまま、何の武器も持たないまま戦場に出ている状況(西野氏)

世界一の絵本作家と同じレールでは競争しない

西野氏が絵本作家としてスタートしたのは25歳。芸能界のトップスターが敷いたレールを後ろから追いかけるのではなく、まったく違うレールを敷いて一気に追い抜こうとしたのがきっかけだった。同じ状況で競争をしないことが西野氏の戦い方だという。

絵本作家としてのデビューとしては遅く、他の作家より画力や出版ネットワークで勝っているわけでなかった。世界一の絵本作家と画力で競争しても追い抜くのは難しい、そこで西野氏は「一作品にかけられる時間なら勝てる」と考え、ボールペン1本で描く、4~5年かける作り方を選んだ。

「副業がなかったら作れなかった」と言うように、これは西野氏が絵本作家専業ではないために取れた手法だった。絵本作家が専業で食べて行くには、コストが見合わないためマネできない。同じ絵本であっても、違うレールで勝負をしかけた。

届かない作品は存在しない、物づくりを再デザイン

日本のクラウドファンディング史上、最大の支援者数を記録して制作された『えんとつ町のプペル』だが、成功の背景には過去の失敗経験をもとにした綿密な戦略があった。

西野氏のデビュー作『Dr.インクの星空キネマ』は4年かけて制作し、2作品目の『ジップ&キャンディ』の制作期間は3年ほど、どちらも3万部ほどを売り上げた。絵本業界ではヒットと言えるが、ディズニーには届かない。

Amazonの評価は高く、買った人は満足していたようだが、なぜか10万部には届かない。その後も作品作りを続け、絵本作家として7年が経過したころ、西野氏は「キンコンの西野ってどこいったの? オワコンだよね」と、世間でほとんど認知されていないことに気づいたという。

25歳でテレビを離れると決め、作家として作品を作ってきたが届いていなかった。お客に作品が届かなければ、世間からすれば何もしていない人だった(西野氏)

それまで、絵本の宣伝販売は事務所と出版社に任せきりだった。そのため西野氏は、「モノを作って売る」ことをデザインしようと考えた。『えんとつ町のプペル』で実践したポイントは2つある。1つ目は「絵本をお土産にする」こと、2つ目は「世界中に作り手を増やして巻き込む」ことだ。

絵本がお土産になる体験をつくりだす

まず消費者の視点に立ち、どういうモノなら買うのか分析した。売れるモノの代表は生活必需品だ。たとえば、水道水があっても、コンビニではミネラルウォーターが売れている。

一方、絵本のような作品は生活必需品ではないため、普段の生活のなかでは売れない。ただし、生活必需品でなくても、演劇のパンフレットや旅先で買ったペナントなど、売れているモノがあった。これらに共通するのは思い出だ。

お土産は、思い出すための装置として、生きるために必要な生活必需品だとわかった。だからこそ、お土産屋は駆逐されずに生き残っている。つまり、絵本もお土産にできれば売れる。そのための体験をデザインすればいい(西野氏)

そこで考えたのが、絵本の原画を無料で貸し出し、全国で原画展を開いてもらうことだった。そして、会場の出口で絵本を売らせてもらった。

お土産として何万部も、会場の出口で売れることがわかった。僕がやることは、原画展の回転を止めないこと。Amazonでは売れたらラッキーで、売り場の本丸は個展会場にある(西野氏)

分業制とクラウドファンディングで作り手を増やす

デビューから4作目の『えんとつ町のプペル』では、これまでの絵本とは作り方を大きく変え、分業制を取っている。もともと、1人の制作が当たり前の絵本の世界に疑問を持っていたという西野氏は、世界でだれも見たことがない絵本を作るために、イラスト、着色、デザイン、製本など、約40人の分業体制とした。

ただし、絵本は市場が小さいため、映画のような分業制ではコスト的に成り立たなかった。これは、西野氏の場合も同様で、絵本作りでまず取り組んだのが、クラウドファンディングによる資金調達だった。

結果として、『えんとつ町のプペル』は約1,000万円の制作資金の調達と、発売前の無料個展の開催、2つのクラウドファンディングを成立させている。

この成功理由について、お金とは「信用」であり、クラウドファンディングは信用の「両替機」であって集金装置ではないことを知るべきだと西野氏は話す。

テレビタレントでもクラウドファンディングで失敗している例はあるが、彼らは集金装置と勘違いしている。ウソをつくと信用が削られていくが、テレビに出続けるということは、ウソをつき続ける環境にいるということ。グルメ番組では、料理がマズくてもおいしいと言わないといけないが、今はSNSでウソがすぐばれる。世間の人気タレントのほとんどは認知タレントであって、信用がともなっていない(西野氏)

