MWCでガジェットにだけ注目するのはマーケター失格。モバイル革命「大騒ぎ」の2つの本質

MWCというとIoTやウェアラブルといった「モノ」に注目が集まりがちだが、ガジェットにだけ注目していては、このモバイル革命の本質を見逃してしまう。

世界のモバイルの最前線でなにが起こっているのか。なぜモバイルがここまで熱いのか。大規模イベント「MWC」の取材から、ここに10万人弱の人が集まる理由の本質の考察をお届けする。
MWCレポートというとIoTやウェアラブルといった「モノ」に注目が集まりがちだが、ガジェットにだけ注目していては、このモバイル革命の本質を見逃してしまう。

バルセロナのフィラ・デ・バルセロナ会場

世界最大のモバイル見本市のMWC2015(モバイル・ワールド・コングレス)が、スペイン・パルセロナのフィラ・デ・バルセロナ会場にて3月2日~5日まで開催され、世界各国から9万5000人が集まった。MWCは、GSM関連の携帯電話事業者の業界団体「GSM Association」が主催している世界最大級のモバイル関連展示会である。

今回、この地に足を運んだのは、モバイルの最前線でなにが起こっているのかを確かめるためだ。ウェアラブル、IoT(Internet of Things)など、モバイルを取り巻く状況は、いま圧倒的な猛スピードで突っ走っている。その最前線にはなにがあり、だれがプレイヤーで、どんな技術、どんなガジェットが登場しているだろうか。

折しも、今年のMWCのテーマは「イノベーションの最前線(The Edge Of Innovation)」でもあった。

訪れてみると、ヨーロッパ中心の携帯電波の基準となっているGSMが主催とあって、やはりヨーロッパ色の強く、アフリカ勢などが新鮮な面々がそろっている。目立つプレイヤーにはエリクソンやNokiaなどの大陸メーカーがいて、続いて各国の通信企業、そしてクアルコムなどアメリカ勢が続く。一方、目立っていたのは、ZTEやレノボ、Huaweiなどの中国・韓国勢がギラギラとして迫力満点の巨大ブースを誇っていた。

神殿を思わせるHTCのブース。荘厳です
(左)ハイパーなイメージのレノボ。まるでロボットレストラン。とにかくド派手な演出
(右)ZTEのコンパニオン。バルセロナのセニョリータたち

各ブースでは、自動車の自動運転テクノジー、基盤のインフラシステム、当然だがハイエンド・ローエンドを含めた最新の携帯端末、また、FirefoxやWindows Phoneなどの新しいOS、Operaのブラウザ、スマートウォッチ、そしてIoTに属する数限りないフィットネス器具やウエアラブル時計などが、多数展示されていた。

もちろん、これら全部を把握・理解しようとすると、4日間の開催期間でも足らない。ホール8まである会場と、ベンチャーの集まる別会場で開催された4YFNも含めると、広さ、ジャンルの多さ、規模、アイテム数の多さに圧倒される。私自身は、ホール7と8のネットマーケティグやサービス群に注力して回ってきた(これは後日レポート予定)。

しかし、「なぜモバイルがここまで熱いのか?」「モバイルだけがすべてでないはずだ」、といったそんな疑問が生じてしまう。

別会場で開催された4YFN。スタートアップまもない若い企業と投資家たちがあつまっていた。写真はカンファレンス用のテント

大騒ぎの理由その1「モバイルでつなぐしかない地域がスゴいから」

大騒ぎの根拠だと思われる要素の1つが「モバイルでつなぐしかない地域」だ。

国際電気通信連合(ITU)の調査によれば、現在、世界のインターネット接続人口は30億人に達した。しかし、全世界人口の73億人のうち60%以上の43億人は、インターネット未接続だという。

そしてその9割がアフリカ、インド、南米などの第三国にいる人たちで、彼らがインターネットに接続するには、モバイルしかないということなのだ。

ナイジェリアを中心とするアフリカの最大のデジタルメディア企業のテラゴンにて

つまり、これら43億人の未接続者、デジタルデバイドの人たちを繋げようとする過程において、インフラを含めいろんな側面や隙間に対して、巨大な投資マネーが動く。それにより新しいビジネスが生まれ、新しい商圏が拡大していくということだ。

これは、ネット上に新たな中国やインドのような巨大な経済圏を生みだそうとするようなものだ。

モバイル革命というゴールドラッシュの本質はここにある。だれもが血眼になり、活発に商談し、議論を始めているのは、これから広がる市場に向けて、猛烈な陣取り合戦を始めているからだ。

MWCには、各国から多数の記者たちが集まり、遅い時間まで原稿を執筆していた

一方で、日本のモバイルへの関心は、まだまだ「スマホ対応」というレベルに追われている感じではないだろうか?

