リスティング広告運用でビジネススキルも磨く

ちょっとこわいけど使いこなしたい! 「リスティング広告の自動入札」活用3つの心構え

なぜ今、入札の自動化について考えるべきか? 自動入札活用の成否を左右する3つの心構えとは?

寳:御社のリスティング広告ですが、アカウントを見る限り、かなり細かく価格調整をかけているのですね。

ウェブ担当者:ええ。デバイスはこれ、曜日時間帯はこれ、地域、新規/リピーター……。正直もうわけがわからなくなってきてます……。

寳:そうでしたか。入札を自動化することは考えてみましたか?

ウェブ担当者:先輩が昔やったとき機械が暴れて大変だったと言ってて、それから怖くて手を出せないんですよ。暴れるの、怖いじゃないですか。

寳:なるほど。では今日は、「リスティング広告の自動入札機能」について話しましょう。

なぜ今、入札の自動化について考えるべきか

リスティング広告を運用する担当者は、出稿している広告の入札価格をこまめに調整しています。運用経験者であれば、朝一番、日課のように管理画面を開いてパフォーマンスを確認し、広告グループやキーワードのレベルで入札単価を上げ下げしたことがあるでしょう。

基本的には、伸ばせる可能性が高いと考えられる広告の入札を強め、見込みの薄い広告の入札を弱めたり、入札を停止したりします。地味ながら、予算内でできる限り多くのコンバージョンを獲得し、広告を通じた収益の増加を狙うための重要な作業であると言えます。

しかし今は、この入札を「自動化」する手法が一般化しつつあります。それは、入札価格を調整する「頻度」と「精度」において、メリットが大きくなっているからです。

そこで今回は、高機能なGoogleの自動入札「AdWordsスマート自動入札」について、焦点を絞って解説していきます。

まず「頻度」ですが、人間が調整を行うときは、多くても1日数回が限界です。対象となるキーワードや広告グループが増えれば、その分だけ手間は増え、時間もかかってしまいます。これを機械が自動で行うと、オークションごと、つまり「ユーザーに広告が表示される機会が発生するごと」に入札価格が調整できます。

次に「精度」ですが、人間が調整を行うときは冒頭の会話で挙げたように、さまざまな要素(シグナル)を組み合わせながら、人間が頭で考慮・判断する必要があります。これは、数が多いと骨の折れる作業ですが、機械が行うと、数千~数万通りのシグナルの組み合わせでも、考慮・判断が可能になります。

次の図をご覧ください。これは、AdWordsスマート自動入札が、自動入札を行う際に考慮するシグナルです。

基本的なシグナルだけでも、人の手で入札を細かく調整することが大変なことだと想像できるでしょう。

AdWords スマート自動入札は、Googleの機械学習技術にもとづく、コンバージョンベースの自動入札機能です。機械学習を使って、広告のオークションごとに最適化が行われます。

自動入札機能によって、人間であれば困難なシグナルの組み合わせを、オークションごとに考慮して入札価格を調整できるのです。

自動入札のしくみ

自動入札と一言で言っても、具体的にどんな調整がされているのかイメージがつかみにくいでしょう。ここでは、AdWordsスマート自動入札のなかでもよく使われる「目標コンバージョン単価」(旧:コンバージョンオプティマイザー)を例に説明します。

まず、オークションごとのさまざまなシグナルにもとづいて「推定CV率」が算出されます。推定CV率は、人間の判断に即して言い換えると「このくらいの割合でCVが取れそうだ」という予測です。

そして、あらかじめ設定する「目標CV単価」、つまり「広告主(担当者)が設定したCV1件に出せる金額」を達成するように、「入札単価」が調整されます。

つまり、ユーザーに広告が表示される機会があるたび、無数のシグナルをもとに見込みが判断され、目標を達成できるよう入札単価が上げ下げされます

このように、無数のシグナルの組み合わせをオークションごとに考慮し入札価格を調整するのは、正直にいって人間の手作業だけでは、ほぼ不可能です。

筆者自身、長年広告を運用していますが、実際の運用は、これまでの広告運用の経験則や対象サイトの背景の理解なども含め、大まかなあたりをつけ選択肢を絞り込んだうえで行っています。

広告運用の現場では、よく「細かな調整を行う」という言葉が使われていますが、機械の処理能力の量やスピードを考えれば、機械で行う自動調整のほうが、その言葉にふさわしい働きをしています。

すべての入札が機械で行われるべきかの議論はここでは置くとして、昨今ニュースでもAIがよく話題にあがります。今後さらにAIが進化することを鑑みると、入札の業務は、AIによる「自動化」によって、効率的かつ高精度に行えると考えたほうがよいでしょう。

