ロフトワーク流「プロジェクトコミュニケーション術」(全3回)

Webサイトリニューアルなどのプロジェクト成功率を上げる、キックオフミーティングの進め方とは?

プロジェクトの始まりに行うキックオフでプロジェクトメンバーと信頼関係を築くコミュニケーション術を2つ紹介します(第1回)。

Webサイトリニューアルや大型キャンペーンのような「プロジェクト」、その成功の鍵を握るといっても過言ではないのが「キックオフミーティング」。でも、キックオフミーティングをどう進めるべきか、どうコミュニケーションをとるべきかわからない……なんてことありませんか。

こんにちは、ロフトワークの石川です。ロフトワークでは大小含めて年間500件のWebサイト制作などのプロジェクトを日々進めています。そして、世界標準のプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK(ピンボック)」を導入し、プロジェクト実施のフレームワークづくりやリスクの軽減などに務めています。

プロジェクトの「ブレークスルー」や「新しい価値」は、それに関わるメンバーの知的好奇心と熱意によって引き出されるもので、それこそがプロジェクトの成功を左右します。

でも、そのための手法はPMBOKには書かれていないし、あまり言語化もされていない領域です。そこで3回連載でロフトワーク流の「プロジェクトコミュニケーション術」を紹介していきます。

初回の今回は、プロジェクトの始まりに行うキックオフミーティングでプロジェクトメンバーと信頼関係を築くコミュニケーション術を2つ紹介します。紹介するものは、ロフトワークのシニアディレクターの重松とディレクターの入谷が実際にプロジェクトで活用している方法です。

左:入谷 右:重松(手にしているのはプロジェクトマネジメントに関する本)

「キックオフミーティング」から信頼関係を築く

プロジェクトの始まりに必ず行う「キックオフミーティング」。キックオフミーティングとは、プロジェクトに関わるメンバー全員が集まり、プロジェクトの共有事項目指すべきゴールなどを確認し、一致団結してプロジェクトに邁進できるようにするために行う場です。

この大事なミーティングで情報をどう共有し、互いの共通認識を合わせてゴールを確認し、信頼関係を築いていったらよいか。具体的に紹介します。

ちなみに、プロジェクトの決定権を持つ人も巻き込んでキックオフミーティングを進めるといいでしょう。

①キックオフミーティング前にプロジェクトマネジメント計画書を用意するパターン
成果物があらかじめ明確なとき

キックオフミーティングが始まる前に、次のような要件をまとめたプロジェクトマネジメント計画書(以下、PM計画書)を作り、その内容を確認しながらプロジェクトメンバーとの理解を深めていくパターン。

  • プロジェクトの背景・目的
  • ターゲットユーザー
  • プロジェクト前提条件
  • プロジェクトスコープ(作業範囲)
  • 品質計画(対象ブラウザなど)
  • コスト
  • スケジュール
  • ステークホルダー
  • コミュニケーション計画(コミュニケーションルールや、使用するコミュニケーションツールなど)
上記の画像は入谷が実際に作成したプロジェクトマネジメント計画書 1/2(どんなドキュメントなのか想像できる程度の解像度です)
上記の画像は入谷が実際に作成したプロジェクトマネジメント計画書 2/2

PM計画書とは、「このプロジェクトは、こんなゴールでこんなメンバーでこんな感じで管理していきます」という計画を定義する資料のことです。このパターンはWebサイトの要件がはっきりしているなど、アウトプットが明確なものが適しています

初対面の相手と「ここまでわかっているんですがこれで合っていますか?」「そうですね、でもここはこうですね」というのを確認しながら、押さえておかなければならない要件を順番に確認していくのに非常な有用なツールとして使えます。

キックオフミーティングではこのPM計画書をベースに、さらにクライアントの要件をヒアリング・コミュニケーションをして互いのプロジェクト理解を深めていきます。

最初からオフィシャル感あるドキュメントを使って必要事項を確認していく手法は、抜け漏れなく確認できると同時に話が脱線しにくい、そして同時に計画書もほぼでき上がってしまうというメリットもあります。

②キックオフミーティングでスケジュール、ワイヤーフレームを作るパターン
期間が短いとき

最初から半日がかりのキックオフミーティングを設定し、スケジュールからワイヤーフレームまで作りきってしまうパターン

特にプロジェクト期間が短いプロジェクトでは、最初からキックオフミーティングの時間を半日とり、その場でお客さんと一緒にWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)をつくりながらスケジュールまで落とし込む、さらにワイヤーフレームの制作も行い重要なコンテンツの優先順位付けまで行う場合もあります。

このパターンは、特にクライアントの確認時間が確保しにくいときに、スタートダッシュでプロジェクトのアウトプットを形にしながら一緒に作れることがポイントです。

とあるプロジェクトのWBS・スケジュール例(どんなドキュメントなのか想像できる程度の解像度です)

ロフトワークでWBS・スケジュールを作成する場合は、ほとんどのメンバーがSmartsheetを用いています。

相手を理解しお互いの考え方、視点、文化を確認する

紹介した2パターンはあくまで一例で、ロフトワークの標準パターンというわけではありません。プロジェクトの数だけキックオフミーティングの数がありますが、まず「プロジェクトを一緒に進めていくチームメンバーを知る」ことを重点に置いて進めていきます。

そのメンバーを知っていく過程で、「プロジェクトの目的は何か、成果物は何か、ユーザーへどのような体験を提供したいのか」といったプロジェクトの「意義」を詰めていきます。

「たとえば、あなたは良いUXデザインとはどのようなものだと思いますか? あなたは毎日使いたくなるサービスとはどのようなものだと思いますか?」など、「わざわざそれを聞く必要があるのか?」と思うような話をしてもらうところから、チームメンバーの考え方や、視点、文化を確認し合って、意識を合わせていくのです。

キックオフミーティングでは、答えを決めるのではなく、プロジェクトが向かうべき方向性を決めることを大事にし、そしてメンバー全員が同じ方向を目指すこと。それが良いチームを作るためのスタート地点になります。

プロジェクトマネジメントを本気で学びたい人への豆知識

前述しましたが、ロフトワークでも導入しているPMBOK(ピンボック)。もし読んだことがない! という場合は、Webの制作現場でも使えるような内容にまとめ2008年に出版した書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』を現在全文無料ダウンロードできるので、ぜひ読んでみてください。

ちなみに、「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)って何ですか?」と聞かれるので「朝、たまごを焼く」という体験を例に説明します。

「朝、たまごを焼いてください」と頼まれたとします。依頼者は家族でも友人でも恋人でも誰でも構いません。たまごを焼くことを依頼されて、あなたが最初に行うことは何でしょうか。

「どんな焼き方がいいか?」「いつまでに、できていればいいか?」「どのくらい食べるか?」など、相手に確認するのではないでしょうか。その際に考えなければいけないことを網羅するための指針がPMBOKの10の知識エリアなのです。

たとえば「どんな道具を使うのか(調達マネジメント)」「誰か作業を分担できるのか(人的資源マネジメント)」「焼き加減を失敗した場合どうするのか(リスクマネジメント)」など。PMBOKのフレームワークを使うことで、全体を抜け漏れなく確認していきます。

「言わなくてもわかるだろう」と思い込むのではなく、細いことだけど念のため確認しておくという姿勢でプロジェクトに取り組むことによって、つくるモノの輪郭をよりはっきりとさせていきます。

そういったことを確認するのに、役立つのがキックオフミーティングなのです。

次回は、チームビルディングに役立つコンセプトマップの作り方を紹介します。

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