Web広告研究会セミナーレポート

NEC・パーソル・リコーのコーポレートブランディング最新事例――ブランドを作り上げるのは1人ひとりの社員

NEC、パーソルテンプスタッフ、リコーが取り組むコーポレートブランディング
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

モデレーター
岩崎電気株式会社
新井 隆之 氏

企業Webサイトがブランディングに貢献したのか、定量的に成果を測ることは難しいものだ。各社はどのような取り組みをしているのか。第2部は、岩崎電気の新井隆之氏がモデレーターとなり、NEC、パーソルテンプスタッフ、リコーを迎えて、各社のブランディングに対する取り組みが紹介された。

ブランドステートメントを7つの社会価値創造テーマへ――NEC

パネルディスカッションの冒頭では、パネリスト3社のブランディング活動が発表された。

NEC
山室 元史 氏

NECは、数年前からB2BやB2G(Government)に事業を集中しているが、その結果、NECがどんな会社なのかが伝わりづらくなってきていると山室氏は話す。

2015年中期経営計画(2013年4月発表)において、NECは「社会価値創造型企業への変革」を宣言したが、社会価値創造というのはどの会社でも言えることであり、オリジナルの言葉で語る必要があったと山室氏は述べる。

そこで2014年6月に発表したのが、ブランドステートメントの「Orchestrating a brighter world」だ。このブランドステートメントを事業に落とし込むために、NECでは7つの社会価値創造テーマを立てて新たなビジュアル・アイデンティティを規定。「Orchestrating a brighter world」の世界観を表現する色・カタチ・文字を規定して、世界に向けて発信している。

ブランドステートメントを7つの社会価値創造テーマに落とし込んだ

こうした取り組みの結果、NECのブランド価値評価は過去最高を更新した。しかし、競合と比較するとまだまだであるため、ブランド価値評価向上に向けたPDCAを回している最中だという。全社的に最適かつ一貫性のある視点で施策を評価し、ブランド価値を社内と社外の両方でチェックする。

今後は、日本以外の国や地域でも同様の施策をしていきたいと山室氏は説明した。

グループブランド統合後の認知を高める――パーソル

パーソルテンプスタッフ株式会社
芦田 研一 氏

人材派遣やBPO事業のテンプスタッフ、アルバイト求人情報サービスのan、転職サービスのDODAなどを展開するパーソルは、2016年7月に生まれた新しいブランドだ。ブランド名には、働く人や企業の成長を支援したいという想いが込められている。

パーソルグループのスローガンは「はたらいて、笑おう」というもので、特に仕事を通じて成長しようと考えている人や企業を応援したいと芦田氏は話す。

パーソルグループでは、6つの事業セグメント、4つの中核会社に分けて事業を進めている。直近の課題は、まだ新しいパーソルブランドの認知を上げることだという。

グループの商号変更で新しくなった「パーソル」ブランドの認知向上が課題

グローバルで価値観を共有するブランドタグライン――リコー

株式会社リコー
伊藤 恵美子 氏

創業80周年を迎えるリコーは、海外売上が6割を超える企業だが、海外展開を進める中で、文化の違う海外現地スタッフと同じ価値観を共有し、ブランドを推進していくことに苦労してきたと伊藤氏は話す。

リコーの創業の精神や経営理念は戦前からあるもので、単純に英語に訳しただけでは海外の現地スタッフには伝わらなかった。そこで取り組まれたのが、現代のリコーグループの活動指針となる創業精神と経営理念をまとめた「リコーウェイ」の策定だった。また、2012年には、コーポレートブランドタグラインとして「imagine. change.」を制定し、国内外のグループ社員に伝えていった。

ブランド管理部門のミッションについて、伊藤氏は、「効果的・効率的なコミュニケーション活動によって、グローバルのブランド価値を向上し、企業価値を高めることに貢献すること」だと話す。そのためには、グローバル最適・地域最適のバランスが取れたブランドマネジメント体制を構築することが重要だと説明する。

また、2017年4月に新社長が就任し、ブランドの変化を加速度的に行っていくことになったリコーでは、ブランド戦略を転換し7ヵ年で確立していくことに挑戦しているという。