入札にかかっていた時間が節約できれば、他のことに時間を割けます。入札作業をこまめに行っている担当者ほど後回しになりがちな、でも本当は重要な業務があります。たとえば、「自動化」により入札を効率化することで、以下のような仕事に時間を充てられると理想的です。

  • これまでとは違う広告メッセージの切り口を生み出す
  • マーケティングでビジネスを伸ばすための、中長期的な計画を立てる
  • 新しいターゲットとなり得るユーザーの行動や好みを、深掘りして調べる

なお、リスティング広告運用に携わる担当者は、運用できるが故に働く時間が長くなりがちでもあるのが実情です。早めに仕事を切り上げて身体を休めたり、リフレッシュしたりするのも、継続的に良い仕事を続けるうえで重要なことだと筆者は考えています。

今後も自動化の仕組みは進化を続けるでしょう。「自動入札の仕組みはよくわからない」「機械に任せるのは不安だ」といった先入観を抱いていては、企業としても、1人の担当者としても、将来の成長機会を狭めてしまいます。正しい知識を身につけて、ビジネスに活用していきましょう。

自動入札は「入札の権限委譲」、マクロマネジメントで向き合う

自動入札を使うときは、「人間と機械の関係」を組織における「マネージャと現場の関係」に置き換えてみるとわかりやすいでしょう。マネージャの現場への姿勢について、「マクロマネジメント」と「マイクロマネジメント」という言葉を聞いたことがある方はいないでしょうか。

  • マクロマネジメント

    現場に対してマネージャは、全体の方針やゴールを示す。実現方法は現場に権限委譲して任せるため、現場が自分で判断しながらゴールを目指す。

  • マイクロマネジメント

    現場に対してマネージャは、全体の方針やゴールというより、方法を細かく指示する。現場は権限を与えられないため、独自に決断して動くことはできず、指示通りに作業を行うしかない。

あなたの普段の役割がどちらだとしても、自分をマネージャだと思って、現場の機械と向き合うことを想像してみてください。機械に依頼する仕事は「単純作業」だと思いがちな方は、後者のマイクロマネジメントのように、何もかも指示しようとするかもしれません。

このようなマイクロマネジメントに相当する機能として「自動化ルール」というものがあります。ここでは詳細の説明を省きますが、「対象」「条件」「頻度」「変更内容」を細かく指定すると、機械がそのとおりに動く、というものです。

しかし、実際の「入札の自動化」は、前者のマクロマネジメントに近い向き合い方になります。人間である私たちは、何を目指すのかという方針と目標を示し、やり方は機械に任せます。すると機械は、その目標達成のために必要な要素をデータから学習し、方法を取捨選択して実行します。

自動入札活用の成否を左右する、3つの重要な心構え

このマクロマネジメントの姿勢は、自動入札を活用するうえで、成否を左右する重要な心構えにも通じるところがあります。

特に重要なのが次の3つの観点です。いま現場にいる方も、かつて現場にいた方も、自身に照らし合わせながら、機械との関わり方を考えてみてください。

1. 「ある程度、成果が安定している対象」を選ぶこと

海のものとも山のものともつかない新人のとき、過度な期待をされ、成果を出せずに苦しんだ経験はないでしょうか。機械に苦しみの感情はないと思いますが、データが不足している状況で過度な期待をするのは禁物です。

自動入札を設定すると、機械学習によるモデルが構築され、以降は、結果に応じて継続的にモデルが更新されます。この構築にかかる初期の学習期間は、過去のコンバージョン数が多いほど短く済みます。また、CV単価の変動も小さくなります。

自動入札を軌道に乗せるには、「始めたばかりで実績のないキャンペーンや広告グループ」より、「すでにある程度、成果が安定したキャンペーンや広告グループ」を選択するほうが、はるかに成功の確率が高まります。

この学習期間とコンバージョン量の関係を利用して、実際のコンバージョンよりも、やや手前のマイクロコンバージョンをセットし、学習期間を短縮するというやり方も可能です。

2. 適切な目標値、戦略を選ぶこと

あきらかに達成が無茶だとわかる目標を与えられ、モチベーションが上がらなかった経験はないでしょうか。機械には同様の心の動きはありませんが、可能性がなければ打席に立たなくなります。つまり、高すぎる目標値を設定すると、入札機会が失われ、CVを増やすどころか減ってしまうことが起こります

過去にコンバージョン単価5,000円で獲得していたキャンペーンがあるとして、いきなり目標コンバージョン単価を500円で設定するのは無理があります。過去実績に即した、妥当な目標から始めなくてはなりません。

