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中国はもう『規模だけの市場』ではない。僕らが今理解すべきデジタルオーバーラッピングの本質と威力

beBitの「China Trip」に同行して中国の北京に行ってきました。本当に衝撃的な、デジタルオーバーラッピングで変わる世界を体感してきました。

つい先日、UX設計やコンサルで有名な beBit さんに招待され、中国は北京に行ってきました。

なんでも『企業TOPを中国に連れて行って ”今のままじゃダメだ!” と気づかせる』コトをざっくり目的とした新サービス(?)『China Trip』という企画があるらしく、それに同行させていただいた感じなんですが……。

先に言っておくと、今回の内容、本当に衝撃的です。ほとんどの日本人が『本当に?!』となると思いますので、心して読んでいただけると幸いです。

僕らがアップデートできてない『かつての中国』への誤解と事実

今回案内してくれたbeBitのお2人。
左が東アジア営業責任者の藤井さん、右が取締役の中島さん。

さて、読者の方であれば『中国のIT進化が凄い』くらいは認識してるでしょうし、もしかしたら『その規模と成長スピードがシリコンバレーに迫る勢いである ※』くらいまでは知ってるかもしれません。

ただ、実際現地に行き、そのプラットフォームの裏側をよく知るbeBitのお2人から僕が聞かされた情報はそんな次元の話じゃありませんでした。

恥ずかしながら訪中前の筆者のイメージ
  • 態度悪い。マナー悪い。洗練されてない感じ
  • 人はいっぱいいる。だから市場の規模は大きい。でもそれだけ
  • GoogleもFBもTwも使えなくてかわいそうな「制限されている国」

これが全部違ったんですよね。

街はキレイで、車がクラクション鳴らすことも(ほぼ)なく、カメラを忘れたら一般の方が笑顔で届けてくれて、現金使う人なんてほぼいなくて(現金利用率5%以下だそう)とにかく驚くほど洗練された社会がそこにはありました。

※2017年6月時点の時価総額でいうとWeChatのTencentが世界第6位。次いでAlibabaが世界第8位。ちなみにAlibabaのAlipayは世界Fintechランキングでも世界1位(AlibabaグループのAnt Financial)。1111(ダブルイレブン)とかのセール日なら、それこそEC商取引額が『1日でAmazon1年分』が流通しています。

後になって聞かされて『なるほど!』となったんですが、中国のGreat Firewallって、情報規制だけじゃなくつまり『国内産業の育成施策』だったんですよね。

(今さら日本で『Facebook作ろう!』てやつは出てこないでしょうが、もしFBの使用が規制されていて、かつSNSやばい的な情報だけ入ってきていたとしたら…?という、つまりそういうコトらしいです)

凄まじいスピードで浸透した電子決済と、それが可能にした個人信用の可視化

行くとまず目につくのが、本当にありとあらゆるところにAlipayWeChatpayが浸透していること。

それこそ警察の罰金支払いから古い売店、タクシーに自販機、ガチャ、神社的な所のお賽銭にいたるまで……。

とにかく『QRコードを読んでもらう(決済額をPOS側で決める)』もしくは『設置されているQRコードを読む(金額をこちらで決めて個人間送金)』で終わってしまいます。

これを成し得たのがAlibabaの『国中の事業者へのAlipay POS端末無料無制限配布』だったそう。14億人の消費を支える事業者相手ににとんでもない数の端末を無制限配布したんだとか……

今の僕らではせいぜいが『どうせ国がやらせたんでしょ?』くらいしか考えられないようなコトが、私企業のマーケティング戦略から生まれていたらしいんです。

ほんとすごいですよね。

もちろんここまでで既にびっくりな話なんですが、2015年、Alipayを提供するAlibabaがついに社会変革の肝になる一手を打ち込みます。

ジーマクレジットスコア』による個人社会信用度可視化です。

というわけでここからは、実際筆者にいろいろと教えてくれたbeBitのお二人に語ってもらおうかと思います。

社会信用度が可視化されることで起こった人類史上例のない社会変革

――藤井
「公共料金から金融商品、タクシーにショッピング…と、あらゆるアプリケーションが『AlipayやWeChatPay上で使えるApp』として動いてるので、もはや単独のアプリとは違うモノですね。」
――中島
「日本人のほとんどは『Alipay≒Suica的なもの』『WeChat≒中国版LINE』くらいにしか捉えてないと思うんですが、あれはもはやプラットフォームでありインフラなんですよ。」

