企業ホームページ運営の心得

みんビズでWeb屋がなくなる可能性

15分でサイトを作れる「みんビズ」の登場によって、街角のホームページ屋の仕事はどうなるでしょうか
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百参十四

グーグル、街角に参戦

知識や経験がなくても15分で独自ドメイン名のサイトを立ち上げられる「みんなのビジネスオンライン(みんビズ)」が始まりました。すでにご存じの方も多いのでなぞるに留めますが、日本企業の99.7%を占める中小・零細企業をターゲットとし、グーグルと協力企業によって開始されたサービスです。サイト制作は直感的操作が売りのCMS「Jimdo」が提供され、当初1年間の利用料は無料で、2年目以降、月額1,470円の利用料が発生します。

サービス発表の報道では、日本企業のWebサイト保有率は24%であるとし、ネット上での出会いがない「機会損失」を惜しみ、「みんなの物語」として公開されている伊豆諸島の神津島での実証実験から、中小企業にとって強い味方になると記事は結びますが、本当でしょうか。

グーグルがサイト制作に参戦したことで、街角のWeb屋の仕事がなくなるのではないかという声も聞こえてきます。だれでも簡単に構築でき、更新もできる「みんビズ」の登場によって街角のホームページ屋の仕事はどうなるのか。「中小企業専門」をうたう筆者の結論です。

まずはやってみなはれ

というわけで9月のシルバーウィークを利用して「みんビズ」を利用してみました。登録の流れは次のようになります。

まず、ウリの1つである「独自ドメイン」を指定し、会社の業種を選びます。次に社名や住所などを登録すると、パスワードが記されたメールが届きます。メールにも記された「独自ドメイン」にアクセスして「ログイン」すると「編集モード」となり、会社概要や電話番号などを入力して立ち上げ完了です。

実際には本人確認のための電話認証などに時間をとられ、15分で「立ち上がる」のは、せいぜい「テンプレートの公開」まででしょう。ちなみにわたしは「サイト完成」まで2時間かかりました。

結論はいつも同じ

さて、みんビズ。中小企業の現場を知るものとしては「むずかしい」と結論づけます。みんビズは興味深い取り組みで、可能性に期待はしますが、そもそも論で発表内容にボタンの掛け違いがあるからです。

みんビズに触れ「Jimdo」の直感的操作性のすばらしさに興奮しました。しかし、会社案内すらない会社が多い中小企業の現場に立てば、業務内容や取引の流れなどの文章が、さらっとでてくることはありません。また、実際の中小企業ではこまごまと多岐にわたる業務を展開していることが多く、業種を1つに絞らせるのが一苦労で、USP(Unique Selling Proposition)となる「ウリは何か」と尋ねて即答できる会社は少数です。逆に「なんでもできる」という回答が多く、それをすべて入力するとすれば一大事業です。

素人の限界

簡単にいえば「コンテンツ制作」が難しいのです。コンテンツは文章だけではありません。先の神津島のサイトを見ると、写真のすばらしさが目を引きます。他にもアイコンやタイトルなどの「画像処理」は、知識や経験がない素人にできるものではありません。実際に作業した人は素人だとしても、プロの助言や指導があり成立しているものであることは明白です。ついでにいえば「神津島村商工会 × 神津島観光協会」のPRサイトのイメージ動画と、「みんビズ」のCM映像では同じシーンが幾つもあり、プロの影がちらつきます。非難しているのではなく事実の確認です。

中小企業こそホームページを活用すべき

わたしがホームページ専業に切り替えた時の「確信」であり、みんビズの挑戦を応援しています。しかし、コンテンツ作りには「プロの手(経験者の手)」が不可欠で、ここに街角のホームページ業者の飯の種を見つけるのです。

だれが作るかではなく、何を作るか

みんビズ提供者側も、素人だけでは無理とみている節があります。中小企業基盤整備機構とITコーディネータ協会が絡んでおり、全国の商工会などを通じて、中小企業向けセミナーを開くというのです。もちろん、ネットでのサポートもうたっていますが、あらかじめリアルでの接点を準備しているところは、ネット素人のための「受け皿」として評価すべきでしょう。

大切なことは「何を作るか」です。中小企業のWeb担当者が作っても、ITコーディネータ協会でも、街角のホームページ屋でもよいのです。そして「ホームページはコンテンツが命」という結論に回帰します。また、「みんビズ」の案内に「14の各業種に最適化した約100種類のデザインをご用意」とあります。つまり、

ライバルと同じテンプレートを使う

こともあるわけで、箱が同じなら「中身」で差別化するしかなく、「みんビズ」を利用するなら、コンテンツがより重要になるということです。

詐欺とセミナーと自己啓発

いつもならグーグルの動向に大騒ぎするWeb業界関係者が今回は比較的静かです。それは彼らの多くが、中小企業の「現場」を知らず、さらにいえば有料化されても月額1,470円では「旨味」が少ないからでしょうか。だからこそ、地道にコンテンツ作りに取り組んできた現場のホームページ制作会社の出番です。

「みんビズ」を利用して制作したサイトの「転売」は禁止されていますが、「パートナー」としてコンテンツ作りや、サイト運営の助言者として中小企業に寄り添うことは可能です。そして制作業者と企業が、二人三脚で歩み出した時、本当の中小企業におけるホームページの活用が始まると期待しています。

懸念もあります。個人利用は不可で、ビジネスに特化しており、「簡単にできる」という誘惑にグーグルという世界的名声が加わります。すると、

みんビズでビジネスが変わる!

という書籍やセミナーが乱立する懸念です。そしてこんな都市伝説の誕生も心配材料です。

みんビズはグーグルが協力しているから、SEOのグーグルで有利

一般論で考えれば、我田引水は検索エンジンの信頼性を破壊しますし、グーグルという会社のマッドサイエンティスト的な技術やロジックへの信仰を見る限り「ありえない」のですが、知識や経験がない人にとっては十分説得力をもつ話で、「エセSEO屋」にとって魅力的なセールストークになりますのでご注意を。

今回のポイント

コンテンツ作りができる客は少ない

利用価値は高いが、過剰な期待は詐欺の餌食に

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