企業ホームページ運営の心得

お客は合理的な判断をしない。ニコイチに見つける消費者心理

多くのお客は得をしたいと考えるものですが、損していることが少なくありません
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の442

お客の抱える非合理性

Allan Danahar/DigitalVision/Thinkstock

多くのお客は「得をしたい」と考えるものですが、よく見ると「損」していることが少なくありません。つまり、経済合理性では説明できない行動を取るのです。これをひと言で言い表すなら「消費者心理」。その代表例が、2つセットでお得とうたわれる「ニコイチ」です。ニコイチは、ネット通販にも応用ができますが、まずお客の「損な行動」と、そうする「理由」について見ていきます。

スーパーマーケットの価格設定には段階があり、もっとも安い設定を「底値」と呼びます。我が家周辺の牛乳の「底値」は138円、一般的な特売なら148円のため、その価格差は10円です。しかし、買い物にかかる労働は無視されがちです。

昨年、東京都の最低時給は900円を超え、最低時給をもとに計算した10円の労働時間は約40秒です。いつも利用する店が「底値」なら得をしますが、わざわざ別の店に足を運べば、人件費ベースで損をするのです。それでも、スーパーの底値を求めて東奔西走するお客は少なくありません。

トイレットペーパーの保管料

こちらも特売されることの多い「トイレットペーパー」。底値だからと「買いだめ」する人もいます。しかし、一般的な12ロール(4本3段の包装)が占有する床面積は、おおよそ0.16㎡(40cm×40cm)。仮に40㎡、月額家賃10万円のマンションに住み、翌月までまるまる未使用ならば、トイレットペーパーの「保管料」として100円を支払っている計算です。

さらには、「玉子1パック98円」をゲットするために、開店の1時間前から並ぶお客もいます。この場合、先の計算による1時間の人件費を加味すれば、約1,000円で玉子を購入していることになります。

10円のために自転車のペダルを漕ぎ、100円の保管料を負担してトイレットペーパーを買いだめする。1,000円の相当の玉子を購入するその心情を、アラフォーの専業主婦は「楽しいから」だと述べます。

「特売」と銘打たれた商品をゲットする行動が楽しいといいます。いわば「特売コレクター」です。「ガンダム」と目にすると手にしてしまう、ガンプラ世代の感覚に近いかもしれません。安くもない商品にまで「特売」と銘打たれる理由です。ただし、あまりお得でない商品に適用し過ぎると信頼を失うのでご注意ください。もちろん、ネット通販でも同じです。また、実績のない価格表記は景表法に触れるおそれがあります。

ポイント祭りの正体とは

コンビニはもちろん、ネットショップでも付与される「ポイント」も、経済合理性から見れば「得」とはいいがたいモノがあります。

毎週水曜日はポイント2倍

という企画は、ポイント還元率が100円に対して1円分=1%が付与されるならば、「1%の値引き」に過ぎません。ポイント5倍でも5%、10倍と喧伝してもわずか1割。

さらに、現金値引が差額を別の店舗で使えるのに対し、ポイントは自分の金の使い道が限定される不利な取引条件ですが、同様のセールが各所で繰り返されるのは、売れる=効果があるからでしょう。各種ポイントカードを、髪飾りのシュシュで束ねて持ち運ぶポイントマニアの主婦は言います。「(ポイントを)貯めるのが楽しい」と。ここでも経済合理性を上回るコレクター心理を見つけます。

ポイントはパッと目に入る数字

なお、以前にも紹介したことがありますが、「ポイント」は使い忘れる人がいて、それは企業の会計において「特別利益」に計上することができます。経営者としても実に美味しいのがポイント。各社がポイントの導入に走る理由です。

そもそも、大半のお客は得をしたいと願っていても、経済合理性なる視点をもっていません。だから、98円の玉子、「ポイント2倍」といった、「パッと目に入る数字」に反応します。そして、目にした数字だけを材料として損得や可否を判断する傾向が強いのです。街角に溢れるポイント2倍が雄弁に物語ります。

実はこれが、企業の販促(企画)が失敗する理由の1つ。会議ではお客自身の損得まで電卓を叩いて計算し、企画をブラッシュアップしていきますが、その結果、消費者心理と乖離することがあるのです。なぜなら、店頭で電卓を叩くお客はほとんどいないから。スマホで価格を比較していても、パッと目に入る数字だけで判断します。

番組終了後の30分

「パッと目に入る数字」を上手に利用しているのがテレビ通販です。「番組終了後の30分間、オペレーターを増員しています」と案内し、時間内の注文を促しますが、通販番組は深夜帯だけでなく、地方局や衛星放送、ケーブルテレビでも四六時中、放送されています。ここで、それぞれのオンエアに合わせて、商品説明もできる電話オペレーターを「30分間だけ増員」する方が難しいと、論理立てて考えるお客はいません。

さらに秀逸に「消費者心理」を刺激しているのが、始めに登場した「ニコイチ」です。

ニコイチという言い訳

まったく同じフライパンや、自動車運転用の「日よけ」、角度調整できることがセールスポイントの「折りたたみテーブル」が2個で1セット、つまり「ニコイチ」として、1個と同じ値段で売られています。

一番驚いたのは「杖」の2個セット、スキーのストックではありません。歩行を手助けする杖です。手元に装備されたライトは便利そうですが、同じものよりも、半額で1つだけ欲しいもの……とは「経済合理性」からの視点ですが、この「2つ」こそが消費者心理を刺激するのです

肩こりが改善されるという触れ込みの、低反発枕を気に入った自営業の佐藤正さん(仮名)。

そこそこ高額だったのですが、義理の息子の肩こりが酷いと耳にします。パンフレットに「2つ買うと50%オフ」の文言を見つけてすぐに購入。2つ買うと50%オフとは、表現が異なるだけで「ニコイチ」です。そして、1つを義理の息子に「お裾分け」します。

つまり、「ニコイチ」とは、家族や友だちと「シェアできますよ」「喜んで貰えますよ」「無駄遣いじゃないですよ」と、お客に「言い訳」を提供するための仕掛けです。

お客はときどき非合理。それが「消費者心理」であり、前回紹介した「売れているものはすべて正解」という師匠の言葉へとつながります。

今回のポイント

お客の行動は経済合理性だけでは説明できない

ニコイチとは購入の言い訳

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