ブランドを事業と連携させるための社内理解と組織作り

各社ブランド紹介の後、パネルディスカッションは、Web広告研究会のコーポレートブランド委員会で集めた質問を中心に進められていく。

最初の質問は、「ブランドを推進するにあたってのセールス部門とマーケ部門の関係性や役割、悩み」についてだ。

山室氏:ブランディング、マーケティング、セールスは分けられるものではない。畑にたとえれば、耕して種を撒くのがブランディング、育てるのがマーケティング、収穫するのがセールスとなり、収穫後は次の畑づくりをどうするか考える必要がある。

また、企業イメージ調査は、会社の評判だけでなく、業績につなげられているかを見る必要がある。NECでは、ブランドイメージと購買要因イメージがどのようにつながっているかを見ようとしており、ブランドとマーケティングとセールスはセットであることを整理できるようにしている。

芦田氏:私がパーソルテンプスタッフに入ってびっくりしたのは、新入社員が全員営業からスタートすること。販売や集客に対する考え方が強く、集客もコーポレートブランディングの目的だと言われている。そのため、中長期的なブランディングに対する予算や施策に対してシビアになっている。

M&Aによって多様な企業文化を取り込んでいく中で、パーソルブランドを築き上げ我々の想いを伝えていくことは非常に重要。一方で、ブランドと実業をリンクさせることができるのはコーポレートブランド部門だと思っているが、経営層や他部門・セグメント等、関係者が非常に多く、調整に苦労している。

パーソルというグループブランドと、人と組織の成長創造インフラというビジョンがあるなかで、我々コーポレートブランド部門の役割は将来のお客様を作っていくことだと考えて、ホールディングスと連携して見込み客を作っていこうとしている。

見込み客を育てるためには、ブランドに投資することが重要であることを伝え、コーポレートブランド部門が孤立しないように、マーケ部門や集客部門と制作段階から連携していくことが重要だと思う。

パーソルグループが描くブランド戦略

伊藤氏:商品マーケティングに関しては、事業部や販売会社に任せているが、ある一定の枠内で訴求できるようにコミュニケーションガイドラインなどを作って統制している。

この10月から、ルール上の統制だけでなく、コンテンツ自体も一貫性を持ってコミュニケーションできるような組織が立ち上がった。事業部や販売会社と連携しながら、コンテンツを作るよう取り組んでいる。

熱意があればインナーブランディングに特別なことは必要ない

続いての質問は、「インナーへの浸透がブランディングの重要な要素」だが、どのような取り組みを行っているのか。

山室氏:インナーブランディングは非常に重要だが、特別なことをするよりも、セオリーに沿って愚直に行っていくことが重要。トップメッセージを流し、社員同士で対話できる場を作り、グループが目指す方向性などを冊子にまとめて、7つの社会価値創造テーマのサンプルとして社内外に展開するようにしている。

ブランドの最大の発信源は社員1人ひとりだと考えている。社員1人ひとりがどのような振る舞いをするかが会社の看板に影響を与えるため、7つの社会価値創造テーマがそれぞれの仕事とつながっていることに気づいてもらう必要がある。NECでは、そのために「自分ごと化ワークシート」を作って展開している。

芦田氏:インナーブランディングを行う部署の社員が熱狂できなければ、想いを共有することはできないし、行う施策が腹落ちしなければ他の社員に伝わらない。

パーソルテンプスタッフは全都道府県に拠点があり、インナーの主たる対象をマネージャーとしてオンライン・オフラインに限らず施策を立て、社長が拠点を訪問したり、マネージャーとの座談会を行ったりしている。またグループでは階層別にセグメントの各個社の社員同士が交流する場を作ったり、全国の主要拠点に社員を集め、グループ社員総会なども行っている。

伊藤氏:社内ポータルや社内報などは一通りやっているが、本年度の中期計画から、顧客提供価値メッセージ「EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES」を制定、その浸透により社員ひとりひとりが同じ方向性を持って活動できるように取り組んでいる。

お客様にどのような価値を提供するのか、約11万人のグローバル社員に腹落ちさせて行動規範とすることが重要なので、このメッセージは社外よりも先に、社内に浸透させることが重要だと考えている。