モバイルへの企業投資は、まだまだ本格化していないと感じているからだ。なにせ日本の街中では、Wi-Fi環境はまだまだ進んでいない。

もう1つの理由
「ライフスタイルの変化 ―― Mobile is Everything!」

陣取り合戦の一方で、見逃してはいけないのが、加速度的に進んでいるモバイルを利用した生活の変化である。すでにスマートフォンの利用時間がPCのそれを大きく上回ってしまった。生活のなかでPCを中心に使う人の割合は、劇的に少なくなってきている。

モバイルがあれば、旅行中でも地図やガイドブックはいならい。日常の買い物もネットで済ませられる。

そうした状況を背景に、リアルなデパートは「見本市」化しはじめている。そして、商売の効率を高めるクーポンやメンバーカードなどのパフォーマンスツールなどは、すべてモバイルに吸収されつつある。

会場に多くみられたショッピングディスプレイ。モニターに商品が陳列されQRコードで購入していくという仕組みだ

生活に変化が起こるにつれ、新しいビジネスが生まれて活発化していきつつあるのがモバイルの世界だ。

  • 第三国への開拓とグローバル経済圏
  • 新しいライフスタイルへの適合ビジネス

この2つのうねりこそが、モバイルビジネスがダイナミックに動いている理由だ。世界の主要プレイヤーも、だからこそ、ここに集まっている。

ソフトバンクの孫正義氏も次のように語る。

モバイルを制するものがインターネットを制する。

もう1回だけ、最後のスタートラインの仕切り直しが始まる。

コンテンツマーケティングの視点からどうコンテキストをくみ上げるかにジオターゲティングやリアルタイム計測などを活用する実験。事例はビクトリアシークレット

ガジェットにばかり注目しても本質がわからない

しかし、日本に伝えられるMWCの報道といえば、商品紹介やガジェット紹介が大半を占めている。ウエアラブル、IoTグッズ、新しいOS、5Gなどの通信環境、さらにクルマの自動運転など、ただモノやテクノロジーの紹介に終始している感が強いのが、残念だ。

「モバイルへ関心を寄せる人=ガジェットフリーク」のように見えてしまうのが、残念ではある。

もう1つ残念なのが、出展するブースに日本企業が少なく、キーノートのスピーカーにも日本人登壇者が少ないことだ。欧米のイベントだが、サムソンやレノボ、ZTE、エイサーなどの中国、韓国勢は圧倒的なスペースを確保し、しかも装飾や演出にもこだわり尽くしている。

それに比べて、日本の企業ブースはコンサバティブで、迫力が足らない。おとなしくきれいに展示している(つまり地味)と感じてしまうのだ。2000年頃には、日本企業は圧倒的に存在感があった印象がある。

また日本のベンチャー系企業ブースはどうか? 今回は、MCF主催の日本コーナーがホール8の一番奥の位置に10社ほどが参加していた程度だ。イスラエル、フランス、カナダ、ベルギーなど各国ブースがお国柄を表したさまざまな演出をしているのに比べ、少々モノ足らない。

MCF(社団法人モバイルコテンツフォーラム)が主催して、日本企業を紹介

同じことはカンファレンス会場でもいえた。日本人で登壇するスピーカーがほとんどいないという点だ。メインとなるキーノートには1人も参加していない。「英語ができない人が多いから」という指摘もあるが、逆に韓国、中国のスピーカーたちは、迫力たっぷりになまりの強い英語でスピーチを行っていた。

40のキーノートを始め、カンファレンスが至るところで繰り返された。写真は「コンテキストが王様」のセッションで話すKeynote社CEOのジェニファー・テハダ氏(左)と「バーチャルとリアルの狭間の最先端」セッションに登壇したエッジな企業のメンバー

いずれにせよ、Mobile is Everythingの日が近づいている。

モバイルのとらえ方を、まだ

途中段階商品
ゲーム機
贅沢品
マニア向けのガジェット

といったように考えているのならば、その考えを捨てるべきだろう。

モバイルとは、今後、ビジネスの中心、生活の中心、日常の中心になるツールそのものだという認識に変えて行く必要がある。

そして、やがて国境を超えて世界と繋がり、訪れるグローバル経済圏での基盤コミュニケーションツールになるものだ、という認識に変えていかなければならない。

都市経営のイノベーションの旗手として認識されているバロセロナ市長のシャビエ・トリアス氏は言う。

バルセロナを、世界有数のスマートシティの1つとして確立することを目指しています。

それぞれの国が必死でモバイルに取り組んでいるのだ。われわれは、どうモバイルに取り組んでいくべきか考えられずにはいられない。

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