また、AdWordsをはじめとするリスティング広告には、ビジネス目標(方針)に応じて自動入札戦略が用意されています。コンバージョン数を増やすのが目標なのに、露出度の向上を目指す「目標優位表示シェア」を選べば、ミスマッチが起きかねません。方針に沿った自動入札戦略の選択も重要です。

3. むやみに干渉せず、しかし注意は怠らないこと

任せられたはずの仕事に上司からいちいち口出しされて、モヤモヤした経験はないでしょうか。機械はちょっとした軽口でも、人間のように「軽くスルーする」ことをしません。そのため、よく言えば設定通りに、悪く言えば杓子定規に処理を行います。

一方、自動化を設定した人間が、設定直後の数字が期待どおりでないことに我慢できず、結局手を動かしてしまうことがよく起こります。ここで、大きな変更が加えられると、これまでの入札モデルの軌道修正をしなくてはならないため調整に時間がかかり、かえってパフォーマンスが安定しなくなることがあります。

適切な目標、設定を行ったと考えるなら、設定直後のパフォーマンスの変化に一喜一憂せず、静観することが大事です。

リスティング広告のコンバージョンは、一般的に広告がクリックされた日までさかのぼって計測されます。リスティング広告にコンバージョンのデータが適用されるまでには、クリックからコンバージョンまでの1サイクル分の時間がかかることを、心に留めておいてください。

ただし、静観イコール放置ではありません。成果にあきらかな変化(Googleでは80%の増減としています)があった場合、すばやく原因を調べて対応するべきです。

  • 広告運用の目標設定が適切ではなかった
  • 競合や市場環境などの外部要因が急激に変化した
  • CVタグが抜けて正しく計測できていなかった

急激な成果の変化には、さまざまな原因が考えられます。いったん自動入札を解除するなどしてから、問題解決と再開、あるいはその他の対応を行いましょう。

かけた入札戦略が今どんなステータスにいるか、目標に対してどのくらい達成できているかは、AdWordsスマート自動入札の管理画面から確認できます。該当のキャンペーンにチェックボックスを入れた状態で、「キャンペーン>入札戦略>入札戦略のレポートを表示」で確認可能ですので、必ず見るようにしてください。

入札戦略のステータスは、大きく「制限なし」「調整中(学習中)」「制限あり」の3つに分かれます。

まず「制限なし」は、入札戦略が有効であるということです。これが出ていれば基本的には成果を追っていくようにしてよいでしょう。

「調整中(学習中)」は、キャンペーンに変更が加えられたため学習期間であることを示しています。加えられた変更が自分の意図しているものかをチェックした上で、引き続きこのステータス欄を確認するようにします。この期間に限らないですが、できるだけキャンペーン内の設定を動かさないほうがよいでしょう。

最後に「制限あり」ですが、よくみるのは「入札単価制限」で、クリック単価の上限のキャップがついていると出てきます。機械が実力をじゅうぶん発揮できない設定であることを示しているので、状況によっては、その制限の解除を検討してください。

おそれずに機械と協力し合い、成果を出していこう

ここまでAdWordsのスマート自動入札、特に目標コンバージョン単価を題材にしながら、

  • なぜ今、入札の自動化について考えるべきか
  • 入札にかかっていた時間が節約できれば、他のことに時間を割ける
  • 自動入札のしくみ
  • 自動入札活用の成否を左右する、3つの重要な心構え

などについて話してきました。

直接的にでも間接的にでも運用型広告を触っている人間にとっても、自動入札のようなAIが、身近な存在になりつつあります。AIの活用経験は、今後どのようなキャリアを描くにしても貴重なものになるはずなので、どうか大切にしてください。

まだAIと自動入札の付き合いが深いとはいえない現段階では、機械がいったいどう動くかの予測がつかず、怖いと感じることもあるでしょう。たとえば自動入札をかけると、手動で運用してきた担当者が持っているイメージと、まったく違う形で動き、しかも成果に結びつくことがあります。これに対して、人間に納得できる答えを出せないこともあります。

しかし、運用型広告を活用する目的は、最終的には「成果を得るため」です。正しく成果が出ていればよしとするほうが、ビジネスの成果を伸ばしていけるはずです。おそれることなく、機械と向き合っていきましょう。

今回、紹介した自動入札はAIができることのほんの一部であり、今後AIは広告のさまざまな個所で存在感を増すと予想されます。そうなったとき、私たちはこれまで以上に機械と協力し合い、成果を出すことが大切になるはずです。

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