そういってお2人が見せてくれたのが以下の図。現在Alipayから(≒ほぼWeChatPayからも使える)利用可能なコトなんだそう。

――中島
「ここまで圧倒的に決済情報と紐付いたビッグデータを取得できたからこそ、可能になったプラットフォーム構想、それが『Zhima Credit Score(ジーマクレジットスコア)』なんです。

これまで可視化不能だった個々人の社会的信用が買い物履歴(何をいくらで買ったか)や買い物時の行動(キャンセルしていないか、実支払いが遅れていないか)がデジタルによりスコアリングされたんです。

結果として『Zhima Credit Scoreが高ければ良いことがある』として国民それぞれの行動を変えていったんですね。」


Zhima Credit(芝麻信用)の画面キャプチャイメージ

曰く、このジーマクレジットスコアが一定より高くなると以下のような特典があり、逆に低くなれば特典が受けられなくなってしまうペナルティがあるんだとか。

ジーマクレジットスコアの特典より抜粋
  • ホテルのデポジットが無料に(中国ではホテルに泊まる際デポジットが日本円で数万程度必要)
  • 一定額のローン審査が不要
  • 物件によるものの、賃貸物件の敷金が無料になることも
  • 対象国は限られるもののVISA申請が不要!という特典も
――藤井
「それまで与信リスクのヘッジコストが必須だった『相手を信用しない社会』だったからこそ、個人の信用スコア可視化が歓迎され、余計なフローがなくなることで企業の業務効率が大きく向上したんです。

さらに例えば『内陸部で暮らしていたいた人が上京してきても(社会的な信用が分からないため)家が借りられない』なんて社会課題さえも解決してしまったんですね。

ジーマクレジットスコアは『妙なコトをせずに、給料から家賃や公共料金をちゃんと払ってる人』であれば一定スコア以上にちゃんと上がるように出来てますから。」

確かに僕も現地で体験しましたが、とにかく ”嫌な体験” することが、殆ど無かったんですね。冒頭で書いたとおり接客は丁寧でしたし、街はビックリするくらいキレイでした。

なんというか、全員が全員『ちゃんと仕事してる』感がすごくしていたんですが、これももしかして……?

――中島
「ジーマクレジットで支払い能力を証明するだけでなく、タクシーのDiDiにしろデリバリーサービスのアーラマにしろ、「信用をデジタルで可視化して良い行動を促す」環境が出来つつあるんです。

ユーザーは当然『良い方』を選ぶので、ジーマを提供するAntFinancial提携の業者を選ぶようになりますし、提携すればそれはそのままサービス向上圧力になっていく。

マイナスな意味だけで捉えれば『監視社会』とも言えるでしょうが、結果として社会全体を大きくプラス方向に動かしているんですよ。」

――藤井
「中国ってとにかく長いこと経済成長を続けてきた国なわけじゃないですか?だからなのか、こういった『ルールが変わる』ようなケースに慣れっこなんですよね。

変化に強いというか、変化に期待しているというか。

生活の根幹が去年と全く変わってしまう……ということに対し、マイナスな感覚がほとんど無いんです。『これまで変わり続けて成長してきた。この変化の先にはきっと良いことがある』みたいな国民性が強いんですよ。」

確かに高度経済成長時代の日本人ってそんな感じの感覚だったのかも知れないですね。

中国における市場規模は日本の10倍(約14億人)。これが長期間経済成長を繰り返した……と考えれば、その中にいる場合の体感変化スピードは確かにとんでもないでしょうね。

つい先日も『米国のハイテク業界で「日本人が嫌われてる」理由がかなり深刻』なんて記事が話題になっていましたが、『変化を嫌うおじさん』に自分自身なっていないか。そんな人ばっかり相手にビジネスを考えてないか。

中々に焦らせてくれる事実ですね。

デジタルオーバーラッピングされ変わる「データの価値」とユーザー体験

――藤井
「AlipayやWeChatPayがあらゆる所で使える…というのはもう体験されたと思いますが、他にもMobikeDiDiなどが象徴的かも知れないですね。」