リコーの7つの事業領域それぞれからキーマンをアサインしてもらい、各事業領域における「EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES」とは何かをともに考え、エバンジェリストになって部内に展開する活動もしており、社内ワークショップにも取り組んでいる。

ブランド統合に共通する課題

続いて新井氏は、今回のパネリストが「商品事業ブランド」から「マスターブランド」に集約する流れのなかにいることが共通していると話し、その面での苦労話についてパネリストにたずねる。

山室氏:「Orchestrating a brighter world」というブランドステートメントを決めた後、各製品のブランドがあるなかで、どうやってブランドを確立するのかが大変な状況となっている。

まずコーポレートブランドにもとづき、一貫性を持って事業・商品ブランドをマネジメントするようにしているが、抜本的な変化は起きていない。ブランドステートメントだけでは、事業・商品ブランドに一貫性を持たせ、社員の行動にも一貫性を持たせることはできないため、ブランドステートメントの解説文やブランドストーリーが重要だと考えている。

商品や事業がブランドストーリーにつながっているかをチェックしたり、ブランドストーリーに合わせて事業を見なおしたりするなど、今後はもっと強力な形で行っていこうと考えている。

芦田氏:パーソルというグループブランドを作り、各グループ会社名にパーソルを付ける形でマスターブランドとなっている。しかし、現時点ではまだ各サービスブランドの認知度が高いため、最終的にはそれらがパーソルに接続しながら価値を貯めていくことが重要。ブランド体系とビジュアル・アイデンティティの整備などが大体完了したので、各種施策に取り組んでいる最中となっている。

伊藤氏:リコーでは、以前は商品群ごとにブランド名があり、更に国内と海外で同じ商品のブランド名が異なっているような状態だった。調べたところ、商品ブランドの認知はリコーブランドの認知につながっておらず、コミュニケーション投資の無駄遣いがあった。

ソリューションプロバイダとしてのリコーの認知を促進するため、現在はコーポレートブランドである「RICOH」集中してコミュニケーションするよう、ネーミングのルールと体系を作った。それを維持するために、ネーミングのチェック体制を構築して運用している。

RICOHブランドを主語にメッセージを届ける

顧客にとって価値のあるブランドになれているか

ディスカッションの最後は、3名のパネリストが今後の目標について一言ずつ語った。

芦田氏:ブランディングは多岐にわたり、各社によって取り組みは違うが、私自身は非常にやりがいを感じている。気をつけなければならないのは、ブランディングが実業やお客様にとって価値があるものになっているかということ。そこまでの連携をコーポレートブランドで行っていく重要性を感じており、1年や2年では達成できないということを経営層にも理解してもらうことも重要。グループタグラインである「はたらいて、笑おう。」で表現している様に、難しい顔して仕事をしていては、良いサービスを提供できないので、ブランドを作る側として気を付けている。

山室氏:コーポレートブランドは、ありとあらゆるものに波及していくと考えている。ブランドの中核概念は、ロジカルに組み上げて、エモーショナルに伝えていくことが重要だと改めて思う。トップの理解を得られないという声を聞くが、我々は中期経営計画をお客さまにどう伝えるか考えたときに、コーポレートブランドを作ろうと考えた。そう考えれば、3年ごとの中期経営計画が出るたびにコーポレートブランドを作るチャンスがあると考えることができる。

伊藤氏:私の上司であった前センター長は、「ブランドは経営戦略そのものだ」と言っていた。本当にその通りだと思っている。ブランドの構築というと、とかくルールを作ったり、ガバナンスを効かせようとしたり、上から目線の施策ばかりになってしまいがちだが、ブランドを浸透させて伝えていくのは社員であり、社員がしっかりと腹落ちして発信していくことが非常に重要だと考えている。そのため、社内コミュニケーションをしっかり行っていく必要がある。

Web広告研究会 コーポレートブランド委員会では、今後もこのようなセミナー、委員会活動を通じ、企業のブランディング活動に貢献していきたいと考える。

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「NEC・パーソル・リコーのコーポレートブランディング最新事例――ブランドを作り上げるのは1人ひとりの社員」2017年10月24日開催 月例セミナーレポート 第2部(2017/12/21)

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