「マズイ料理を美味しいという」「使ったことがない商品を絶賛する」……。テレビタレントは、スポンサーや番組の意向からウソをつかざるを得ない環境にいるため、クラウドファンディングとは相性が悪いという。

目的は世界中の人をクリエイターにすること

クラウドファンディングを採用したのにはもう1つ、作り手を増やすという目的もあった。作り手を増やすことで広告効果が上がるからだ。発売前に支援した1万人が、「自分が作った(支援した)作品だ」と宣伝してくれる。

5年前にスタッフを集めたとき、最初に言ったのがお客さんに売るのをやめて、世界中の人を作り手にしようということ。どうしたら作り手を増やせるのか考えた方法の1つがクラウドファンディングだった(西野氏)

『えんとつ町のプペル』は現在、全ページを無料公開している。しかも、著作権フリーとして公開しているため、Tシャツ、マグカップ、ラッピング電車、演劇ほか、さまざまなグッズやイベントが独自に生まれている。これも、「作り手さえ増やすことができれば、お客さんが増える」という考えにもとづいている。料理でいえば、レストランではなく、みんなで作って食べるバーベキューの作り方だと西野氏はいう。

今の時代はお客さんが情報を発信できる。情報解禁といった考えは、作り手とお客を完全にわけてしまっているが、今はプレイヤー側にしてあげたほうが喜んでくれるし、みんなドヤ顔をして、いいねされたい。ディズニーは見事な無敵艦隊だが、『えんとつ町のプペル』をフリー素材にして、多くの人を作り手にできれば広告力で勝てると思った(西野氏)

本業で勝負しないから、マネされない仕事が作れる

ここまでの内容は、西野氏の著書『革命のファンファーレ』でも触れられていることが中心だ。講演の最後では、西野氏がロボットや他人がマネできない、これからの仕事の作り方について語った。

仕事は“差”によって生まれる。差を作るには圧倒的な天才になればいいが、他人と同じ環境にいては、天才にはなりにくい。たとえば、ケーキを売って、その売り上げで翌日の商品を作り、利益で新作を出すことはみんながやっている。多少の差はあっても、本業でマネタイズしている限り、極端にとがることはできない(西野氏)

西野氏自身の活動でいうと、現在の本業は有料の会員制オンラインサロンにあるという。今もテレビ出演は続けているが、テレビタレントが本業ではないため、出演オファーがきたときに出演を断ったり、内容を交渉したりできるという。

書籍の執筆も本業ではない。2017年10月、文藝春秋の社長が全国図書館大会で「文庫本の貸出をやめてほしい」という主旨の発言をして話題になった(参考記事:文藝春秋 松井清人社長インタビュー前編(ダ・ヴィンチニュース))。このとき、西野氏は同時期に出版していた『革命のファンファーレ』を全国の図書館に無料で配っている。

革命のファンファーレの初版印税を使って本を買取り、全国の図書館に贈った。その方が売り上げがあがりますからと言ったが、売れなくてもよかった(配布後の売り上げは伸びた)。なぜなら、そういったアクションを起こせばオンラインサロンの会員が増えるから。事実、会員は増えた。印税で生きていないからできたこと(西野氏)

本業からマネタイズの軸をずらすことが、結果として本業をより鋭くさせるという西野氏の考えが、『えんとつ町のプペル』や『革命のファンファーレ』の常識にとらわれない作り方・売り方につながっている。

また、西野氏は新たに飲食無料のスナック経営にも挑戦しているという。ここでも「飲食店が飲食で儲けない」という、極端な環境作りからスタートした。今はファンクラブ制にするなど、飲食以外の経営方法を模索しているようだ。

これから先、Amazonのような巨大企業に駆逐されずに生き延びようとするなら天才になるしかない。そのためにやるべきことは、「考えることよりも、自分自身に極端な環境を与えて天才になること」だと西野氏は最後に語った。

オリジナル記事はこちら:『えんとつ町のプペル』はなぜ売れたのか? キングコング西野亮廣が語る“お金”と“広告”(2018/05/07)

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