Mobike
スマホを数タップしてAlipayなどと接続するだけでOK。都市部であれば本当にありとあらゆるところに自転車があり、自由に乗って自由に乗り捨てOK。故障車はユーザが写真付きで報告するとポイントインセンティブがもらえたりする。利用料はなんとわずか1元(日本円で16円くらい。現地感覚だと10円くらいのイメージ)

DiDi Taxi
サービスとしてはUberが近いが、ヒッチハイク、代行運転、シェアバイク『ofo』なども使える総合移動支援サービス。ちなみに2017年5月時点のユニコーンスタートアップランキングではUberに次ぐ世界第2位となっている。(※参考記事

――藤井
「元々北京には公共のシェアバイクがあったんですが、登録は面倒な上駐車場は固定。故障放置も多く、とても使えるサービスじゃなかったんです。
タクシーなんかにしても同じ。とにかく運転手は自分の利益を優先して勝手に遠回りするわ迎車は来ないわ……と。とにかくユーザーにとって不都合なコトが多すぎたんですね。」
――中島
「そこにAlipayやWeChatの浸透のようにデジタルがリアルを飲み込んで、普段の行動までデジタルデータ化するようになった。

すると、これまで誰もがどうしようも無いと誰もが思っていた社会的課題(ペインポイント)が、ビジネスチャンスになってしまった……というわけですね。」

特にMobikeの場合『普通に考えたら商売になるはずがない』構造だそう。

GPS端末の埋め込まれた自転車は高いですし、修理車両の回収もAIルート制御やユーザー報告エコシステムで効率化している……とはいえ、そもそも利用料1元じゃ利益なんて出るはずがない。

にも関わらずサービスが稼働できているのは『プラットフォーマーによるデータの買取』が存在するからなんだそうです。

”決済情報と結びついたユーザー移動データ” 。決済サービスを提供するプラットフォーマーからすれば『○○に行った瞬間■■をサジェストできる!』といった感じで、利活用の幅広そうですもんね。

――中島
「DiDi Taxiも実際使ってみて感じられたと思うんですが、すごくサービスの質が良いですよね?

あれも優良ドライバーには優良顧客や長距離移動の注文が優先的に来るようになったり、グレードが上がれば1ドライブあたりの収入もUPする。
という仕組みあればこそなんですが、この仕組みの中では当然、身勝手な運転や低品質な接客なんてする人は減っていきます。ユーザーに選ばれなくなりますからね。

ユーザーとドライバーそれぞれの行動によってサービスの品質が上がっていくわけです。」

――中島
「デジタルトランスフォーメーション(既存のモノの置換)ではなく、デジタルによるオーバーラッピング(既存のコトをデジタルで覆う体験設計)が起こることで、サービス提供側もユーザー側も、等しく体験を向上させているんですよ。」

DiDi Taxi、確かに実際乗ってみましたが、とにかく運転も接客も丁寧。それこそ(大げさでもなんでもなく)リムジンにでも乗ってるかのようでした。

例えばタクシー会社がルールとして『お客様には丁寧に接すること』なんて設定 ⇒ 社員に一生懸命説明してまわったとしても、到底実現は不可能だったでしょうね……。元々がそういう風土ではない国だったわけですし。

ユーザーからの評価 + ジーマクレジットスコアなどによる個人の社会信用度評価。つまり『デジタルによる体験のオーバーラッピング』が起こしてしまった、分かりやすい社会課題解決の1ケースということなんでしょう。

※ちなみにMobikeについても面白い話があります。元々は『盗まれないように特殊なパーツで作っていた』らしいんですが、上記と同じような理由で『自身の社会的信用スコアを落とすような行動をしない』という人たちが増え、かつあまりにも普及しつくしてしまったため『盗む意味自体がない』状態に。結果としてごく一般的な自転車と同じパーツで作ることが可能になり、製造コストが圧縮 ⇒ さらなる普及に一役買ったそうです。

UXの抽象化と『コト』化の真の意味と価値

――藤井
「中国ではもはやオンラインとオフラインをチャネルによって分ける…ということはしておらず。『オーバーラッピングによって溶け合ったもの』として、分けずに一貫した顧客体験を長い時間軸で捉えています。

O2Oなんて言うと、『ダサい』『古い』と言われるくらいです

もはや『○○をするのに気持ちいい』なんて次元で戦ってないんですよ。」

――中島
「この国では既に『UXやカスタマージャーニーの格上げ』が起こっているんです。日本では、顧客の現状を理解し、ファネル効率を高めるための手法と捉えられるのが主ですが、そうではなく。
長期の理想カスタマージャーニーを描き、マーケティングの最上位に置く変革が起きているんですよ。

彼らが目指すUXはより抽象的な……それこそ『人々がより良く生きるためにサービスは本来どうあるべきか?』で考えられていて、そこを実現するために事業のあり方を考えていく。

経営の最上位レイヤーに理想としてのUXが設計されているんですね。」

いやこの話を日本にいながら聞いたとしたら、僕だって『またまた大げさな』とか『中国は規模だけはでかいからねぇ。そういう理想論もあるかもですね』とか言って聞き流していたかも知れません。

が、実際に目にしてしまうとそうも言えません。だってこの目で見て体験しちゃいましたから。

  • レストラン検索からタクシー配車までシームレスにつなげてしまったAlipayとWeChatによるプラットフォーム展開
  • WeChatのQRコードスキャン+ジーマクレジットによる信用可視化で実現された『無人コンビニ』
  • 生鮮食品をネットで買えたら便利じゃん!送料無料で!を実際実現してしまっている実店舗型Onlineスーパー『フーマー(盒马鲜生)』

どれも「今できるのはこの辺が限界だよね」という妥協がなく、そもそもからして『ユーザーにとってより良い生き方を提供するならこうだよね!』を超最短距離で詰めて後から事業モデルを考えたような設計なんです。

信じるも信じないも無かったです。脅威を通り越して感動でした。本当に。

――藤井
「便利なモノを作ったところで、より広義で抽象化された大きなUXを満たすことにはならない。長く続いた強大な経済成長とそれにともなう無茶苦茶な競争の中で培われた感覚……というか、『勝負の仕方』なんでしょうね。」

――中島
「ここ中国では「ユーザーにとってのシームレスな体験が大事だ」と踏めば、それこそ業界横断も競合陣営との連携も厭わずガンガンビジネスを連結させますし、そのためのプラットフォームが整っている状況にあります。

いつまでも国内で小さなUXの最適化に囚われ、かゆい所に手がとどかない自社製の『モノ』だけ作っているのではマズイ…ということに、多くの人が気づくべき時なのかも知れないですね。」

我々が日本で頑張ってモノづくりに明け暮れている間に、お隣の国ではここまで『コト』の優先とビジネス化するための土壌が進化 ⇒ 実際に稼働していたとは。

早いとこモノからコトへの価値提供・評価軸の移行を進めないと!なんて考えさせられた中国ツアーでした。

藤井さん、中島さん、本当にありがとうございました。

変わる気の無い『上』にうんざりしてるなら、beBit『China Trip』ありかも?

ちなみに冒頭でもチラッと触れましたが、筆者が今回体験させていただいたbeBit社の『China Trip』サービス。

本来は企業のTOPクラスタを現地に連れて行って、『UX設計とは小さな最適化の話ではなく、それこそ事業設計の手前にあるべき大事な大事なコトなんだ!』てのを肌で体感 ⇒ NPSの本格導入やら組織改編、それに伴うコンサルなんかをbeBitに依頼してもらうためのサービスとなっています。

  • ウチの社長はすぐ『確信できる材料を……』とか言い出す
  • 短期的ROIオンリーで新規事業が評価されてたまるか!

なんてことに頭を悩ませているプロデューサー、マーケター、ディレクターの皆様、ぜひ一度beBit社さんへご相談してみてはいかがでしょうか?

本当に大事なことに、社長&経営陣が気づいちゃう……かも?知れませんよ。

中村 健太
数多くのメディアコンサルとコンテンツクリエイティブに関わってきた経験を持つ株式会社ビットエーのCMO。KaizenPlatformのグロースコンサルとしても知られ、2014年より一般社団法人日本ディレクション協会の会長を務める。主な著書に「Webディレクターの教科書」「Webディレクション最新常識」など。

「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら中国はもう『規模だけの市場』ではない。僕らが今理解すべきデジタルオーバーラッピングの本質と威力

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